争奪戦





「俺にはキョーコが必要なんだよね」
「そうですか。私もです」

「認めたくはねーが、俺も今だけは必要なんだよ!」

「悪いけど、他を当たってくれないかな?俺の『恋人』はキョーコだけだから」
「無理です。私の『親友』もキョーコだけなので」

「待てよ!俺の『幼馴染み』もアイツだけだ!!」

「親友が一人だけだなんて、問題じゃない?俺の場合は『キョーコだけ』という事に意味があるけど」
「親友は一人ですが、友人ならそれなりにいます。誰に対しても平等すぎて友人すらほとんどいないあなたにだけは言われたくありませんね」

「お前ら!!この俺を無視すんなっっ」

「何とでも。俺はキョーコさえいればそれで満足だからね」
「……そういう事を臆面もなく言えるトコロは凄いと思います」


「人の話を聴けぇぇぇぇぇぇっっ(怒)」
「「うるさい。」」







キョーコは目の前で繰り広げられるこれらの会話に、頭痛を感じ始めていた。

「……どうしてこんな事に…」
「お姉様…大丈夫?」
「大丈夫なような大丈夫じゃないような…」
「ごめんよ、キョーコちゃん……どっちも止める事ができなくて……」
「…いえ、それはいいんです。下手に口出ししたら………………ああなりますし
「………不破ってチャレンジャーだよなぁ」
「あら?この場合は『無謀』じゃなくて?」
「ふふっ、そうねv」

(……二人とも…そこは笑顔で言うところじゃないよ…………哀れ、不破)

蓮と奏江を敵に回しただけでなく、キョーコとマリアにまでボロクソに言われる尚に、社は心の中で合掌した。







今日はLME主催の「事務所対抗・春の芸能人スポーツ大会」。
その名の通り事務所別に(規模の小さい所はいくつか集まって)チームを作り、二十歳前後の芸能人を色んな競技に出場させることになっている。

午前の部では100m走や障害物、リレー等が行われ、楽しく進められていた。
……一部LMEの看板俳優に対抗意識を燃やし、ヒートアップしていたが。
(その全てにおいて敗北していたのは余談である)

昼食もバイキング式で用意されており、キョーコは奏江と一緒に、蓮、社、マリアにバランス良く取り分け、楽しく食事した。
……甲斐甲斐しく偏食児童の世話をする家庭的な女性二人に「…俺にはしてくれないんだ?」(キュラリ☆)とか「……いいなぁ」(チラリ)とかしていた大人気ない男性二人の存在が“楽しい”のかどうかはさておく。
(遠くの方から「イチャつくなーーーー!!」という声が聞こえたのも余談である)


午後の部も初めのうちはとても和やかだった。
――この「借り競争」が始まるまでは。







「お姉様も災難よね〜〜〜ちょうど三人の借り者に当てはまるなんて」
「ええ、本当に…(涙)」
「せめて『借り者の重複は認めない』ってルールがなければ、一緒にゴールできたのにね。どっちも譲らないせいで競技止まってるし」
「―――大体おかしいわ!『主任』とか『マネージャー』とかはわかるけど、あの三つは相手がここに居るとは限らないじゃない!!」

至極真っ当な意見を言うキョーコ。
マリアは口元に指を当て、思い出すように言葉を紡いだ。

「確か…五枚だけ困りそうなものを入れてるって言ってたわ」
「…………それって、もしかしなくても社長が?」
「……情報提供は椹のおじさまだから、間違いなくおじい様でしょうね……」
「『借り物』を『借り者』にしただけじゃ満足しなかったんだな…」

ちょっと恥ずかしそうに俯くマリアと遠い目をする社を余所に、キョーコは深い溜息をついた。

(――経緯はどうであれ、五枚のうち三枚も出てきたんでしょ?しかも全部私が対象だなんて……………ふふ……どこまで運がないのかしら……)

ある意味凄い運なのだが、キョーコには不運でしかなかった。


しかし、どれだけ自分の不運さを呪っても状況は変わらない。
そこで、キョーコは前向きになることにした。

(…………粘り勝ちする人はわかってるし、気楽に傍観しよっと)





「さっきから何なんだ!お前ら、俺をバカにしてんのか!?」
「バカにしてるつもりはないけど?」
「眼中にないだけよ」
「なにぃぃぃぃっ!?」

……二人の口撃はまだ続いていたようだ。

「――うるさいから一々叫ばないでくれ。目障りな上に耳障りだ」
「誰が目障りで耳障りだっっ」
「あなたよ、あ・な・た」
「〜〜〜〜〜っ」
「大体、君はアカトキの人間だろう?」
「アカトキの陣営はあっちよ」
「ンなこたぁわかってる!!ただキョーコを借りに来ただけだ!こっちはお前らと違って相手を変えられねーからな!!」

ピク。×2

自爆王・不破松太郎。
二人の逆鱗に触れた瞬間である。


「「「……やっちゃった」」」

見事にハモる三人の声から「ご愁傷様」という言葉が聞こえてきそうだ。
――彼には届かなかったが。


尚は平静を装っているものの、蓮と奏江から危険なオーラを感じ取っており、後退りたい気持ちを何とか抑えつけている状態だった。

(こ、こいつら…キョーコと同じ殺気を!?つーか人相変わりすぎだろ!!)

