輝きは増して… 後編





所変わってリビングでは、男二人が持ち前の地獄耳でしっかりキッチンでの会話を盗み聞きしていた。
となると、彼らがどのような表情をしているのかおわかりだろう。蓮はキョーコの予想通り蕩けんばかりの笑顔を浮かべ、昴は魔王よろしくぷちデビルとなっていた。

しかし、元来父親のことも好きな昴は不機嫌を持続させることができず、拗ねてしまった。

「……どうして父さんばっかりセイカに好かれるのさ。ずるいよ、同じかおなのに…」
「ん?それは『父親の特権』ってやつじゃないか?」
「……ぜったいちがうと思うけど。だいたいさ、母さんのこともひとりじめしてるくせにセイカまでとるなんてひどくない?」
「そうでもないさ。母さん、昴にベッタリだろう?」

蓮に言われ、昴は少しだけ回想してみる。

「…………たしかに『わぁ〜いvちっちゃいレンだぁ〜〜vv』とか言ってだきついてくるね」
「だろう?羨ましい限りだね」
「………………(いつも母さんをだきしめてるくせに)」(ジト目)
「昴?『抱きしめる』と『抱きつかれる』とでは、天と地ほどの差があるんだよ?」(にっこりv)
「……かってに人の心をよまないでくれる?」(にこv)
「却下v」(キュラリン☆)


……この光景を赤の他人が見れば「美男・美少年がにこやかに微笑み合っているなんていいわねぇv」とでも言うのだろうが、その背後にあるオーラを感じ取れる人間にとっては「恐ろしい」以外の何物でもない。

だが、さすがに年の功。蓮の黒オーラには敵わず(というか5歳にして蓮を超えていたら、それはそれで恐ろしい)、昴はソファに身を沈めた。
その様子に蓮は微笑み、息子の頭にポン、と手を置いた。

「昴は、父さんと母さん以上に星華と一緒にいるだろう?俺たちが留守の間もずーーっと」
「……まあ、ね」
「だから、昴より父さんにくっついてくるんじゃないか?父さんと昴の差なんて、そんなもんだと思うけど?」
「そう…かな……?」

そう言って上目遣いに見上げてくる昴に、蓮は笑顔で応えた。
昴もつられて微笑みかけ――そこで何かを思い出したように手を打ち合わせた。

「あ!『るす』といえば…父さんたちがいないあいだにさ、ショータローがきてたんだよね」
「(ピクリ)…………ほお?」
「オレとしてはムシしたかったんだけど、セイカが『あ、ショーちゃんだ』ってげんかんあけちゃってさ…」
「あのバカを家に入れる必要なんかないよ?」
わかってる。セイカにかってきたらしいおみやげはしっかりうけとったあとでおいかえした」(にこ)
「いい子だな、昴は」(にっこり)

いいのかそれで。

「でもさー、このはなしをユキヒトさんとカナエさんに言ったら、『かおだけじゃなく、せいかくまでレンなのか……』って、ものスゴ〜〜〜〜くとおい目してたけど」
「そうか、あの二人のお墨付きか。それなら安心して星華を任せられるなvいいか、昴。悪い虫は――」
「ホネものこさずけしさるべし。」
「良しv」

何が「良しv」なのか。少なくとも爽やかな笑顔でする会話ではないはずだが……





その後は「保育園で何をしたか」とか「この後どう過ごそうか」とか、親子の会話をする蓮と昴。
その穏やかな時間に、亀裂が入った。

「ママっ!?ママ、だいじょうぶっ!?……パパぁっ!!おにいちゃぁ〜んっ!!」
「「!?」」

キッチンの方から聞こえた星華の悲鳴に、二人は瞬時に駆け出した。


「どうした!?」
「……ひっく…あ、パパぁ!ママが…ママがたおれたの!!」
「っキョーコ!!」

泣きじゃくる星華の傍にうつ伏せに倒れたまま動かないキョーコの姿を認めると、蓮はすぐに駆け寄って仰向けにする。彼女の顔色は、血の気が引いて真っ青だった。

「キョーコ!大丈夫か!?…………だめだ、意識がないな……昴、星華」
「わかってる。びょういんに行くんだよね?」
「……ああ」
「っ……ぅぅ……じゃ、じゃあ、ひをけさないと…」
「そうだね……昴は保険証を取って来て。星華は火を消した後、昴と鍵をして駐車場までおいで。俺は先に向かうから」
「「うん」」







病院に着いた途端、蓮はキョーコを抱きかかえたまま受付に走り、双子もあの後を追いかけた。
受付にたどり着いた後は、憂い顔で頼み込む蓮うるうる瞳で懇願するミニチュア蓮(昴)&ミニチュア京子(星華)に病院関係者および患者はイチコロ。
順番繰上げで早急に診察が開始された。(もちろん女医である)


待っている間、不安そうにしている子供たちを安心させようと、蓮は二人の背中を優しく叩いていた。そうすることで、ともすれば取り乱してしまいそうな自分も落ち着くことができる。
代わりに、彼は責めていた。キョーコの体調が悪いことに気づいていながら、倒れるまで何もできなかった自分を。

(何故もっと早くに診せなかったんだ、俺はっ!――もしキョーコに何かあったら……いや、そんなことあるはずない。大丈夫、大丈夫だ……だが…)

子供のためにも自身の不安は表面に出さず、しかし思考は出口のない迷宮を駆け巡っていた。





そんなこんなで30分。突如として開かれた扉から出てきたのは――

「キョーコ!?」
「ママ!?」
「母さん!?」

三者三様に声を上げた。
そう、診察室から出てきたのはキョーコ本人だったのだ。

意外にしっかりした足取りで近づいてくるキョーコに、三人はここが病院だということも忘れて駆け寄った。

「大丈夫か、キョーコ」
「ママぁ、どこもいたくない?きもちわるくない?」
「どうなの?母さん」

またもや口々に彼女の安否を尋ねてくる家族に、キョーコは幸せを噛みしめつつ笑顔を向けた。

「大丈夫よ、何ともない。ごめんね?心配かけちゃって」
「……何ともないわけないだろう?倒れたんだぞ」
「本当に何ともないわよ。病気とか、怪我とか、過労とかじゃないもの」

(病気でも怪我でも過労でもない……?ならなんで……)

他の要因が思いつかず、混乱する蓮。腕を組み、手を顎に当てて考え込む。
昴は首を傾げ、星華は母が元気であるということを素直に喜んでいた。

キョーコはくすくす笑い、その後、頬を薄っすら染め上げた。


「――あの、ね?              」



瞬間、蓮はバネ人形のように顔を跳ね上げ、昴と星華は目をぱちくりさせた。





……連絡を受けた社倖一・奏江夫妻が病院に駆けつけて最初に目にしたのは、テレビでは決して見ることのできない慈しみの微笑を浮かべ、そっとキョーコを抱き締めている蓮の姿だったとか。







キョーコが家族に告げた言葉。それは――


「――私達の宝物、増えるみたいよ?」











ジュキ様からの17000hitリク、「『小さな星たち』の続き」でした!

双子の成長編でも家族が増える話でも構わないとのことでしたので、思わず両方やっちゃいましたv ←マテ
おかげで前後編……何やってんでしょうね(汗) しかも明らかに遊びすぎだし。題名は「双子の成長」と「新しい家族」を暗示させてみました。かなり微妙ですけどね。


こんな感じでよろしかったでしょうか?ジュキ様。苦情はいつでもお受けしますので!



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