Happiness
「蓮っ!次行きましょ、次っ」
「はいはい。そんなに慌てなくても観光地は逃げたりしないよ?」
「でも、時間は限られてるでしょ?だから…ね?急ご?」
蓮の腕に自らの腕の絡ませ、急かすキョーコ。
そんな彼女を、蓮は甘やかな微笑みを浮かべて見つめていた。
二人は今、映画の撮影でローマに来ていた。
彼らが出演するのは、ある有名な映画を現代風に復刻したもの。その撮影場所として、本場のローマが選ばれたのだ。
初めての海外ロケも、蓮が一緒だということで不安を抱かずに済んだキョーコは、いつも通りに演じることができている。
蓮は蓮で、相手役がキョーコのためかいつにも増して完璧な演技をしていた。
主役二人がこの調子なので、撮影は順調に進み――思わぬ収穫を生み出した。予定には無かった休日を得たのである。
そして、社の計らいもあり、二人は一緒に観光地を回ることになった。
ここは日本から遠い外国の地。
日本では誰もが知る超有名人である二人の顔も、外国では知っている人は知っている、といった感じだ。そのため、日本では絶対にできない『恋人の顔で外を出歩くこと』ができる。
仮に日本人に出くわしてしまっても、二人が撮影でローマに来ており、その役柄が『恋人』であることは広く知れ渡っているので問題ない。勝手に撮影中だと勘違いしてくれるだろう。
――そんなわけで、キョーコはかなりはしゃいでいた。
「ねえねえ!あれ、試してみない?」
「…………言うと思った」
ワクワクした様子で誘ってくるキョーコに、蓮は苦笑を浮かべた。
彼女が指差す先にあるのは、かの有名な『真実の口』。
サンタ・マリア・イン・コスメディン教会の入り口にある真実の口には、『嘘をつくと噛まれて手が抜けなくなる』という言い伝えがある。
迷信の類が大好きなキョーコのこと。きっとそう言うだろうと思っていたのだ。
「で、でも…やってみたくなるのが人情ってものでしょ?」
「――…それは、『俺には人情が無い』という意味かな?」(にっこり)
「言ってない言ってないっ!そんな事は一言も言ってないっ!!
…………あ、もしかして……………嫌……?」
「まさか。俺がキョーコのお願いを断った事なんてある?」
「ない、けど…」
「だろ?さ、やってみようか」
そう言ってスタスタと真実の口に近づいて行く蓮を、キョーコは慌てて追いかけた。
彼女が追いついたときには、蓮はもう『口』の前に立っていて、少しだけ膝を折ってから右手をその中へと差し込んだ。そして、キョーコに微笑みかけ――
「俺は『最上キョーコ』の全てを………心から愛してるよ」
「っ……れ、蓮っ////」
キョーコが真っ赤になっていると、蓮は徐に手を引いて「抜けたね」などと言う。
それが彼女の顔を更に赤く染めていくことになったが……蓮は笑みを深めるだけ。
「――という事で、今口にした言葉に偽りがない事が証明された訳だ。ま、こんなもので証明するまでもないけどね」
「っ〜〜〜〜〜/////」
恥ずかしげもなく言い切る蓮。キョーコの方が照れて俯いてしまった。
そんな彼女を愛おしげに見つめながら、蓮は「キョーコはやらないの?」と、何食わぬ顔で促がす。
赤い顔で少しだけ考えた後、キョーコはそっと『口』の中へ左手を入れた。
「…………わ、たしも……芸能人の『敦賀蓮』も…ただの『敦賀蓮』も………今隣にいるこの人の全てが……………好き、です……///」
――蓮は目を見開いた。
隣にいて、やっと聞こえるほどの小さな声。
それでも……蓮にはハッキリと届いた。
(――…二人きりのときでさえ恥ずかしがって滅多に言わないのに……小声とはいえ、周りに人がいる中で………)
手を引き抜き、「………証明完了」と呟く彼女を――湧き上がる想いのままに抱き寄せた。
まさかそうくるとは思っていなかったのだろう。キョーコは驚きで身体を強張らせている。
腕の中の彼女に、蓮は囁いた。
「本当はキスしたいんだけどね……人前は恥ずかしいんだろう?だから、今はこれで我慢しておくよ…」
目立つ二人の抱擁は、結局周りの視線を集めることになったが……
キョーコは幸せそうに身を任せていた。そんな彼女に、蓮が甘やかな微笑みを浮かべたことは言うまでもない。
真実の口からナボーナ広場へと移動した二人。
そこでランチを済ませた後は、似顔絵を描いてもらったりパフォーマンスを見たりして楽しんだ。
――その間、二人は日本では考えられないほど密着していた。
たとえば移動。
手を繋ぐか腕を組むか――とにかく、常に触れ合う。
たとえば食事。
向かい合わせに座るのではなく、隣に座る。しかも、「それ美味しい?」とお互いの料理を食べさせ合う。
たとえば休憩。
食事のときですら隣なのだから、当然の如く隣。もちろん、蓮はキョーコの肩に手を置いて抱き寄せている。
二人の立場上、普通の恋人同士のようなデートは一生できないと思っていたキョーコは、周りの目は気になるものの嬉しさの方が勝っており、少し開放的になっていた。
