――何も知らなかった、あの頃
――僕がいて、アスランがいて、姉さんがいて
――いつまでもずっと一緒にいられると、疑いもしなかった僕たち





――それは、もう二度と手に入らない過去








別れの日








C.E.68――二人の少年が、13歳の春。
4歳の頃から一緒にいた彼らに、突然の別れがやってきた――








「――キラ」
「…アスラン」

ピンク色の花――桜の花びらが風に吹かれて、少年達の髪や肩にハラハラと降っている。

「…これ」

濃紺の髪、翡翠の瞳を持つ少年――アスランは掌を差し出した。
その上には、メタリックグリーンの小さなロボット鳥が乗っている。

「アスランっ!?」

栗色の髪、紫水晶の瞳を持つ少年――キラが驚いたように顔を上げると、アスランは少し笑った。

「――首傾げて鳴いて、肩に乗って、飛ぶよ?」
「ぁ…」

それは、以前キラが「作れたら可愛いだろうなぁ」とアスランに言った言葉だった。
"小さくて、掌や肩に乗って、首傾げて鳴いて飛ぶロボット鳥"――マイクロユニット制作の得意な彼でも、簡単じゃないと言っていたペットロボット。

ぼんやりと手を差し出すと、そのロボット鳥はキラの掌にチョコンと移り、首を傾げた。


<――トリィ?>


キラは、ますます驚いた顔になる。
そして……今にも泣きそうな顔になり、アスランを見つめた。

「――本当に戦争になるなんてことはないよ。プラントと地球で。だから、避難なんて意味ないと思うけど…」

キラの泣き顔は見たくなかったのだろう。アスランは彼を宥めるように、優しく微笑みながらそう言った。これが最後ではないのだと。
それでもまだ泣きそうなキラに、アスランは「キラもそのうち、プラントに来るんだろ?」と続けた。

キラは答えなかった。

否定をするつもりはない。キラも、そうなると思っていた。今はほんの少しだけ離れることになるけれど、すぐにまた会える。そうすれば、今までのように一緒に遊ぶこともできる。
ただ、「うん」と言ってしまうと、せっかくアスランが泣かせないように話しかけてくれているのに、泣いてしまいそうだったのだ。それは恥ずかしいし、何よりアスランに悪い。

キラが必死に涙を堪えていたとき、「キラ、アスラン」と彼らを呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、そこには漆黒の髪、金と蒼の瞳を持つ女性――ミズキがそっと立っていた。

「姉さん…」
「――もう、いいですか?」
「…………うん」
「……ええ」

名残惜しそうに互いを見詰め合う二人を、ミズキは哀しげな微笑を浮かべて見守った。できればもっと一緒にいさせてやりたいが、アスランが乗るシャトルの時間が近づいている。レノアとカリダに無理を言って連れ出したのだから、遅れるようなことはできない。

「…………なら、帰りましょうか」
「「……わかった」」





桜並木を三人で手を繋いで歩く。
ミズキの右手をキラが、左手をアスランが握るのは、昔からの決まりごとのようなものだ。最近は少年らが恥ずかしがり、手を握ったりはしなくなっていたが。

「今日で、こうして歩くこともできなくなりますね…」
「キラやミズキ姉さんがプラントに来れば、また歩けるよ」
「……………恥ずかしいけどね」
「はは、確かにな」

ミズキを挟んで、少年達は笑った。

「だからさ、そんな悲しそうな顔する必要ないよ」
「――そう、ですね…たとえ遠く離れても、また会える日を楽しみにしていれば……寂しくはないかもしれませんね」
「うん!」
「そのときは、また三人で過ごそう」
「……ええ……いつか…きっと…――」


彼女の言葉の真意――「また会う日」が「ヤマト家もプラントに移住する日」ではないこと――を知らぬまま、少年らは約束をした。いつか叶うであろう、再会の日を。








――――三年後の運命を、彼らはまだ知らなかった……











こんなとこから半分捏造してるし…_| ̄|○i|||i
しかも残り半分はドラマCD vol.1、2のネタだしね! ←開き直り

オリキャラ・ミズキ。今回はキラとアスラン、二人との関係を軽く紹介した感じです。
彼女はキラ達と違い、アスランとは長く逢えなくなる事に気づいています。戦争が起こるであろう事、ヤマト家はプラントに行けない事、など。



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