眠らぬ怨キョの中の美女 後編





「怨キョ」と名付けられた禍々しきオーラが城を覆ってから一週間。
王と王妃は二重の意味で困っていました。

「まさか緒方さんの魔法がここまでとは…(汗)」
「怨キョを放っている本人が眠っていても不眠不休で活動してるなんて……どういう魔法よ…」
「それより、城外の男が一歩足を踏み入れた瞬間に呪縛されたり泣いて逃げ出したりするのはまずいよ。真の愛に目覚めるどころか出会いすらなくなってるんだから」
「今の状況だと『キョーコの心を開ける男』より『あの怨キョをかいくぐって来れるだけの男』がいるのかが問題よね――いたらいたで怖いけど」
「……一人だけ、心当たりあるよ」
「……私もあるわね。黒崎さんの呪いにも当てはまっている人物に」





一方、城下では城で起こっている出来事の話で持ちきりでした。

・魔女の呪いが城を覆った
・城に入った男は怨霊に襲われる
・美しい姫はその事に心を痛め、泣いて暮らしている

などなど。
一部間違いもありますが、それらの噂はちょうど街にいた隣国の王子の耳に入りました。

「へえ…いつの間にか娘が生まれてたんだ…」

秀麗な顔立ちの王子は周りの視線を奪いつくしていることにも気づかずそう呟くと、足を城へと向けたのです。





「…………これはこれは」

城に着いた王子は、予想以上の状況に感嘆の溜息をつきました。


遠くからだと全く変わった様子のなかった城ですが、近づくに連れて徐々に鬱塞した雰囲気になっていきました。しかも、黒い霞のようなものが城を覆っていく様がはっきり見えます。

「噂は本当のようだな…………社さんが呪いの掛かった装置でも壊したのか?」

右を向いても左を向いても城の噂が飛び込んでくる今とは違い、一年前の出来事は知らない王子はそう推測しました。
そして彼が門から踏み込んだ瞬間のことです。


『男だわぁ〜〜』
『憎い男〜〜〜』
『クスクスクス……呪っちゃうんだから〜〜〜』
『うふふふふ…』

男に反応し、一斉に躍り出てくる怨キョ達。どうやらこの怨キョは誰でも知覚できるようです。
おどろおどろしい声音で怨みつらみを囁きながら、王子の身体に絡みついていきます。

それを見ていた門番達は深〜〜〜〜い溜息をつきました。

(可哀相に…)
(この一週間、毎度同じパターンで全員逃げ出したからな)
(俺達には全く害がないのに…王女も今まで通り接してくれるし)
(あんな美形でもダメなのか…ていうか、あの顔どこかで見たような……?)

初日は入ってきた男性を助けていた門番達も、今では傍観者に徹することにしているようです。なかなか順応力のある方々ですね。
いつものように逃げ出すか固まってしまうか――後者の場合は(罪滅ぼしを兼ねて)自宅まで送り届けていますが――どちらかだろうと見守っていました。


しかし、彼らが目にしたものは……

「……呪う?この俺を?」
『『『『???』』』』
「面白い事を言うなぁ…なら、やってみてもらおうかな?」(…くす…)
『『『『ひぃぃぃっっ!!(目が!目が笑ってない!!)』』』』
「あははははは。笑いかけてるのに怯えるなんて、失礼じゃないか?」
『『『『(こ、怖いぃぃぃっ)ごめんなさぁぁぁぁぁい!どうぞお進みくださいませぇぇぇぇっ』』』』
「そう?ならお言葉に甘えて」(にっこりv)

黒い霞に(見た目には)最上級の笑顔を向けた後、王子は城内へと入って行きました。


驚愕で固まっている門番の一人が「…………思い出した」と呟いたのは、それから大分後の事です。





「蓮!?」
「お久しぶりです、社さん。奏江ちゃんも元気そうで何より」
「ど、どうも…(滝汗)」
「何でここにっていうかどうやって来たんだ!?」
「城下で色んな噂を耳にしたので。ここへは普通に来ましたけど?
あ、門の所で『呪う』とか何とか戯言を言っていた黒いモノがいましたね。でも、すぐに快く通してくれましたよ?」
「「………………ドンピシャか」」(フッ)
「?」

王と王妃、共通の心当たりであった「怨キョをかいくぐって来れ、且つ黒崎の魔法に当てはまっている人物」を目の前にし、二人の視線はどこか遠くへと向いています。
その反応を訝しげに見ていた王子ですが、とりあえず自分の疑問をぶつけてみることにしました。

「それより、どうして子供が生まれた事を教えてくれなかったんですか?水臭いですよ」
「どうしてって……一年前、招待状を送ったのに行方不明になっていたのはどこの誰だ?」
「ここの俺ですが」
そうだお前だ。行方知れずの相手にどうやって知らせるんだよ」
「……まあそれはいいです」
「逃げたな?」
「(スルー)ところで、この現状はどうしたんですか?何か呪いの掛かった装置でも壊したんですか?その手で
「どうしてそうなる!?」
「いえ、一番あり得そうだったので」


二人のやり取りを他人事のように聞いていた王妃は、一年前の悪夢のような出来事と一週間前の出来事を掻い摘んで説明しました。
一通り聞き終えた王子は、同情の眼差しを二人に向けます。

「大変でしたね…」
「まあな…(かろうじて)まだ黒崎さんの予言は当たってないけど」
「そうね。(敦賀さんがキョーコに会いさえしなければ)まだ残ったままね」
「……やけに『まだ』を強調してませんか?」
「「別に。」」
「…………で、肝心の姫君はどうしてるんです?早く恋をしなければいけないんでしょう?」

