「聞いてくださいよ社さん!何度言っても男を警戒してくれないんです!キョーコは!!」
「…………またその話か…………」

聞き飽きた慣れたセリフを耳にした社は、この後の展開も予測がついてしまい、つい出そうになる溜息を何とか飲み込んで蓮を見やった。








ベストアドバイザーの道は斯くも厳しく








「――話を要約すると、『キョーコちゃんに想いを寄せる男の共演者やスタッフに対して警戒心の欠片も見せない彼女に注意を促したけど、いつもの如くてんで相手にされず理解もされずサラッと流されてしまってムカついたから、これまたいつもの如く胡散臭い笑顔を貼り付けて男≠フ危なさというかお前の嫉妬深さを体に教え込もうとしたところで逃げられた』ってことだな?」
色々と引っかかる部分はありますけど概ねそうです」
「………………お前、この前もその前もさらにその前も、同じ話したの覚えてるか?」

心底疲れた声と表情と態度で確認すると、蓮は「そうでしたか?」と首を傾げた。
本気で覚えてなさそうな蓮に、社は数分前には堪えた溜息を今度は堂々かつ思いっきりついて見せると、蓮はムッとした表情を浮かべる。

「覚えていなかったのは俺が悪いと思いますけど、人が真剣に相談しているのに、その態度はあんまりじゃないですか?」
「……俺だってな、できるだけ力になってやりたいと思ってたよ。キョーコちゃんの無警戒さは確かに問題だと思うし、お前も本気で悩んでるんだから」

でもなぁ、と額を押さえながら、社はしみじみとした声音で続ける。

「お前には迂闊なことは言えないって実感したからなぁ…」
「は?」
「……お前は忘れてるみたいだけどさ。『男に対して警戒心のないキョーコちゃんに警戒心を持たせるにはどうしたらいいか』って相談を初めてされたとき、冗談で『お前が身をもって教えたらわかってくれるかもなー』って言っちゃったんだよ……誓って言うけど、俺は冗談だったんだからな?――なのにお前、それを真に受けちゃった上に名案だって実行しちゃうし、し続けてるし」
「…………そうでしたか?」
「そうだったんだよ。ついでにそのセリフ二度目」

またしても首を傾げる蓮を、社はジトーっとした目で見据えた。
今は――というか、初めから自主的に指導≠行っていた蓮のことだ。そのきっかけが何だったのかなんて覚えていないだろうとは思っていたが、ここまでサッパリ忘れられていると、キョーコちゃんに悪いことをしたなぁ…、と良心の呵責に苛まれていた自分がバカバカしくなる。

さすがに気まずいのか、瞳を泳がせる蓮。
彼を真正面から見据えたまま、社は腕を組み、キッパリと告げた。

「とにかく、この件に関しては相談に応じないからな」
「そんなっ!」
「ずぇ〜〜〜〜〜たいに断るっ!!このことが原因で、奏江さんから厳重注意受けたんだからなっ!!」
「……そうなんですか?」
「そうなんだよっ!!!普段ケンカなんかしたことないのに、目を吊り上げて怒られたんだぞっ!?しかも『反省しなさい!』って、数日間連絡取れなくなってたし!!俺は嫌だぞ!またあんな目にあうのは!!いいなっ!?この件に関しては天地がひっくり返ろうが太陽が西から昇ろうが社長が普通着になろうが絶対に関わらない!!!!」

鬼気迫る表情で断言する社に、蓮は了承するしか道はなかった。












――あれから数日後。

「社さ〜〜んっ!蓮を何とかしてくださいぃ〜〜〜〜〜っ(涙)」
「………………いや、そう言われても……(汗)」

今度はキョーコに捕まっていた。



蓮のことでキョーコに相談(という名の泣きつき)をされたのは、別に今回が初めてではない。それこそ、二人が付き合い始める前からという、ある意味長いお付き合いだ。(それを言えば蓮もそうだが)
しかし、回を増すごとに内容がヘビーというかピンク色というか――土下座して謝るから俺以外のヤツに相談してください、と言いたくなるようなものになってきている。何が悲しくて、友人カップルの痴情の縺れを当人同士より知り尽くしてなきゃならんのか。

そんな本心はもちろん笑顔と涙の下に隠し、えぐえぐと涙ぐむキョーコを落ち着かせる。

「それで?今回は何されたの?」

「どうしたの?」ではなく「何されたの?」と訊いてしまうのは致し方ないだろう。キョーコも、もはやそこに違和感や疑問を抱くことはない。
だが、羞恥心はなくなるものではないらしい。真っ赤な顔でボソボソと告げた。

「ひ…人前で過剰なスキンシップをするんですぅ…////」


何を今更。


喉元まで出掛かっていた言葉を無理やり飲み込み、努めて冷静に確認する。

「……それ、今までだってされてたよね?」
「ですからっ、今まで以上なんですよっ/// こう、フェロモン全開で、腰とか首とか――ふ…とももとかを、つぅっと撫でるんですぅ〜〜〜っ////(涙)」


…………蓮…………お前、そのうち猥褻罪で訴えられるぞ。
そうなったら俺、犯罪者のマネージャー?


一瞬、思考が現実逃避に走ったが、全力で引きずり戻す。
LMEから犯罪者を出すわけにはいかない。何より、友人が犯罪者になるのは困る。
とりあえず、蓮を過剰なスキンシップに駆り立てている原因を探らなければならない。

「……え〜と……何でそんなことに?」
「わかりません〜〜〜っ(涙) ただ、『キョーコ自身をどうにかできないなら、牽制するしかないな』とか言ってましたけど……」

これ以上ないくらいよくわかった。わかってしまった。
と同時に、先日の自分の言動が悔やまれる。助言はせずとも、極端な結論に走らないよう釘をさしておけば良かった。

――まぁ、今更悔やんだところ仕方がない。
頭を切り替えた社は、キョーコに原因を説明し、解決策を授けたのだった。










――さらに数日後。

「社さん!!キョーコから聞きましたよ!彼女に『気心の知れた相手以外の男は蓮だと思って警戒するように』って言ったそうですね!?」
「ああ、言ったけど?効果なかったか?」
「ありましたよ!ええ、絶大に!!」
「なら良かったじゃないか。お前が過剰に牽制する必要もなくなって、キョーコちゃんも安心だ」

二人の悩みを同時に解決できた社は、ニコニコと機嫌よくそう言った。
が。

「良いわけないでしょう!?何で『俺と思って』なんです!?それで効果が出てるから複雑なんですよ俺は!」
「(自業自得だろうが)……あのなぁ……」
「何より!!!俺にまで警戒するようになったじゃないですかっ!!!何とかしてくださいっ!!!!



「そこまで面倒見れるわけないだろぉぉぉぉぉっ!!!!!」









社倖一・26歳。
某大物カップル専属アドバイザーの道を、不本意ながら順調に進んでいっている。











10万hit記念のキャラ投票、『相談したいキャラ編』でした★

またしても、社さんを苦労人にしてしまいました。
他にもマリアちゃんや椹さんも出す予定でしたが、社さんの胃が危険域に到達しそうだったので割愛(笑)