……誰でもいいです。
俺に心休まる日々を下さい(涙)
「最強」とはつまるところ「最恐」
人気作家の飛鳥碧さん――本名は明日香さんで、キョーコちゃんの叔母さんだけど――は、実に人当たりがいい。どれくらい人当たりがいいかというと、誰に対しても平等に笑顔で接してくれるし、監督や役者が多少無茶な要求をしても、それが理に適ったことなら快く引き受けてくれるし、現場に顔を出したときは必ず何か差し入れを持ってきてくれる。
おまけに美人でプロポーションが抜群だから、脚本家としてこの業界に入ったのはそう昔のことじゃないのに、今や彼女を知らない業界人はモグリとされる程有名だ。
しかし、だ。
彼女とよく似た評価をされている役者が身近にいる俺は、もしかしたら彼女も裏の顔を持ってるんじゃ…、と思っていた。その予想は見事当たっていたわけだけど――
まさかここまで凄い裏の顔を持っていたとは思いませんでした。
〜社は見た!衝撃の一幕 その@〜
「うふふふふv 貴方たち、ナ〜ニをしようとしてたのかしらぁ?」
「べ、別に何も……」
「へぇ〜?じゃあ、後ろに隠してあるキョーちゃんのバッグは何なのかしら?」
「「!?」」
「な、何でそれをっ!?」
「何でって、貴方たちがこの角を曲がるときにチラッと見えたからよ」
「嘘よ!だって、近くには誰もいなかったわ!!」
「確かに近くではなかったわね。ちょうど反対側の角を曲がったときだったから」
「「「は!?」」」
……あの、明日香さん。ココとソコだと、ざっと200mはありますが。
どんなに視力が良くても、普通はチラッと見ただけじゃ誰のバッグかなんてわかりません。
「で?何をしようとしてたのかしら?――ま、大体予測はつくけど。どうせ蓮君がやたらとキョーちゃんに構うのが気に食わなくて、あの子に嫌がらせしようとしてたんでしょ?」
「「「っ!」」」
「……はぁ、やっぱりなわけね………………今回は見逃してあげるわ。初犯だし、未遂だし」
…………未遂はともかく、初犯って……まさか、キョーコちゃんに何かしでかした人間の顔全部覚えてるのか……?
「――ただし、今度見かけたら……」
「「「ひっ!!!ご、ごめんなさい!!!もう二度としませんっ!!!!」」」(全力で逃走)
………………あの子達、悪魔にでも遭遇したかのような顔で青ざめてたけど……明日香さん、どんな顔で脅した忠告したんだろう?……(想像中)……猛烈に彼女の顔が見えない位置で良かったと思うよ、うん。
それにしても、あの明日香さんが、例え初犯で未遂とはいえ、よくキョーコちゃんに嫌がらせをしようとした子達を見逃し――
「――何言ってるのかしら。『もう二度としない』も何も、『今度見かけたら』って予告したでしょうに。ま、あの程度の子達が長々と生き残れるような業界じゃないし、二度と会わずに終わるかもしれないわね。…………ちっ!やっぱり今制裁食らわせておくべきだったわ……」
……この階段使って降りようとしたこと、死ヌほど後悔しました。
〜社は見た!衝撃の一幕 そのA〜
「敦賀さん。今日こそはキョーコをお借りします」
「あははははは。ダメだよ、琴南さん。キョーコは俺のものだから」
「心の狭い男は嫌われますよ?」
「心配無用だよ。キョーコは今の俺を好きになってくれたんだから。それより、親友にばかり感けてると恋人が離れていっちゃうよ?」
「大丈夫です。倖一さんは誰かさんのように心が狭くありませんから」
……まぁ、ね。確かに、そんなことで奏江さんから気持ちが離れるわけないけど。
ちょっとキョーコちゃんが羨ましいなぁ。
「あ、あの、二人とも落ち着いて……」
「ほら、キョーコが困ってるじゃないですか。ここは大人なとこを見せて引き下がったらどうですか?」
「いや、君が引くべきじゃないか?この後は社さんもオフなんだから、久々にデートでもすればいい」
「キョーコとは倖一さんとのデート以上に出掛けてないんです。倖一さんには夜会いに行きますから」
……奏江さん。嬉しいけど悲しいよ。
「悪いけど、俺も譲れないんだ。最近、キョーコとゆっくり過ごせていな――」
「あ、キョーちゃん見っけ!これからオフよね?この前いいお店見つけたから、一緒にご飯食べましょv」
「へ?」
「じゃーまたね、蓮君、奏ちゃんvv」(バタン)
「「……………………」」
す、素早い……現れてキョーコちゃんを連れ出すまで10秒もなかったよな?
「またやられた……!」
「――『また』ということは、いつも明日香さんにキョーコのオフを…?」
「……いつもは俺の知らないうちにキョーコと約束して連れて行くんだけどね。ご丁寧にその日のキョーコの様子を事細かにメールしてくるし」
れ、蓮!目だけじゃなく顔も笑ってない!
奏江さん!いつもは艶やかに見える紅い唇が今はとても恐ろしい!!
