一年の計は元旦にあり





「……………………」
「蓮〜、そろそろ機嫌直せよ」
「……別に。俺はいつも通りですよ?」

(ウソだ!!いやある意味いつも通りだけど!!俺が悪いんじゃないんだから、その鬼も泣いて逃げ出すような目で睨むのは止めてくれぇぇぇぇぇっ)

社倖一、二十○歳。元旦から悲痛な叫びを上げていた……







事の始まりは数日前。

仕事帰りに事務所で待ち合わせていた蓮とキョーコ、社と奏江は何とはなしに自販機のコーヒーを一緒に飲んでいた。
残る年内のスケジュール確認をしていた蓮と社の傍で、女性二人は何やら楽しそうに話している。一通りの確認が済んだところで、おもむろにキョーコが話しかけてきた。

「ねえ、二人とも――ていうか蓮、元旦の仕事は入れてないのよね?」
「ああ、入れてないよ」

にこやかな笑顔で答える蓮に社は、

(何が『入れてない』だっ!『入れさせなかった』の間違いだろ!依頼が来る度にブリザード撒き散らしつつ笑顔で脅しをかけてきたのは誰だっ!?お前だっ!!)

と涙ながらにツッこんだが、あくまで口にはしない。まだ命は惜しい。
そもそも、元旦に仕事がないのは社にしても嬉しい限りだ。普段一緒にいれない彼女と過ごすことができるのだから。


そう思うと今から浮き立つ社だったが、キョーコの一言によって極寒の地へと放り出されることとなる。

「よね!?でねでねっ!さっきモー子さんと決めたんだけど、四人で初詣行きましょっv」

ピシ。

「…………四人で?」
「そうv」
「…………なんで?」
「だって、今まで四人で出掛けたことなんてなかったじゃない?『一年の計は元旦にあり』って言うし、今年も四人仲良くできるように一緒に出掛けましょうよv」

ヒュウゥゥゥゥゥ・・・

(キョォォォォォコちゃぁぁぁぁぁんっ(涙) その気持ちはすっっっっごく嬉しいんだけどっ、明らかに俺だけの命が危ないっ!隣っ!隣から怒気を超えた殺気がっっ!!)

本気で命の危機を感じ、社は隣にいる青年の顔を見ることができない。かろうじて見ることのできたキョーコと奏江の表情を見ると、「……ああ、見ない方がいいんだな」としみじみ思う。

「れ、蓮?な、なんで怒ってるの?」
「…………怒ってないよ?うん、いいんじゃないか?四人で行けば」(にっこり)

引き攣った声で尋ねるキョーコに、蓮は最高級の神々しい笑顔で優しく答えた。もっとも、蓮の怒りオーラに敏感なキョーコには何の慰めにもならなかったが。

「そそそそそれでねっ?せっかくだし、私達着物を着て行こうかと思」
「よし、行こうか」

(((即答!?)))

「着物」という単語が出た瞬間に和らいだ雰囲気と、いっそ気持ちのいいくらいの即答に、残る三人の気持ちは完全にシンクロしていた。

「本当は約二人ほど邪魔だけど、キョーコが着物を着てくれるなら多少のことは我慢するよ。……多少はね?」

ところどころに含みを持たせた言葉ではあったが、それにツッコミを入れられるほどの勇者はいなかった。







そして今日。
蓮と社の男性組は、先に境内で待っていた。女性組曰く――

「晴れ着を見るのは後のお楽しみv」

だそうだ。
確かにこうやって色々と想像しながら待っているのは楽しい。楽しいが、心から楽しめないのは隣にいる不機嫌面の男の所為である。


「……なあ、蓮。お前も一度は納得しただろ?」
何を世迷言を。俺は『多少我慢する』とは言いましたが、一度たりとも納得してませんよ」
「……(このヘリクツ小僧めっ)」
「誰がヘリクツ小僧ですか」
「心を読むなっ!お前は本当に人「何か?」イエ、ナンデモ」
「だいたい、何が悲しくてキョーコの着物姿を有象無象のハイエナどもに見せなきゃいけないんですか。見るのは俺一人で十分でしょう?」
(有象無象の中に俺も入ってるんだろうなぁ……)
そんなこと俺に言われても、『行こう』って言ったのはお前だろ?それに、俺だって奏江さんの着物姿を独り占めしたいさ」
「……ですよね。なんでOKを出してしまったのか……あのときの自分を絞め殺したいですね…」
「………………(涙)」





