灯り・光





社さんと別れた後、次に向かうのは住み慣れたマンション。



ただ、眠るためだけに用意した部屋。
あるのは必要最低限の家具とインテリア、そして嗜みに揃えてあるアルコールの数々。
あとは、俺の食生活を心配して社さんが買い置きしていく食材。

ほとんど主のいない部屋は暗くて、とても静かだ。
そのことを寂しいとも、不満とも思っていない。







――そこまで考えて、フッと自嘲の笑みをこぼす。

(もう……そんな風には思えないか)

運転席から目に入ったマンションの一室。
そこにあるのは以前のような夜の闇を映した暗さではなく、温かさを思わせる優しい灯り。
それを見た瞬間、まるで心の中まで灯されたような感覚になる。そして、知らず知らずのうちに自嘲の笑みから柔らかい――慈しむような微笑へと変わる。


きっと彼女は、食の細い自分のためにその腕をふるって滋養のある料理を作ってくれている。
仕事で疲れた身体を休めさせるため、帰り着く時間に合わせて湯船の用意をしてくれている。

そして――何より玄関を開けた瞬間、零れんばかりの笑顔で迎えてくれるだろう。
その光景がありありと脳裏に浮かび、微笑みは深さを増す。







そんなことを考えているうちに、マンションに辿り着く。駐車場に車を停め、無意識に足を速めて部屋へと向かった。
部屋の前まで来ると、持っている鍵は使わずにチャイムを鳴らす。すると、

「お帰りなさい!」
「ただいま、キョーコ」

予想に違わず、華のような笑顔で迎え入れてくれた。
あまりにも想像通りのその様子に、思わず声が漏れたらしい。キョーコは不思議そうに俺を見つめてくる。

「どうしたの?」
「いや、キョーコがあまりにもカワイイ顔をするから」
「ちょっ……恥ずかしげもなくそんなセリフを言わないで!」

見事に赤面させた顔で上目遣いにそう言ってくるキョーコに、ますます心の中が温かくなる。
こんな風に俺の心を灯すことができるのは、キョーコだけだ。

「ひどいな、正直な気持ちを伝えているだけなのに」
「っ……もういい!早く中に入って、風邪を引くわよ」
「はいはい」
「うわなにその投げ遣りな返事っ」
「ん?別に?」
「れ〜〜ん〜〜?ご飯、いらないのね?」
「ゴメンナサイ、食べたいです」

拗ねて本当に料理を下げてしまいそうな彼女に、即座に返事を返す。
他の料理ならいざ知らず、せっかくキョーコが作ってくれた愛情料理を食べられないのは非常に困る。


俺の慌てた様子が可笑しかったのか、クスクス笑いながら機嫌を直すキョーコ。
――ちょっと悔しい。


「……でもね、キョーコ」
「なぁに?」

無邪気に聞き返してくる彼女ににっこり笑いながら一言。





「俺が本当に食べたいのは、キョーコ自身なんだけど?」











ザーーーーーーーー(*´д`*) ←砂吐き中

あ、甘々?これ、甘々ですか……?
ていうか、管理人ほのぼのと甘々の境界がわかりませんっ! ←問題だろそれは

お題の『灯り・光』は、マンションの灯りと待ってくれているキョーコちゃんのことを掛けてみたつもりです。どうでしょうか……?

読んでくださった方、ありがとうございました!