貧乏くじ





敦賀蓮と京子の恋人関係が公表されてから数日。
今までは事務所の方針の下、一部関係者以外には極秘であったため、蓮のキョーコ自慢――いわゆる惚気の被害を一身に浴びていた社は歓喜していた。その理由は至極簡単で、

秘密の関係だったせいで惚気る相手が限られていた
     ↓
今は世間公認だから、誰にでも(?)惚気ていい
     ↓
蓮のことだし、それこそ誰にでも惚気るだろう(神々しい笑顔で)
     ↓
よって自分が惚気られる回数が減る!!

という、なんとも涙を誘う論法がなされていたためである。
そして、それは半分当たっていた……





<犠牲者1:スタイリスト>

「敦賀君って何でも似合うから、衣装の選びがいがあるわね」
「そうですか?」
「ええ。それに髪もサラサラだから整えやすいし。ほんっと、いい素材だわ〜v」
「はは…褒め言葉として受け取っておきますよ」
「いいわねぇ、京子ちゃん。こんないい男を捕まえられて」

スイッチオン。

「そんなことありませんよ?
キョーコこそ何を着ても似合うんです。カジュアルな服だと可愛いのに内から溢れる生命力を感じますし、クラシックなタイプなら品の良さが、ゴスロリ系ならその愛らしさが際立ちますからね。着物は完璧に着こなしていて、時折いつも以上の妖艶さをかもし出したりするんですよ。
髪なんてふわふわしてて、触るたびに愛しさを感じますね。あの柔らかな感触を指に絡めとったときの幸福感は言葉にできるものじゃ――
…………あの…どうしました?」

うっかりキョーコの名を出してしまったスタイリストさんは、蓮の甘々弾丸トークの標的となり――撃沈





<犠牲者2:メイク>

「敦賀さんのお肌、キレイですねぇ。お手入れでもしてるんですか?」
「いや、したことないな」
「えーーーっ!?何もせずにこんなにすべすべなんですか!?うっわ、女の敵ですよ!!」
「う〜ん……そう言われてもね…」(苦笑)
「それに造形もここまで整っていたらいじくりようがないですし。メイクしてもしなくてもほとんど変わらないじゃないですかぁ……メイクのしがいがありませんっ」
「そ、そう?」
「そうです!!……ほんと、京子ちゃんとは逆ですよねぇ。彼女は仕事魂に火をつけてくれますから。あれだけメイクのしがいがある子はいませんよ。肌質もキレイですしv」

着火。

「そうだろう?キョーコの肌はこれ以上ないってくらいの極上品なんだ。もちろん、全身隈なくね?あの吸い付くような肌触りといい、白亜のような白さといい、一度触れたらもう二度と離せないな。色素が薄いから印をつけると鮮やかに咲いてくれるし。
ああそうだ。キョーコは確かにメイク前とメイク後では別人になるけど、どちらのキョーコも可愛くて綺麗だと思わない?俺はどちらのキョーコも心から愛してるね。メイク前の幼さの残る彼女も愛しいし、メイク後の目を奪われる程の美貌も――
…………酸欠か?真っ赤だよ?」

自分の仕事魂にではなく蓮の惚気魂に火をつけてしまった哀れなるメイクさん――のぼせてダウン。





<犠牲者3:監督>

「いや〜敦賀君!今放送中のドラマ、好評じゃないか!」
「ありがとうございます。関係者全員で真剣に取り組んだかいがありました」
「謙遜するねー。もっぱらの評判だよ?あの視聴率をたたき出したのは、主演を務めた君と共演の京子ちゃんの演技力だってね!」

アクション。

「ええ、キョーコの演技力はますます上達してるんですよ。元々才能があったんでしょうね。今では気を引き締めないと、彼女の役に引き摺られてしまいそうになります。どんな役でも一生懸命役作りしてそれをしっかり自分のものにしていますから、演技に『ウソっぽさ』がないんですよね。偶に役にのめりこみ過ぎてなかなか現実に戻って来てくれないこともありますけど、それはそれで可愛いですし――
…………監督?聞いてます?」

何気ない監督の賛辞が引き起こした蓮のベタ褒めマシンガントーク、監督を見事に硬直させ――カット。





<犠牲者4:スタッフ>

「敦賀さーん!ロケ弁、ここにありますよー!この休憩中に食べて下さいねー!!」
「あ、すみません。お弁当持ってきてますから必要ないです」
「へえ、お弁当ですか?……もしかして、京子ちゃんの手作り弁当、とか?」(にやり)

その一言(からかい)が命取り。

「そうですよ?俺、どんなに食べなくても空腹を感じない体質だったんですけど、キョーコの料理だけは別のようで。彼女が作る料理はどれもこれも絶品ですから、全部胃の中に入るんですよ。
あ、ちょっと見てください。どうですか?きちんと色合いや栄養も考えてくれてるでしょう?キョーコの俺への愛情が感じ取れませんか?俺は感じます。というか、これを見て感じないような人間は感情が欠けてますね。気の毒なものです。
ああ、もちろん俺もキョーコのこと愛してますよ?彼女の愛情に応えるべく、日々色んな努力をしてますから。『好きだよ』って言葉は何度伝えたかわかりませんね。それでもキョーコは顔を真っ赤にするんですよ?可愛いでしょう?特に耳元で『愛してる』って囁いたときは――
…………具合でも悪いんですか?口元押さえたりして」

決して触れてはいけない話題に自ら飛び込んでしまった愚かなるスタッフ、蓮のターゲットとなり――砂を吐いて沈黙。





<犠牲者5:???>

「…………何だって?」
「ですから、誰も最後まで話を聞いてくれないんですよ。折角社さん以外にもキョーコの話ができるようになったのに、倒れたり酸欠になったり固まったり吐いたりして」
(明らかにお前が原因だ)
……俺が目を離した隙に……皆さん…ご愁傷様です(涙)」
「?何をわけのわからないことを……」
「いや、わかってないのはお前だけだから」(きっぱり)
「は??」
「……もういい。(言っても無駄だこの色ボケ万年惚気男には)
で?わざわざ俺にそんなコトを報告してどうするんだ?彼らが最後まで聞けなかった理由を説明しろと?」
「違いますよ。ただ、ここ数日でわかったんです」
(うあ〜なんかイヤな予感が…)……何が?」
「どうやらキョーコの話を心行くまでできるのは、社さんだけだってことです」
「予感的中かオイ!(涙)」
「(スルー)ということですので、これからもよろしくお願いしますね」

蓮のキョーコ自慢および惚気話に、哀しくも耐性がついてしまっていた社――胃痛にてブラックアウト。





……結局、貧乏くじを引いた社の苦労は改善されないままだったとか。









(終われ。)

剣乃陸矢様からお受けした21500hitリク、「蓮キョ・蓮様、キョーコの自慢を言いまくる」でした(笑)

え?自慢じゃない?……はい、惚気ですねコレは。
付き合いの長い社さんでさえ砂を吐くんですから、他の人には耐え切れないでしょう☆


え、え〜と……大変申し訳ありません、陸矢様。ご希望に沿ってないかもしれません(涙)
苦情、心して承ります!