……今…何か言ったか?
(目っ!目だけで人が殺せるぞお前!!!)
な、何だよ!本当の事だろーが!!」
……つまり、あなたは恋人親友もコロコロ変えられる最低人間って事ね?
(女優がそんな顔していいのか!?鬼のようだぞっっ)
――って、何だと!?」
「彼女の言う通りだな。その調子で『幼馴染み』もサクッと変えればいい」
「できるかぁぁぁぁぁっ!!!」
「「やれ。」」


蓮達の会話を聞いていたマリアは、嬉しそうにキョーコの手を引いた。

「お姉様!これで一人減ったわねv」
「……それは違うわ、マリアちゃん」

キョーコがふるふると首を振って否定すると、マリアは首を傾げた。

「え〜〜〜?どうして?」
「最初からあのバカは相手にされてなかったもの」
「あ、それもそうね」
「でしょう?私も協力する気なかったし」


「――キョーコもああ言ってる事だし、諦めたらどう?」
「………っっ……」
「琴南さん。時間の無駄だから放っておかないか?早くしないとそろそろ失格になるよ?」
「……そうですね」

尚のことは完全に意識外に追いやり、二人は審判に視線を向けた。
よく待ってくれた方だと思うが、そろそろ限界らしい。しきりに時計を気にしている。

奏江は少し考えた後、小さく溜息をついた。

「……琴南さん?」
「このまま二人揃って失格になるのもどうかと思いますし…今回は譲ります。
――ただし、貸し一つですからね?」
「…わかった。君のオフに合わせて代マネを雇うよ」
「…………意地でもキョーコを譲らない辺り、敦賀さんですよね」
「褒め言葉として受け取っておくよ。―――キョーコ?」

交渉成立した蓮は、輝かんばかりの笑顔をキョーコに向けた。
キョーコは予想通りの結末に苦笑した後、奏江に向かって微笑みかける。

「良かったわね〜モー子さんv」
「?」
「かえって得したじゃないvv」
「〜〜〜〜うるさいっ/// 早くゴールして来なさいよ!!!」
「はーい、行ってきまーす♪」

顔を真っ赤にして怒鳴る奏江から逃げるように、キョーコは蓮の元へ駆け寄った。

「思いっきり目立ってた上に最後になったわよ?いつもは大人なのに大人気ない争いをしていた敦賀さん?」
「………キョーコ……」
「冗談よ、冗談v」
「…冗談には聞こえなかったけどね……――それでは、お手をどうぞ?」

(…………どうしてこう…気障な事を普通にするのかしら?……慣れたけど)

蓮の行動に多少呆れながらも、差し伸べられた手に自分の手を重ねる。その手は、しっかりと握り締められた。

「それじゃあ、走るよ」
「コンパスの差がある事、忘れないでね?」
「……了解」









一騒動あったものの、「事務所対抗・春の芸能人スポーツ大会」はLMEの優勝で無事終了した。

閉会式までの間、蓮とキョーコがマリアから「ゴールまで一緒に走る二人はとても絵になっていた」と言われ続けたことや、早速次のオフの予定を組む社と奏江がいたことは――彼らの周りで座っていた人間だけが知っている。









〜おまけ〜

「ア、アイツら…本気でこの俺を無視しやがったな…っ」
「しょ、尚…?」
「この俺が失格だと…っ!?」
「お、落ち着いて〜〜〜っ!『不破尚』のイメージがあるのよ〜〜〜〜っ(涙)」
「この後の競技は絶対に負けねーーーーーー!!!!」


その決意虚しく、某俳優に尽く勝利をもぎ取られた事実は――彼の封印したい記憶トップ10に入ったそうな。











5万hit記念のアンケート第2位、『蓮・尚・奏江でキョーコ争奪戦』でしたv
何のひねりもなく、蓮様の勝ちで☆

それにしても、「争奪戦」からどうして「借り物(借り者)競争」になったのか……いや、ドロドロな三つ巴が書けない管理人のせいですが。
というか、こんなのをフリーにする管理人の図太さが一番ダメです。


ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!