蓮もまた、普段は『事務所の先輩』としてしかキョーコの隣にいることができず、彼女に言い寄ってくるハエ共を歯痒い気持ちでやんわりと追い払っていただけに、こうして堂々と恋人でいられることを嬉しく思っていた。
その結果――二人の密着度が高くなったようだ。
そして、夕闇が迫った頃。
キョーコの希望により、最後に『トレビの泉』へと足を運ぶことになった。
『トレビの泉』にも言い伝えがある。
コインを後ろ向きに1枚投げると、またローマに戻って来られる。
2枚投げると、一緒に投げた人と永遠に結ばれる。
3枚投げると、その人と別れられる。
――キョーコが試さないはずはない。
だが、キョーコは泉に着いた後、真剣な顔で悩み始めた。
コインを右手に1枚、左手に2枚乗せ、両手と泉を交互に見る。
「……どうした?」
「ん…どっちの願掛けをしようかと思って」
「?」
「今日すごく楽しくて、幸せだったから…また来れたらいいな、って。でも――」
「―――恋愛祈願の方もしたい、と」
キョーコの言葉を引き継ぐと、彼女は真っ赤な顔で小さく頷いた。
その姿があまりにも可愛らしくて……蓮は抱き締めたい気持ちを必死に抑えながら、「なら、片手ずつ投げればいいんじゃないか?」と問うた。
「そうしようと思ったんだけど…それって、3枚投げた事にならない?――…それは……………困る、から……////」
(……もしかして、理性の限界を試されてるのか…?正直、負けそうなんだが…)
思わず座り込みたい衝動に駆られたが――せっかくの雰囲気をぶち壊すわけにはいかない。
蓮は、かつてないほどの集中力で自制することに成功した。
「蓮――…?」
「…いや、何でもない。
――それよりコインだけど…俺にいい考えがある」
「え?なに??」
「とりあえず、右手のコインを俺に渡してくれる?」
「?……はい」
言われた通り、素直にコインを1枚渡す。
すると、蓮は泉に背を向け――
「じゃあ、『せーの』で同時に投げるよ?」
「は??」
蓮の意図がわからず、キョーコは首を傾げた。
だが、「いいから。ほら、後ろ向いて」と促がされ、しぶしぶ構えた。
「いくよ?――せーのっ」
ポチャン・・という音が、3つ響く。
「これで良し」
「…………ごめん。蓮が何をしたかったのか、よくわからないんだけど」
「そう?簡単な事だよ?
キョーコは『一緒に投げた人と永遠に結ばれる』ように願掛けをした。で、俺は『またローマに戻って来られる』ように願掛けした」
「うん」
「数は違っても『一緒に投げた』事に変わりはないだろう?俺達は永遠に結ばれるんだから――俺がここに来るときは、キョーコも一緒って事になる」
……数秒の沈黙が訪れた後、キョーコは噴き出した。
「す、すごいヘリクツ…っ!さ、さすが蓮だわ…………ぷっ!!」
「………………そんなに笑わなくてもいいだろう……」
やや憮然とした表情で呟く蓮に「ごめんごめん」と謝ってから――彼女はとても穏やかな、満面の笑顔を向けた。
「………ありがとう、蓮……」
「…どういたしまして。まあ、仮に願掛けが無効だったとしても……俺は一生キョーコを手放すつもりはないし、キョーコが望むならここに連れてくるから」
「……………じゃあ、コインの代わりのものを捧げておかないと……」
「…え…?」
・・・・ちゅv
「っ!!??」
「が、願掛けも済んだし、そろそろホテルに戻りましょ?///」
自分の行動に今更照れてきたキョーコは、蓮の返事も待たずにホテルへと足を向けた。
――彼女の笑顔に、ただでさえクラクラしていた蓮。
彼の理性が崩れ去り、大衆の前でキョーコからのものとは比べ物にならない深い口付けをしてしまったことは……やむを得ない出来事である。
日本からは遠い、ローマの地。
愛する人の隣にいられる幸せを、改めて感じた二人だった――
(終わって下サイ)
『MORE BY LUCK THAN MANAGEMENT』のるき様へ捧げた相互記念リク、「海外ロケで外国へ。ばれる心配も無いので堂々といちゃラブデートをする蓮キョ」でした☆
……フッ。
「いちゃラブデート」じゃなくて「ただのバカップル」になりました…i|||i_| ̄|○i|||i
いや、管理人にはこれが精一杯でして(汗) 日本のあらゆる知識も無い管理人が海外の知識なんて持ってるはずもなく…一応調べましたが、間違ってる可能性大。(キッパリ)
ちなみに、トレビの泉の言い伝えは「2枚」が「2回」だったり、「好きな人と結ばれる」や「嫌いな人と別れられる」だったりと、色々と種類があるみたいです。
今回は二人に合わせた言い伝えを採用させていただきましたv
るき様…頂いた素敵な作品とコレでは、間違いなく割りが合いませんが……
煮るなり焼くなりお好きにドウゾ!!
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