王様ゲーム





「よぉ〜〜し!今から王様ゲームをやるぞ〜〜〜」

にこにこ笑いながら――新開は楽しそうに宣言した。





蓮とキョーコ、奏江の三人は、新開が監督を務める映画に出演していた。
そして今日、クランクアップを迎えたのである。

新開に挨拶を済ませて帰ろうとしていた三人と社だが、「待て待て、これから打上げをするから君達も参加しなさい――というより、三人ともスケジュールが空いてる事は調査済みだから強制参加な♪」と、突然新開から誘われたのだ。(命じられたとも言う)
彼ら以外の参加者はスタッフ半数と数名の共演者であり、全員が撮影を通して仲良くなっていたため打上げはかなり盛り上がった。


そして宴もたけなわとなった頃――新開が「王様ゲームをやる」と言い出したのだった。





((((………監督……その歳で王様ゲームはないんじゃ……))))

この瞬間、参加者の大多数の心は一致した。決して声には出さず、そっと視線を外すところまで揃っている。
もちろん、違った反応を示す者もいた。王様ゲーム自体を知らない蓮はキョトンとし、知ってはいたがした事がない(尚のせいで友達がいなかったから)キョーコは嬉しそう、社は苦笑い、奏江は心底嫌そうな表情をしている。


だが、どんな反応をしても鶴(監督)の一声に逆らえるはずもなく、スタッフの一人が準備を始めた。キョーコは興味津津にその作業を近くまで行って見つめている。奏江はそれに付き合わされているようだ。
その様子を視界に収めながら、蓮は社に問いかけた。

「“王様ゲーム”ってどんなゲームですか?」
「え!?知らないのか!?」
「え、ええ……名前から何かの遊びだということはわかりますが…」

(………お前、本当に基本的な知識が抜けてるんだな……以前は携帯で調べてたらしいから、こうして訊いてくれるのは嬉しいけどさ)

少し照れくさそうにしている蓮を見て、社はつくづくそう思った。

「…あの、社さん?」
「あ、ごめんごめん。王様ゲームのルールだったっけ?えっと…割箸を人数分用意して、一本は“王様”、その他は1から順番に数字を書いたクジを作るんだ。それをみんなで引いた後『王様だーれだ?』とかの掛け声で“王様”を引いた人が名乗り出て、王様は『1番は2番のほっぺにキスをする』とか『3番は王様の肩を揉む』とかの命令ができる――ってルールだよ」

簡単にルールを説明すると、蓮は眉を顰めた。

「ルールはわかりましたが……それってキョーコが誰かにキスするって事ですか?」
「いや、キョーコちゃんって決まってる訳じゃ………まぁ、確率的に無いとは言えないけどね」
「そんな危険なゲームにキョーコを参加させるなんて……俺は反対です」
(危険なのか…?)そこまで心配する必要は無いと思うぞ?芸能人――しかも大物が三人も参加してるんだ。お前が心配するような命令は禁止になるだろ」
「そういうものですか?」
「じゃなきゃ、俺だって止めるさ。これでも“敦賀蓮”のマネージャーだし…奏江さんの事もあるし」

「全員集合〜〜〜始めるぞ〜〜〜〜」

クジができたらしい。
参加者がぞろぞろと集まる中、新開は一つ付け足した。

「わかってると思うけどセクハラ命令は禁止だ。万が一男同士でやる事になったら、俺が嫌だし。それ以外なら何でもあり。折角メイク道具や衣装もあるんだから有効に使えよ〜〜〜」


こうして、いい歳をした大人達によるちょっと変わった王様ゲームが始まった。





<新開の場合>

「お?俺が一番手か……んじゃ、13番が15番にメイクして」

「あ、私だ」
「キョーコちゃんが13番?じゃあ、いつもと立場が入れ替わっちゃうわね」


13番だったキョーコが名乗り出ると、メイク担当の女性が笑いながらそう言った。
初めは「本職相手にメイクするなんて…」と言っていたキョーコだが、元々好きな事なので作業をしている内にどうでも良くなったらしい。更に相手から「キョーコちゃん、上手ね〜〜。基本がちゃんとできてるわ」と言われ、終わったときにはご満悦だった。(ちなみに、キョーコのメイクはなかなか好評だった)


「楽しかった?」
「うんvたくさん道具があったけど、いつも見てたから大体わかったし」
「そうか…良かったね」(にっこり)
「うんvv」





<大道具係の場合>

「えっと…23番、台本の10頁から20頁の台詞を朗読して下さい」

「ろ、朗読!?」
「社さん、23番なんですか?」
「…………うん」


当たったのは社。朗読なんて小学校以来な上に役者の前でそれをしなくてはならず、思いっきり顔を引き攣らせている。
だが、命令は命令。しぶしぶと前に出て、照れながら読み続けた。その様があまりにも可愛かったため、女性から黄色い声がしばしば飛んだりもしている。


終えて戻って来た社は、赤くなった顔に手を添えて三人を見た。

「……三人とも、いつもこれ以上の事をしてるのか……尊敬するよ、ほんと。俺には無理だもんな」
「私達は役者だもの。倖一さんは私達ができないマネージャー業を完璧にこなしてるんだから、それでいいじゃない」
「…そうだね……ありがとう!」
「べ、別に…////」




<スタイリストの場合>

「1番の人、衣装の中から異性の服を着て下さーい」

「何でそんな命令なのよ…」
「え!?モー子さんが1番!?」
「奏江さんの男装…」
「社さん社さん。戻ってきて下さい」


奏江は深い溜息を吐きながらも、命令に従う。キョーコと社はわくわくしながら彼女を待った。
数分後、一同の前に現れた奏江。白いスーツを纏い、軽く髪を流している姿はまさしく“男装の麗人”。再び女性から黄色い声が上がる。


「モー子さん、素敵〜〜〜vv」
「やっぱり美人は何着ても似合うんだなぁ♪」
「ちょ…止めてよねっ///」

「琴南さん…キョーコは渡さないから」
「…………瞳が本気ですよ…?」
「そう?」(キュラ☆)




<社の場合>

「5番の人、6番の人の肩揉みを一分間お願いします」

「5番が俺で…」
「6番が俺♪って事でヨロシク!」


社が「しまった…寄りによってこの二人か……」という表情で見つめる中、蓮は新開の肩を適度な強さで解(ほぐ)した。


「お?結構上手いねェ」
「それはどうも」
「でも、どうせなら女の子が良かったな。男にされても嬉しくない」
「……………………」
「できればキョーコちゃイタタタタタタッッ!!」
「随分凝ってるみたいですね。精一杯役目を果たさせていただきますよ」
「だから痛いって!!冗談くらい流せっ」

「…………やっぱり人選ミスだったな」
「不可抗力でしょ…」
「〜〜〜〜〜っ////」





ゲームを始めて一時間が過ぎた頃、最後のクジ引きとなった。

「さぁて…栄誉ある最後の王様は誰だー?」
「――俺です」
「ほぉ…最後の最後できたか。良かったな」

新開はそう言ったが、蓮としてはむしろそのまま終わって欲しかった。

(こういうの苦手なんだけどな…面倒だし、誰かのと同じ命令にすればいいか)

「それじゃあ…16番の人」
「え!?」

「16番」と言った瞬間、小さな声が聞こえた。
恐らく誰も気づかなかっただろうが……蓮の耳にはしっかり届いている。

(まったく…命令を言われる前に気づかれてどうするんだ?)

心の中で苦笑する。
しかし、こうなると困るのは命令内容。キョーコの番号がわかったからには有益に使いたい。

(……さて、どうしようか?誰かと組ませるなんて論外だし、何かしてもらうにも――禁止されてるし)

「おーい、まだかぁ?」
「あ…すみません。じゃあ――16番の人。口紅を塗らせてもらえるかな?」

新開にせっつかれ、蓮はちょうど思いついた命令を口にした。

「く、口紅?」
「おや?キョーコちゃんが16番?なら、このチェリーピンクがいいね」

白々しく答える蓮。
とは言っても、ほとんどの人は気づいていない。彼の白々しさに気づいているのは社と奏江、新開、そして――キョーコだけだった。







「う゛〜〜〜//// 恥ずかしかったっ」

帰りの車の中、キョーコは「恥ずかしい」を繰り返していた。


あの後、蓮はそ知らぬ顔でチェリーピンクの口紅を借り、恥ずかしがるキョーコに「ルール上問題ないだろう?」と言って彼女の唇を彩った。
男性に口紅を塗られるというのは――かなりドキドキする。しかも大勢の前でとなると恥ずかしさも倍増だ。

だが、見ていたギャラリーの方がもっと照れていた事をキョーコは知らない。

蓮がキョーコに口紅をさす姿は……一枚の絵の如く美しかった。
口笛を吹いていた新開を除けば、全員が赤面する程に。


「絶対私だとわかってて言ったんだわ…」
「当然。キョーコ以外にあんな命令をする訳ないだろう?」
「……私相手でも止めて欲しいんだけど…………まぁ、あれだけで済んだんだから良かった方なのかな…?」

キョーコがそう言った直後、蓮は車を静かに停めた。

「――本当に、あれだけだと思う?」
「え?」
「どうして俺があんな命令をしたか……わからない?」







蓮の行動が「男性が女性に服を贈るのはそれを脱がせるため」に基づいたものだった事をキョーコが理解したのは……彼の温もりが離れて、車が発進した後だった。











5万hit記念のアンケートで第3位だった『王様ゲーム』でした☆
ちなみにほのぼの風味v

蓮キョは最後だけだし社奏は入ってるし……しかもこれ、本当に【ほのぼの】ですか…?いや、前半は間違いなく【ほのぼの】だと思うんですけど…最後はアレですからね( ̄  ̄;)
蓮様は食事と同様、命令内容も考えるのが面倒で誰かと同じものにしようとしますが……キョーコちゃんが相手だといくらでも考えるらしい(笑)


こんなのでも、一応宣言通りフリーです。煮るなり焼くなり、どうぞご自由にvv