二人からの視線をかわし、心配そうに問いかけます。同時に、王と王妃は顔を見合わせました。

「何か?」
「いや、お前の口から『恋』なんてものを聞けると思わなかったから…お前自身、したことないだろ?」
「……俺の事はどうでもいいじゃないですか。今問題なのは姫君の事でしょう?」

バツが悪そうに視線を逸らす王子を見て、二人はこっそり相談しました。

「幸か不幸かは別として、黒崎さんの言ってた男が蓮であることは間違いないよな……てことは、蓮以外にここまで来れそうな男はいないって事になるけど…この恋愛経験ゼロ男に真実の愛とやらが語れるのか?」
「キョーコも大概鈍い子に育ったけど、彼も相当なものだし…」
「だよなぁ…それに上手くいったとしても複雑だよ……蓮が息子になるんだから」
「私なんか年上の息子ができるのよ…」
「ていうかさ、俺達の娘に愛を語るのは犯罪じゃないのか?」
それを言ったら誰一人適任者がいなくなるわね。時間的には一年でも身体と心は16歳なんだから目をつぶりましょう」
「……う゛(涙)」


王女の呪いを解く(成長を止める)事ができるのか、そしてできたとしてもその後の事を考えると悩みの尽きない二人ですが、一先ずは話も纏まったようです。

「あ゛〜〜・・蓮?」
「はい?」
「えっとな…その……娘の事なんだけど」
「はい」
「お前に頑張っ」

「てもらいたいな〜〜〜」と続けようとした瞬間、

バッタン!

「お父様!お母様!」
「キョ、キョーコ!?」
「どうしたの!?」
「………………………」
「にっくき男が来てるんですって!?怨キョ達が『悪魔なんて目じゃない大魔王がやって来たぁぁぁぁっ』って泣いて縋ってきたわ!!」
「あの怨キョが…」(チラリ)
「泣いて縋った…」(ちろり)
「………………………」
「…………この人誰?」


一頻り騒いだ後、両親の前で立ち尽くし、自分から一瞬たりとも視線を外さないひどく美しい男に気づいた王女は、二人に尋ねました。
「男なんて信じられない」「恋なんてしなくてもいい」と思っていた王女でしたが、彼の視線に胸が騒ぎます。それを誤魔化したくて、上ずりそうになる声を懸命に抑えての行動でした。

「あ、ああ…蓮は隣国の王子で、俺達の友人だよ。今日は偶々ここを訪ね「社さん」て来た――って、どうした?」
「彼女が…二人の?」
「え、ええ。正真正銘、娘のキョーコだけど…?」

今までに見たこともない王子の様子に、二人も戸惑いを隠せません。
すでに二人の事は眼中にない王子は、王女の許へツカツカと優雅に向かいました。彼女の目の前にまで行くと、息遣いがわかるくらいまで顔を近づけます。

「ちょ…っ////(顔!顔近すぎ!!)」
「……キョーコ姫」
「ななななななにっ?(耳元で囁かないでーーーーっ///)」
「俺の后になってくれませんか?」
「/// だから耳元でっ……………………………………はい?」

展開の早さに、告白された王女のみならず王と王妃も呆気に取られています。それを引き起こした当の本人は、とろけるような甘い微笑を崩していません。
唐突過ぎる告白第2回目の王女は割りと早く硬直が解け、顔を真っ赤に染め上げました。


「いいいいいきなり何を!?」
「俺もこんな気持ちは初めてで上手く説明できないんだけどね……君を見て、どうしても欲しくなったんだ」


((親の目の前で口説いてどうする…))


「ほ、欲しいって…私はモノじゃないのよっ」
「わかってるよ。君には君の意思がある。だからこうして頼んでいるんだ。モノ扱いするつもりなら、わざわざ訊いたりしないでそのまま連れ帰るさ」


((親の目の前で誘拐宣言??))


「…………私、成長が早すぎてすぐにおばあちゃんになるわよ?」
「なら、俺も新開さんを脅して同じ速度で成長させてもらうよ」


((今、ナチュラルに危険な発言しなかった?))


「……………………いいの?私なんかで…」
「『なんか』じゃないよ。君だから欲しいんだ……ダメ?


((……誰?ていうか、何が起こってるんだろう…))


「……お、お受けいたしマス///」
「ありがとう!君だけを一生愛することを誓うよ、キョーコvv」







――王と王妃が正気に戻ったのは、「これからもよろしくお願いしますね。義父君、義母君v」という王子の言葉が耳に届いてからでした。










そして…王女の魔法が解けたとわかったのは、数週間後のこと。

それからというもの、二度と怨キョは現れなかったそうな☆









(おしまい)

大好きな『Organism Dream』様のナオ様へ7万hitのお祝いに捧げたリクで、「スキビ版・眠れる森の美女」でした!
原作の名残は一切ありません。 ←言い切ってどうするよ
そして、「いばら」だと面白くない(←マテ)ので「怨キョ」にしてみましたv

配役は、
・王→社
・王妃→奏江
・王女→キョーコ
・王子→蓮
・魔女→新開、黒崎、緒方、(未招待)絵梨花、(最年少)ローリィ宝田
・老婆→尚
です。


ナオ様、遅い上に駄文すぎてゴメンナサイ!!m(_ _)m 苦情、お受けします!



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