写真





蓮とキョーコが念願の恋人となってからの、ある日のこと――










<敦賀蓮の場合>

「……蓮」
「何ですか?」
「……非常に言いにくいんだけどさ、一つだけいいか?」
「どうしたんです?改まって。社さんらしくないですよ。どうぞ言ってください」
(改まったら俺らしくないのか?)
お前が今、何を見てそんな顔をしてるのかはというほどわかっている……けどな?頼むから他でしてくれ


二人がいるのは、蓮が主役を演じるドラマの撮影現場。そして、今はほんの僅かな休憩時である。
今までならその時間も惜しんで、台本を頭に入れ直すため一人どこかへ行っていた蓮だが、最近は現場に留まり、ひたすら携帯を見ていることが多い。
今もまた、携帯を片手にその画面を見ていたところだ。

「どんな顔ですか。それに、どうしてここじゃダメなんです?社さん、また携帯壊れてるんでしょう?前は携帯使えないときにフラフラするなって言っていたじゃないですか」
またを強調するな。仕方ないだろ、奏江さんからの電話に慌てて出ちゃったんだから」
「……どうしてそれで携帯を壊せるのか不思議なんですが」
「それは俺が聞きたいよ。
――確かに、以前はお前が徘徊する度に「徘徊って…」探さなくちゃいけないからそう言ったさ。でもな、今は俺だけが苦労する方が何倍もマシだよ。見ろ、この惨状を

そう言って指し示したのは各スタッフが休憩している場所。
社に言われるまで気付かなかったが、女性という女性すべてが倒れ、男性スタッフはその救護に奔走している。


その現状に驚いた蓮は、目を丸くして問い掛けた。

「……一体何があったんですか?」
「お前のせいだお前の」
「俺の?……俺は何もしてませんよ」
「お前、さっきまで写メールで撮ったキョーコちゃんを見てただろ。そのときの女性がとろけんばかりの笑顔のせいだよ」


そう。蓮は社に声を掛けられるまで、携帯の中にいる愛しいキョーコの写真を見ていた。
笑っている顔や少しむくれた顔、料理をしている後姿から無邪気に眠っている姿まで、付き合い始めてから携帯に収めたありとあらゆるコレクションの数々を休憩中に眺めることが、最近の蓮のライフスタイルである。
もちろん、その間女性が倒れて当然の微笑みを浮かべていることは言うまでもない。

そのことを熟知している悲しきマネージャーは、蓮の表情が女性スタッフに見られないよう陰ながら努力をしていた。蓮とスタッフの間に立ち塞がったり女性の密度が低い場所で休ませたり、むしろ休憩させなかったりして。(最後はどうかと思われるが)


しかし、今日に限ってはそれができなかった。なぜなら主任と連絡を取るため現場を離れていた間に、蓮が休憩に入ってしまったからである。
社が戻ってきたときにはもう、この惨状が出来上がっていた。



そして、最初の会話となる。



どこまでも正しい社の言い分だが、蓮には全く通じていない。

「……確かにキョーコの写真は見てましたけど、だからってそれだけでこうはならないでしょう?」
「(まだ言うかこの天然タラシは!)あのなぁ、れ」
「まぁ、どうでもいいですけど。この分だと撮影開始まで時間かかりそうだし、それだけキョーコの姿を見ていられますからね」
「結局はそこか」














<最上キョーコの場合>

「……キョーコ」
「なぁに?」
「……盛り上がっているところ悪いんだけど、いいかしら?」
「ど、どうしたの!?モー子さんが改まるなんて……天変地異の前触れ!?
どういう意味よ。「ごめんなさい。」
……まぁ、それはあとでキッチリ聞くとして「聞くのね。」あんたが惚気るのは今に始まったことじゃないって、よくわかってるわ……けどね?お願いだから後にしてちょうだい」


ツナギコンビは今、ラブミー部への依頼でクイーンレコードのプロモ撮影をしていた。
あの天使と悪魔のプロモーションはすこぶる評判が良く、別バージョンの希望が殺到したため、評判の中心であるキョーコと、都合の合わなかった美森の代わりとして奏江にオファーが来たのである。
そして今は、撮影開始前のひと時。


「どうして今はダメなの?むしろ今だからこそ意味があるんだけど?……あ、わかったわ。モー子さん、妬いてるんでしょ?社さんと連絡取れないから
あんたと一緒にしないで。
それに、それは仕方ないのよ。私がいきなり電話したから、倖一さんゴム手袋なしで携帯に触っちゃったんだもの」
「……相変わらず凄まじいクラッシャーなのね」
「ええ、これでもう何台目かしら?
――て、今はそんなことどうでもいいのよ。気付いてないとは言わせないわよ、あの、怒りのオーラに

そう言って指し示したのは先程からキョーコを見ている一人の男。不破尚こと不破松太郎である。

彼もまた、自分のプロモに出演するべくこの場にいた。怒りのボルテージを全開にして。

「……どうしたのよ、アイツ」
「……あんた、ホントに気付いてなかったの?」
「当たり前じゃない。あんなバカのことなんか気にしてらんないし」
「誰がバカだ!」
あんた以外に誰がいるのよ!
それに邪魔しないでよね。ちゃんと演技ができるように蓮の生写真拝んでるんだから」


そう。キョーコは蓮の生写真を見ながら奏江に話し掛けて(惚気て)いたのである。
やれいつ見てもカッコいい、やれ寝顔は意外と可愛い、というように。

不本意ながらその惚気に耐性がついてしまっている親友とは違い、尚には耐えられなかったようだ。
それも、惚気の対象は尚の大嫌いな敦賀蓮。その怒りは止まることを知らない。

「なんで演技とアイツの写真が関係あるんだ!」
「あるわよっ!何が悲しくてあんたの恋人役やんなきゃいけないのよ!」
「何だと!?」
「あんたを蓮だと思い込まないとやってらんないわ!」
「…………っ」


今回、キョーコの役柄は悪魔である尚に恋する天使。奏江が悪魔を殺す天使の役である。
もちろんキョーコは泣いて嫌だと訴えたが、前回の役柄とは違うものを、という要望が多く、変えようがなかったのだ。

そこでキョーコが考えた苦肉の策が、蓮の生写真を脳裏に焼き付けて撮影に臨むというものなのだが、奏江に言わせれば普段とあまり変わらない


あまりの言い草に怒りで震えていた尚だが、いきなりキョーコの手から写真を奪い取り、破り捨てた。

「――ああっ!?ちょっと、何するのよ!」
「うるせぇ!あんな奴の代わりにされてたまるか!」
「…………くぉぉのバカーーーーーっ」
「うあああ〜〜〜〜〜〜〜っ」





怨キョを大量発生させて尚をシメたキョーコに、奏江は呆れながら声を掛けた。

「……キョーコ、そこまでやる必要あったの?」
「当然でしょ、このくらい!蓮の生写真を破ったのよ!?」
「そりゃあ、写真が一枚しかないんならそうでしょうけど……あんた、常にもう一セットずつ持ってるじゃない











言い訳させてください。これでも最初はシリアスを書こうとしてたんですよ、ホントに。出来上がったのはこんなモノですけど。

…………私のバカーーーっ(ノ-_-)ノ⌒┴┴

お題の『写真』については、携帯必需の蓮様と携帯不慣れなキョーコちゃんで分けてみましたが……読んでくださった方、どうか脳内消去してください……っ!