――それからピリピリした雰囲気の中で数十分経ち、そろそろ社の胃が限界を告げ始めた頃。

「れ〜ん!社さ〜ん!」

明るい声が聞こえた。
その声が聞こえてきた方角に顔を向け――二人は絶句した。


キョーコは鮮やかな赤地に純白の桜を散りばめた着物。
袖と裾の一部は、桜の花を境界にやや濃い目の菫色になっている。肩には純白の羽毛のショールを羽織り、同様の純白の髪飾りをつけている。

奏江は白地に菫色で縁取りされた着物を身に着けていた。
袖と裾の端は鮮やかな菫色。左上から右下に向けて散らばる白と紫の桜の花。長い黒髪は綺麗にまとめられ、菫色の髪飾りがまた素晴らしい。


二人とも着物に合わせた化粧を施していて、キョーコはいつも以上の可愛らしさを、奏江は色っぽさをかもし出している。

「どうどうっ?似合ってる?」
「もー!はしゃがないの!着崩れるわよっ」
「大丈夫よ!これでも着物慣れしてるし、仮に着崩れても自分で着付けできるものv」
「……そりゃそうでしょうね。私の着付けまできっちりしてくれたし」
「代わりに、お化粧はモー子さんがしてくれたじゃない。お相子よ」

楽しそうに会話を続ける女性陣に対し、男性陣は未だに固まっていた。
しかし、そこはあの敦賀蓮。急激に意識を取り戻しつつ、ついでに本能も呼び戻しつつ、にっこりと微笑んだ。

「よく似合ってるよ、二人とも」
「ありがとっ」
「ありがとうございます」
「ところでキョーコ?」
「ん?なに?」
「君、自分で着付けできるんだ?」
「??できるわよ?」

唐突な質問に、訝しげに答えるキョーコ。なぜ、そんなことを訊いてくるのかが全くわからない。
だが、それを聞いていた奏江は――社はまだ放心中なので――蓮の意図するところに気づいた。というか、気づいてしまった。

(ちょ、ちょっとちょっと!?本気なのこの人!?まあ本気でしょうけどっ)

普段なら何とか食い止めようとするが、今日ばかりは危険だ。ただでさえ四人で初詣に赴いたことで機嫌最悪の彼に、これ以上刺激を与えてはならない。

(……ごめん、キョーコ。保身のために見捨てるけど、頑張りなさいね)

心の中でエールを送り、奏江はそっと目頭を押さえた。


一方、渦中のカップルはというと――

「それは良かったv なら、着崩れても問題なしだねvv」
「……はい?」
「あ、でも汚したらダメか」
「……はいはい?」
「よし、それだけは気をつけよう。じゃ、行こうかvv」(ヒョイとな♪)
「――っ!?ちょ…何考えてんのよーーーーっ///」(やっと気づいた)
「何って……ナニをv
「そんな爽やかな笑顔で鬼畜発言しないでーーーーーっ」
「(完全スルー)じゃあ二人とも。正午にココでね」(キュラリ)

ちなみに今の時刻はAM9:00だが、あえてツッこまないように。


「……わかりました。倖一さんには私から伝えておきます」(にこv)
「モ、モー子さんっ!?」
「頑張りなさい、キョーコ。私は心から応援してるから」(ぐっ!)
「何を!?」
「そうしてくれる?それじゃ、また後でね」
「誰か助けて〜〜〜〜〜〜っ(涙)」







「一年の計は元旦にあり」。
どうやら、この四人の一年はコレに決まったようである。







<おまけ>

「……さん…倖一さん!」
「――えっ!?あ、か、奏江さん!?……あれ?二人は?」
「とっくに消えました。正午にここで待ち合わせです」
「…………なるほど。(キョーコちゃん、頑張ってね…)
「――ところで、倖一さんは何も言ってくれないのかしら?」
「え、あ、いや……(深呼吸)……綺麗だね…いつも以上に見間違えたよ///」
「ふふっ……ありがとう…///











ジュキ様からの9494hitリク、「正月で、キョーコちゃんの着物姿に悩殺される蓮様」でした♪

ご〜め〜ん〜な〜さ〜い〜!着物の話より他の話で占められてます…しかも、外野二人が出張って……(汗) 社奏の正月を書く時間がなかったので一緒にさせていただいたのですが……申し訳ないです…
「悩殺された蓮様」→「問答無用で××だろう(笑)」ってことで、こうなりました(爆) 本当に、どうしてこう鬼畜ぶりしか発揮してくれないのか……i|||i_| ̄|○i|||i


ジュキ様…散々待たせた上にツッコミ所満載な駄文となりまして……土下座・切腹は覚悟しております!苦情、いつでもどうぞ!!