蓮が一週間の地方ロケに向かってから4日目――










〜キョーコside〜



仕事を終えると、私は蓮のマンションへと帰った。
誰もいない家に戻ることも、ガランとした広い空間を見つめることも、4日目ともなると少しは見慣れそうなものだけど……寂しさが募るだけでしかない。


ぽすっ、とソファに座り込み、携帯電話を見つめる。たぶん、そろそろかかってくるはず。
そう思いながら待つこと十数分後――

・・ピルル ピッ

「もしもしっ」
『…………ぷっ』

出た途端、堪らず吹き出す声が聞こえた。
着信番号も名前も、相手が蓮であることを示している。だからこそ鳴った瞬間に通話ボタンを押したのだけど……

「……蓮、よね?」
『そうだよ』
「……どうして笑ってるの?」
『だって……キョーコ、ものスゴイ早さで電話に出ただろう?よっぽど待ち遠しかったのかな、って思ったら……つい、ね』
「う゛っ/////」

恥ずかしいことこの上ないが、事実なので否定することもできない。
自分の顔が火照っているのがよくわかる。ここに蓮がいなくて良かった、とホッとしていると――

『今、顔を真っ赤にして俺がいなくて良かった、って思ったろ?』
「っ!?……何のこ」
『思ったよね?』
「……はい」

声だけで白状させられる自分に悲しくなるが、彼が私のことをよくわかってくれているようで嬉しいとも思う。



そのまま他愛ない会話を交わしていると、お別れの時間がやってきた。

『明日も忙しいだろうし、しっかり眠るんだよ?』
「……うん」
『ちゃんと戸締まり確認した?』
「大丈夫よ、子供じゃないんだから」
『……子供じゃないから心配なんだけど』
「蓮こそ、ちゃんと食事してね?」
『ん、わかった。……じゃあ、お休み』
「……お休みなさい」



電話が切れた後は、いつも物足りない。
声を聞くと顔が見たくなる。
優しい香りに包まれたくなる。
そして――抱きしめてもらいたくなる。


けれど後3日はそれも叶わない。
襲ってくる空虚感を忘れるため、シャワーを浴びてすぐにベッドルームへと向かった。


















〜蓮side〜



夜の撮影も終わり、自分に宛がわれているホテルの部屋へと戻った。
誰もいない部屋に戻ることには慣れていたはずなのに、この4日間、それを寂しく感じる自分がいる。


備え付けのベッドに腰を下ろし、携帯電話を手にする。もうそろそろマンションに帰り着いているはずだ。

・・プルル ぷっ

『もしもしっ』
「…………ぷっ」

コールしてすぐ聴こえた声に、嬉しい反面おかしくて吹き出してしまった。
笑われる理由がわからないのだろう。電話の向こうから戸惑っている雰囲気が伝わってくる。

『……蓮、よね?』
「そうだよ」
『……どうして笑ってるの?』
「だって……キョーコ、ものスゴイ早さで電話に出ただろう?よっぽど待ち遠しかったのかな、って思ったら……つい、ね」
『う゛っ/////』

ありのまま伝えると、図星だったのだろう。恥ずかしそうに唸る声が聞こえた。
きっと彼女は顔を真っ赤にして、それを俺に見られていないことに安堵していることだろう。
そう思うと何だか面白くなくて、ちょっとしたイジワルがしたくなった。

「今、顔を真っ赤にして俺がいなくて良かった、って思ったろ?」
『っ!?……何のこ』
「思ったよね?」
『……はい』

最初は否定しようとしていたが、ウソをつけない彼女らしく、念押しすると素直に白状した。そのことに多少満足して、そのまま他愛ない会話に入る。



しかし、幸せな時間というものはすぐに流れてしまうもので、もう電話を切らなくてはいけない時間がやってきた。

「明日も忙しいだろうし、しっかり眠るんだよ?」
『……うん』
「ちゃんと戸締まり確認した?」
『大丈夫よ、子供じゃないんだから』
「……子供じゃないから心配なんだけど」
『蓮こそ、ちゃんと食事してね?』
「ん、わかった。……じゃあ、お休み」
『……お休みなさい』



電話を切った後、いつもの物足りなさが襲う。
声を聞くと顔が見たくなる。
甘い香りに顔を埋めたくなる。
そして――思いきり抱きしめたくなる。


だが、後3日間我慢しなくては。
やるせない想いをしながらも、シャワールームへ向かった。















『声』は相手を求めてしまう麻薬のようなものだと感じた、ある日の出来事――











ぐへぇ……何でしょうね、これは。
とりあえず、お互い想い合っていることだけでも伝わったらいいな〜と思います。

お題ですけど、『声』を強調するには電話かな、という発想からこのようなものになりました。このお題は色々な使い方ができそうですよね。


ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました!