美女と貴公子 後編






「「――え?」」

ソファで仲睦まじくお茶を飲んでいた貴公子と美女は、同時に疑問の声をあげました。ちなみに首を傾げるタイミングと仕草まで同じです。

「だから――『倖一さんが街に戻るってことは、あんた達もでしょ?寂しくなるわね』って言ったの」
「街に戻るって……そんな話、私聞いてない……」
「あー…昨日決めたからね。ちゃんと言うつもりだったけど、先に奏江さんに会ったから伝える順番が変わっちゃって」

にこにこ笑いながら言う優男に、美女は困惑した表情を、貴公子は絶対零度の微笑を向けました。
表には出していませんが、貴公子の微笑を見た優男は「…わぁ〜い…覚悟はしてたけどやっぱり恐ろしいなー?(涙)」と心中で呟いています。

(でも…!ここで挫けるわけにはいかないんだ!!二人の為はもちろん、その先にある俺と奏江さんの未来の為に!!)





――三人(主に少女)が立てた計画はこうです。
話し合った結果、相手の気持ちに気づけないのはこの際仕方ないとしても、どちらも告白しようとしないのは『想いを寄せる相手と一緒に暮らしている』状況に少なからず満足していることが原因の一つだ、という結論に達しました。そこでもう少し先だった街に帰る予定を早め、その生活を壊す発言をしたのです。

メイドさんと一緒に居られる日が少なくなるので初めは渋っていた優男ですが、

『お二人が上手くいけば、蓮様がここに閉じ込められる理由はなくなるんでしょう?お姉様もいることだし、ここから出たら街に戻ると思うの。メイドのモー子さんも街に来ることになるはずよ』

という少女の意見に「頑張るよ!!」とあっさり手のヒラを返したのでした。





「…何故ですか?俺、何度も言ってますよね?『迷惑だなんて思ってない。むしろ大勢の方が楽しい』と」
「わかってる。そうじゃなくて、仕事関係だよ」
「――仕事、ですか?」
「そう。ここにいる間もずっと依頼は来てたんだよね。一応ここで庭師の仕事をしてたから、全部『今は他の依頼を受けてるから』って断ってたんだけど、これ以上断り続けたらもう依頼が来なくなるかもしれないだろ?そんなことになったらこの先困るし」
「それはまぁ……でも、仕事が理由なら社さんは仕方ないとしても、彼女まで帰らなくていいでしょう?」

優男の言い分は理解できても美女と離れたくない貴公子の口から、本音がポロリと出てきました。言った本人は無意識過ぎてそのことに気づかず、美女は貴公子の想いにすら気づかないくらいですから――当然、その言葉に含まれている意味には欠片も気づいていません。
どこまでも鈍い二人とは対照的に、しっかり本音を汲み取った三人の表情は微妙です。

(………蓮、お前………暗にキョーコちゃんが残るならそれでいいって言ってるだろ……)
(『彼女』じゃない辺り正直よね…………マリアちゃん、傷ついてなければ良いけど)
(もぉ〜〜〜〜〜〜蓮さまったらっ!!それじゃダメなの!それじゃ!!『好きだから離れたくない、ずっと側に居て欲しい』くらい言わなきゃお姉様は気づいてくれないのよ!?)


一人だけツッこむ所がオカシイですが気にしないで下さい。(気にしたら負けです)


「…あのさ、蓮。俺に家族であるキョーコちゃん達を置いていけって言うのか?」
「後のことはどうぞご心配なく。」
「言うんだ!?」

にっこり微笑みながら即答した貴公子に思わずツッこんでしまう優男。気持ちいいくらいスッパリ言われてしまったため、狙い通りの展開になってきていることを喜ぶ余裕がないようです。
貴公子の発言に「――そういえば…敦賀さんってこういう人よね……」と脱走されていた日々を思い出して遠い目をするメイドさんの隣で、少女だけが「これよ!!この展開を待ってたのよっ!!あと一押し!!」と瞳を輝かせています。

「……あの、敦賀さん…?どうしてそこまで――」

美女もまた、彼の発言に目を瞬かせていました。「モー子さんに料理を教えるために住み始めたんだから、もう私がここにいる理由なんてないわよね…」とか「『私まで帰らなくても』なんて……そんなに話し相手が欲しいのかしら?敦賀さん、今までよっぽど暇だったのね」とか考えていた彼女にとって、まさに寝耳に水。

「キョーコちゃん」

真剣な表情で彼女の隣から正面へと移動し、その場に跪く貴公子。
そんな彼の様子に美女が戸惑っている一方で、三人は期待の眼差しで次の言葉を待っています。


――貴公子は、よく通る声で言いました。













「結婚しよう」

















「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」」












優男とメイドさんが貴公子に待ったをかけました。息ピッタリです。(少女は「偉いわ蓮様vv」と感動中)
それが気に入らなかったようで、貴公子は盛大に眉を顰めて「…何ですか?」と返しました。

心外そうに言うな!!見ろ!キョーコちゃん、固まってるじゃないかっ!!!」
「なんでいきなりプロポーズなのよ!?順番がおかしいでしょ!!順番がっ!!!」
「……ああ、そういえば。俺としたことがすっかり忘れてたよ」

メイドさんの至極真っ当な意見に、ポン、と手を打って再び美女を見つめ直しました。さり気なく両手を握り締めているのは決して幻覚ではありません。
手の感触で少しだけ正気に戻った彼女に向かってレッツ・リトライ。

