贈り物をせよ





ぽふっ


「…キョーコ?」
「んー」
「……俺としては嬉しいことこの上ないし、むしろ大歓迎なんだけどね?」
「へー」
「………聴いてる?」
「聞いてるわよー」
「…………微妙にニュアンスが違ってる気もするけど…この際それはいいよ」
「そー」
「………………」


ひょい

ぐるん

ぎゅ〜〜・・


「!!??いきなり何するのよっ///」
「何って…今と言わず、最近キョーコがしてくることを正面からしてるだけ」

蓮はキョーコをその腕に閉じ込め、神々しい笑顔でそうのたまった……





一方、されているキョーコは顔を真っ赤にして抗議する。

「私は『抱きついてる』けど『抱き締め』てなんかないでしょっ///」
「どっちも一緒」
「一緒じゃないっ/// は〜な〜し〜て〜〜〜〜っ」
「キョーコ、俺の話を聴いてくれないしなぁ」
「〜〜〜っ私が悪ぅございましたっ。話を聴くから、この腕を離して〜〜」
「……そこまで嫌がられると却って離したくなくなるな…」

彼女のリアクションにやや憮然としながらも、このままでは話にならないので仕方なく解放する。
キョーコはまだ色づいている顔で蓮を見上げた。

「…それで?話って何?」
「大したことじゃないんだけど。キョーコ、最近やけに抱きついてくるよね?」
「…………そ、そぉ?」
「うん。」(きっぱり)
「ご、ごめんなさいっ…………嫌だった…?」
まさか(即答)
言ったろう?嬉しいし、むしろ大歓迎だって。ただ…どうしてかな?ってね。この前までは偶に甘えてくるくらいで、こう頻繁に抱きついてこなかっただろ?現に、さっきみたいに俺から抱き締めると照れてちょっと不愉快なくらい嫌がるし」
「う゛っ」
「抱き締められてちょっと不愉快なくらい嫌がるくせに、度々抱きついてくる理由は?」

(なにも繰り返さなくても……ホント、執念ぶ)

「理由を教えてくれるまで、執念深く言うよ?」(にっこりvv)
「っっっ」

似非紳士スマイル全開の蓮に、キョーコは思いっきり後退る。
「どうして思ったことがわかるのよぉぉぉっ」という嘆きは、この際どうでもいい。問題は、「キョーコが抱きつく理由」を知りたがっている、ということだ。キョーコの性格上、とてもじゃないが――というか、絶対に隠し通せない。


それでも、キョーコは(明らかに引き攣っているし、冷や汗を浮かべているが)にこやかな笑みを浮かべて白を切る。

「別に理由なんてないわよ。いつも通りだったでしょ?」
「……へぇ?俺はてっきり、ここ一週間のことだと思ってたけど…立っている時は腰に抱きつき、座っている時は胸または肩に抱きつき、出掛ける時は腕を組むことが、キョーコの『いつも通り』なんだ?」

――それだけキョーコらしからぬ行動を取っていれば、蓮でなくとも疑問に思うだろう。
実際、キョーコ本人も顔の強張り度が増している。むしろ固まっている。

「今まで気づかなかったなぁ。ということは、これからずっとしてくれるんだよね?」
「そ、それは……(汗)」
「してくれるんだよね?」(キュラ)
「………………(滝汗)」
「ん?」(キュラリ☆)
「〜〜〜〜〜っごめんなさいぃぃぃウソつきましたぁぁぁぁぁ(涙)」


やはり隠し通せなかったキョーコ。
蓮は相変わらずの彼女に顔をほこらばせたが、チャンスとばかりに追及を深める。

「で、どうしてなのかな?」
「……言えない」
「?」
「まだ、蓮には言えないの……今は、『言わない』んじゃなくて『言えない』としか……」
「……それは、時期が来たら教えてくれる、ってこと?」
「ええ」
「……いつ?」
「んー・・一ヶ月後くらい、かな?」

唇に人差し指を当てて答える。実は「くらい」なんて曖昧な言葉をつけなくても何日後か断言できるのだが、それを言うとバレてしまうので誤魔化す。
幸い、これには蓮も気づかなかったようだ。仕方ないなぁ、という表情をしている。

「わかった、一ヶ月後だね?その時になって、忘れたふりしないように」
「そんなことしないわよ。(しても絶対通用しないし)
「…じゃあ、それまで訊かないでおくよ」
「ありがとう、蓮v」


……これが、約一ヶ月前の出来事である。







――ぱぁぁん!