「ねえ琴南さん」
「何です敦賀さん」
「まずは明日香さんからキョーコを奪わないといけないと思わないか?」
「そうですね。ここはお互い協力するべきです。どちらがキョーコと過ごすかは交代制ということにしませんか?」
「仕方ないな。それでいこう」
「それにしても、今のこの怒りはどこにぶつけたらいいんでしょうね?」
「奇遇だね。俺もそれを考えていたとこだよ」
……明日香さん。
貴方は幸せな時間を過ごしているかもしれませんが、そのせいで俺は恐ろしい時間を過ごすことになってます。
〜社は見た!衝撃の一幕 そのB〜
「げ、明日「誰に向かって『げ』なんて言ってるのかしらこのヴォケ。そもそもそれは私の台詞だわ。何でアンタなんかと遭遇しなきゃいけないのよ。あーヤダヤダ、今日一日憂鬱だわ不幸の日だわ運勢最悪だわ厄日だわ」
「そこまで言うか!?」
「何言ってるのよ。私の今の気分はこの程度の言葉では言い表せない程に下降中なの」
「お、お前な…(怒)」
「(スルー)そういえばアンタ、この前キョーちゃんに電話したらしいわね?」
「なっ!?な、そ、お」
「『何でそれをお前が知ってる』?そんなの企業秘密よ。それに問題はソコじゃないわ。アンタがキョーちゃんに電話したという事実よ」
……いえ、どう考えても問題は明日香さんの情報網の恐ろしさだと思います。
というか、何で俺、こんな場面に出くわしちゃったんだろう…(涙) 一番見たくない(=見るのが恐ろしい)場面じゃないか……
「いや、あれは――」
「まさか今頃になってキョーちゃんが気になりだしたとか言わないわよね?言いやがったらシメるわよ?大体、キョーちゃんにはアンタなんか足元にも及ばない恋人がいるんだし。あ、『抱かれたい男』ランキングと『芸能界一いい男』ランキングで、またしても蓮君に負けてたわね〜♪愉快痛快だわ〜ホントv」
……本当に楽しそうですネ。
「うっせーよ!!(怒) そもそもそんな理由で電話したんじゃねーし!!」
「うん、知ってる。」(サラリ)
「待て待て待てーーーーーー!!!」
「(やっぱりスルー)どんな理由があってもアンタがキョーちゃんに電話したことが気に食わないのよね。てか、キョーちゃんの番号を登録すんなこの野郎。抹消しなさい抹消」
「はぁ!?何でンなことしなきゃ――」
「キョーちゃんの番号を抹消するか本名を全国ネットでバラされるか好きな方を選びなさい。」
「き、汚ねーぞ!!」
「10、9、8」
「もうカウントダウンか!?」
「そうそう。本名バレを選んだ場合、もれなく好きなデザートと好きなTVジャンルも公表するからv」
「鬼かお前!!!!」
――ここは無難に立ち去ろう。
フフ……考えてみれば俺、明日香さんと親しくなってからというもの、彼女の裏の顔ばかり見てる気がするよ。――いや、アレは地だから表の顔なのか?
まあそれはともかく、そろそろ平穏な日々が懐かしいんだけど。
ただでさえ明日香さん関連の衝撃場面に遭遇しやすいっていうのに、蓮とキョーコちゃんが付き合い始めてからは二人の腹黒対決キョーコちゃん争奪戦が度々勃発するし……アレ、どっちが勝っても大変なんだよな、俺が。明日香さんが勝つとすっっっっっごく不機嫌な蓮に送ってもらうことになるし、蓮が勝つとかなり素敵な笑顔の明日香さんに蓮のスケジュール調整(もちろんキョーコちゃんのオフ日に仕事を入れるように)させられるし。
…………ん?
よく考えたら蓮が勝つときって、明日香さんがさり気なく自分に不利な状況を作ってなかったか?仕事があるってことを匂わせたり担当の人からの電話に出たり。しかもキョーコちゃんの話によると、蓮と過ごしたいと思ってるときは絶対に蓮が勝つらしいし。
……………………まさか、わざとか?あくまでキョーコちゃんの気持ち優先で、キョーコちゃん争奪戦の勝敗をコントロールしてる、なんてこと……
あり得る!!あの人ならあり得るって!!!
俺達みんな明日香さんの掌でゴロゴロ!?
恐っ!!いや前から恐いと思ってたけど改めてメッチャ恐っ!!!
俺、今まで社長が色んな意味で最強だと思ってたけど――
貴方が最恐です、明日香さん。
10万hit記念のキャラ投票、『最強キャラ編』でしたv
どのように明日香さんの最強ぶりを書こうか迷ったんですけど(尚君を苛め倒すか蓮様をからかい倒すか)、今回は社さん視点で書かせていただきました。
どの辺が最強なのか微妙な気もしますが、少しでも明日香さんの腹黒さをアピールできたら幸いです(笑)
※社さん視点ということで状況描写がほとんどありませんでしたので、ここで少し補足を。
・その@
状況的に、本誌の「ラブストーリーは突然に」編で蓮様が尚君とキョーコちゃんの会話を盗み聞きしたときみたいな感じです。
・そのA
蓮様、キョーコちゃん、モー子さんは午前だけ仕事で、午後からのオフを一緒に過ごそうとキョーコちゃんの控え室に行ったところでバトル開始。
・そのB
明日香さんと尚君が鉢合わせたのは角の近くで、二人からは見えない位置に社さん。
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