「君が好きだ…俺と結婚してくだ「だから待て!!!」……さっきから何なんですか?邪魔しないで下さい」

二度目は途中で遮られ、貴公子の機嫌がドンドン下がっていきます。

「目を細めるな目を!!」
「告白を邪魔されて怒らない方がおかしいでしょう」
「普通の告白なら喜んで見守るさ!いや、たとえプロポーズでも段階を踏んでいれば問題ない!!奏江さんに『順番がおかしい』って指摘されただろ!?」
「ええ。だから、ちゃんと気持ちを伝えた後にプロポ――」
それがおかしいんだって!!!何で交際すっ飛ばして結婚なんだ!?」
「何を言うかと思えば……いいですか?俺はキョーコちゃんが好きなんです。というか愛してるんです。離れたくないと思うのは当然でしょう?なのにあなたはここから掻っ攫っていくなんて言い出すし……これからも俺の側に居てもらうためには、彼女を手に入れるしかないじゃないですか」


優男の常識的な発言も非常識な発言で一蹴です。


「あのねェ!手に入れたいなら恋人で十分でしょ!?」
「十分なはずないだろう。社さんが『家族』なのに、俺は『他人』なんだよ?恋人は『家族』じゃない。彼女の帰る場所が社さんの家だなんて納得できないし許せないというか認めないし許さない
「そんな屁理屈が通るわけないでしょーーーーーーっ(怒) 今まで気持ちも伝えなかったくせにやることが極端すぎるのよ!!」
「伝えなかったのはもう少し様子を見ようと思ってたからだ。未だに彼女には逃げられることがあるからね。まぁ、もう逃がさないけど」
「キョーコの意思もちゃんと尊重しなさいよ!!」
「『逃がさない』とは言ったが、別に無理矢理結婚するつもりはない。これでも断られることくらい覚悟してるんだ。けどその程度で諦めるつもりなんて毛頭ないし、一生かけてでも振り向かせる。そのためなら……父に『愛の歴史』『愛の真理』『愛の奇跡』をフルコースで語られるペナルティも辞さずに街に通えるね」

貴公子の決意の程を聞いた優男が「………………俺、今までなんで蓮が大人しくここに居るのか不思議だったけど……凄く納得しちゃったよ」と呟き、その傍らで少女も同意してしまったのは不可抗力です。


それきり訪れた沈黙を破ったのは、今まで呆けていた美女でした。

「あのぉ…何か誤解があるみたいなんですけど…」
「誤解?」
「………あれは敦賀さんの視線がやけに色っぽいから尻込みしてただけで……その…敦賀さんのことは好きです////」
「(――はて?そんな視線を送った覚えは……襲いそうになるのを必死に抑えた覚えならあるけど……いや、それはこの際どうでもいいな)………………本当に?」
「はい////」
「じゃあ…いい返事を聞かせてもらえるのかな?」

素晴らしくキュラキュラした笑顔を浮かべた貴公子に、常識カップルが「いやだから結婚はいきなり過ぎるって」と止めようとしたその時。

「私で良ければ喜んで////」

美女が結婚の申し込みを受けてしまいました。
予想していなかった展開(というか、貴公子のプロポーズからずっと予想外)に開いた口が塞がらない二人をおいて、他の三人は満面の笑顔を浮かべています。

「ありがとう、キョーコちゃん。幸せにするからね」
「よろしくお願いします////」
「お姉様おめでとう!私、心から祝福するわ!」
「マリアちゃ〜〜〜〜んっvv」
「蓮様もおめでとう!これからは『お義兄様』と呼ばせていただくわねっ」
「大歓迎だよ。あ、キョーコちゃん。結婚するんだから『敦賀さん』はもうダメ。名前で呼んでね?」
「わ、わかりました///」


「…………あの三人を見てると、何を言うのもバカらしくなってくるわ」
「まぁ…ね。でも、幸せそうだし」
「――そうね…」

すっかりその気になっている当人達や、最初から二人の結婚を望んでいた少女の嬉しそうな顔を見ているうちに、メイドさんも諭すことを諦めました。優男も最初こそ驚いていましたが、美女がいいなら何も言うつもりはないようです。
結局、美女と貴公子の仲は計画以上の進展を迎えることになったのでした。










美女と結婚する旨を報告した翌日――煌びやかな衣装でやって来た貴公子の父が一頻り感動の涙を流した後、貴公子は森の中から解放されました。もちろん、メイドさんも。

彼らは今、街でそれぞれの望む生活を手に入れ、幸せに暮らしているそうな☆









(おしまい)

いつもお世話になっている『百花繚乱』の蕾様への献上品、「美女と野獣の童話パロ」でした♪以前蕾様の優しいお言葉に堂々と甘えさせていただいたので、そのお礼に押し付け献上したリクですが…本当にお待たせしちゃいました(汗)
しかも例によって例の如く原作無視。いや、一応原作に合わせて家に返そうとしたんですけど「あの蓮様が素直にキョーコちゃんを手放すか?」と思ってしまったらもう書けませんでした(爆)

ちなみにこれ、一度消えちゃったので書き直したんですけど、「どうせ書き直すし、かなりお待たせしてるし、蕾様は社奏もお好きだったはず……えい!社奏も入れちゃえ!!」と自分の欲求も交えつつ書いたら最初の「前後編」が「前後編」に(笑) 話も全くの別物になりました。(消えたヤツは美女が帰ってましたから)
世の中は不思議なことばかりです。 ←お前の世界だけだ


配役は、
・商人→社
・美女→キョーコ
・野獣→蓮
・妖精→ローリィ宝田
・その他→(メイド)奏江、(美女の妹)マリア
でお送りしました☆
あと、役ではないですけど「赤いバラ→コーン」で。書かないと間違いなく気づけないので補足(笑)

蕾様、アホ話を快く受け取って下さってありがとうございましたっ!!



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