「っ!?」
「ハッピーバースデー!蓮v」


日付が変わった深夜。帰宅した蓮を待ち構えていたのは、甲高い爆音と色とりどりのテープ、そして満面の笑顔のキョーコだった。
一瞬、何が起こったのか理解できずに玄関で佇んでしまう。だが、キョーコの手にある使用済みのクラッカーと彼女の言葉により、今日が何の日なのか思い出す。

今日は2月10日――蓮の誕生日だった。

そのことに気づいた途端、明日も朝早くから仕事があるにも拘らず起きて待っていてくれたキョーコに、感謝の気持ちと愛おしい気持ちが一気に溢れてくる。自分でも、頬が緩んでいるのがわかるくらいだ。

「ありがとう…キョーコ――…」
「っ///(なんて表情するのよ〜〜〜)」
「わざわざ待っててくれたんだ?」
「う、うん…できるだけ早く言いたくて///」
「そうか…ごめんね、明日も早いのに夜更かしさせちゃって」
「そんな事ないわよ?何か理由つけて日付が変わるのを待つ手間が省けたものv まあ、時間が時間だから、お料理やケーキはまた後になるけど」

そう言って微笑む彼女に、蓮も同じように微笑み返しながら一緒に奥へと向かう。
リビングまで行くと、テーブルの上に包装紙で包まれたモノが置かれていた。ここまでの経緯から、あれが誕生日プレゼントであることは容易に推測できる。


「これ、貰っていいの?」
「もちろん!でも、私から渡すからちょっと待っててね…………はいっvv」
「ありがとう」
「――って今開けるの!?」
「え?ダメ?」
「ダ、ダメじゃないけど……笑わないでよ?」

キョーコの言葉に「笑うようなものなのか?」と思いつつ中身を取り出し――蓮は目を見開いた。

「……セーター?」

中身はネイビー色のセーターだった。しかも手編みで、売り物かと思うくらいかなり丁寧に仕上げられている。
編み物などしたことのない蓮でも、これがどれほど大変な作業なのかくらいわかる。だからこそ「セーター?」と呟いてしまったのだが、キョーコは少し気まずげな表情を浮かべた。

「…やっぱり変、よね……」
「?どこが?随分きれいに仕上がってると思うけど…」
「そうじゃなくて…2月も半ばに入ろうって時期にセーターなんて……思いついたのが1月だったから、最近になるまで気づかなかったわ…」
「……そんなこと気にしてたのか?別におかしくなんてないよ、今からでも着れるし。それに1月に思いついたって事は、たった一ヶ月でこれだけのものを編んだって事だろう?すごいじゃな………………ん?…一ヶ月?」

蓮は「一ヶ月」という単語が引っかかった。それは、一月前から頭の片隅にあった単語である。
蓮の反応に思う所があるキョーコは、手を打ち合わせた。

「そうそう、忘れてた。一ヶ月前、私が蓮に抱きついてた理由はコレなの。メジャーで測ったりしたら怪しまれると思って、何度も確認したのよね……結局怪しまれたけど」
「…ならその後、手の平を返したように全く近寄ってこなくなったのは――」
「セーターを編んでたから」
「……やっぱり」

期待を裏切らない返答に、思わず苦笑してしまう。
確かに、それならあの時理由を言えなかった事も頷ける。そして、あの時以来キョーコと過ごす時間が極端に減ったことも。今までは「今度の役、2、3分話し続けるセリフが多いから」と言って、部屋に籠もりっ放しだったのだ。恐らく、その時に作業をしていたのだろう。


疑問が解けてスッキリしたところで、早速セーターを着てみることにした。キョーコもサイズが気になるのか、固唾を呑んで見守る。
着てみたところ、本当に腕で測ったのか?と思うくらいピッタリだった。

「良かったぁv 大丈夫だとは思ってたけど、やっぱりホッとする〜〜」
「一週間の成果?」
「……知らないっ///」

冗談めかして言うと、キョーコは真っ赤になってそっぽを向いてしまった。
蓮は「ごめん」と謝りながら、そっと抱き締めた。

「本当にありがとう…」
「……また、後でお祝いしようね。ケーキ、蓮が食べれるように甘くないの作るから」
「楽しみにしてるよ」
「任せてv」

にっこり笑うキョーコをもう一度抱き締め、ゆっくり離れる。

「ところで…キョーコはシャワー浴びたの?」
「へ?まだだけど……あ、先入っていいわよ?」
「じゃあ、一緒に入ろうかv」
「………………は?」
「嫌とは言わないよね?俺の誕生日だしv」
「………………ハイ。」



「先に寝ておけばよかった」と思ったのも後の祭り。







――結局、キョーコは誕生日を理由に色んなモノを贈ることとなった。








<お・ま・けv>

「キョーコ、一つ訊いていい?」
「なに?」
「セーターを編むために、抱きついて採寸したんだよね?」
「そうだけど…?」
「それ、俺のセーターを測れば良かったんじゃない?」
「………………あ゛」
「ま、俺としては役得だったけどねv」











――というわけで、蓮様誕生日話ですv 贈り物が時期外れになりましたが、そこはご愛嬌ということで☆
セーターに限らず、衣類の製作はサイズ測りが重要ですよね。腕で測ってあそこまで精確に作れたのは、キョーコちゃんの愛の力です(笑)

ちなみに冒頭の音は、
・ぽふっ→抱きつく
・ひょい→手を外す
・ぐるん→方向転換
・ぎゅ〜〜・・→抱き締める
でした(笑)