目指すは介護士?





・・・ドタドタドタドタドタッ バンッ!!


「キョーコッ!!大丈夫か!?」
「うわっ!?ど、どうしたの?蓮」

リビングでくつろいでいたキョーコは、けたたましい足音とともにスゴイ勢いで開け放たれたドアに驚いた。が、更に驚いたのは蓮の帰宅である。


二人は今、同じドラマに出ている。そこでいつもは一緒に仕事に入り、一緒に帰ってきているのだが、今日は蓮だけ日付が変わるまで仕事だったので、夕方に上がりのキョーコは先に帰ってきたのだ。
しかし、現在の時刻はPM10:30。しかも随分と強張った表情で走りこんできた――今は拍子抜けしたような表情だが。


一体何事かとキョーコが考えていると、困惑したように蓮が尋ねてきた。

「……車道に飛び出した子供を庇って事故に遭った、って聞いたんだけど?」
「あっそれか!うん、遭ったわよ?幸い車と衝突はしなかったから、全治一週間の軽い捻挫ですんだけどね」

キョーコは自分の右足首を指差す。確かに、包帯でしっかり固定されているようだ。
それを聞いて安心したのか、蓮は深い溜息を吐いた。

「……驚かさないでくれ……こっちは心臓が止まるくらい心配したんだよ?運転中も『先に帰さなければよかった』って、ずっと後悔してたんだから……」
「ご、ごめんね?でも、私がマンションにいる時点で大したことないって思わなかったわけ?」
「……そんなこと考える余裕はなかったよ」

拗ねたように呟く蓮に、「可愛い〜v」と思ってしまうキョーコ。ただし、絶対に口にしない。(後が怖いから)

「心配してくれてありがとv
ところで仕事は?……まさか、抜けてきたわけじゃないわよね?」
「心配無用だよ。早く帰りたくて連絡が来るまでに終わらせていたからね」(にっこり)
「そ、そう…(皆さん、ご愁傷様です……)
「それより、足が治るまでは俺が君の世話をするから」
「はぁ!?たかが捻挫で何の世話をしてもらうってのよ」
「捻挫を甘く見ちゃいけない。安静にしてないと治るものも治らなくなるぞ?」
「いや、そこまでしな……キョーコちゃん?はいぃぃぃっ!よろしくお願いしますぅぅぅぅぅっ!!

キョーコの返事に満足したのか、蓮はにこやかに笑って「お風呂は?」と尋ねた。その笑顔がかなり怪しいことは言うまでもない。
キョーコは顔を引き攣らせ、ブンブンと首を横に振った。

「きょ、今日は患部を温めちゃいけないらしくて入れません!」
「……じゃあ、身体を拭かな「自分でしました!」……そう。なら、お風呂はいいか(また明日があるしねv)
「そ、そうねっ!!」

一瞬つまらなさそうな表情をしたが、すぐに微笑みを浮かべる蓮。実は全く諦めていないのだが、単純なキョーコはしっかり騙されたようである。


その日の彼女は、シャワーから上がった蓮にベッドに運ばれるだけという、わりと穏やかな終わり方を迎えられたのだった……







そして翌朝――

「……ん…?何の匂い……?」

微かに漂ってくる芳ばしい香りで目が覚めるキョーコ。
そこで違和感を感じた。いつもなら自分を抱きしめている腕と温もりがない。

「……蓮?」
「――あ、起きたみたいだね」

タイミングよく寝室に顔を出す蓮。珍しいことに、早起きのキョーコより先に起きていたようだ。
キョーコは寝ぼけ眼をこすりながら、挨拶する。

「……おはよう。今日は早いのね」
「おはよう。簡単なものしか作れなかったけど、朝食できたよ」
「へぇ、ありがとう……………………ええっ!?れ、蓮が作ってくれたの!?て言うか作れたの!?」

今の一言で一気に覚醒した。
一緒に暮らし始めて一年と数ヶ月。毎日キョーコが作っているということもあるが、彼が料理する姿など見たことがない。しかも蓮はキョーコと会うまでは食生活が壊滅的だったのだから、彼女の驚きは当然のことである。

蓮は苦笑しながらもキョーコを抱き上げ、リビングにまで運んでいった。

「言ったろう?『簡単なもの』だって。トーストとベーコンエッグとサラダしか用意できてないよ」
「朝食としては十分よ!ありがとう、蓮vv」
「このくらい、なんでもないよ」(にっこりv)



「美味しかった〜v」

朝食を食べ終えたキョーコは満足そうである。

「お褒めいただき光栄だね。それより、着がえ手伝「さ〜て着がえてメイクメイクっ」……だから手「蓮はもう準備できてるのね!私もすぐに済ませるからっ」……わかったよ。部屋まで運ぶから、準備しておいで?」

ようやく折れた蓮に、キョーコは「勝ったっ!!」と心の中でガッツポーズした。







マンションから車までお姫様抱っこ。車から撮影場所までもお姫様抱っこ。というより、移動は全てお姫様抱っこである。
家の中だけならまだしも、これはさすがに恥ずかしいキョーコ。

「……ねぇ蓮。少しくらい歩いても大丈夫だから、下ろしてくれない?」
「ダメ」(即答)
「〜〜〜っ皆に見られて恥ずかしいんだけど///」
「俺は恥ずかしくない」(きっぱり)

あくまで譲らない蓮に、キョーコは溜息をつくしかない。

「……収録中はイヤでも歩かなきゃいけないんだ。骨にヒビが入っても演技をした君のことだから、足を庇いながら、なんてマネはしないんだろう?」
「それはまぁ、ね…」
「だったら、他のときに歩いて欲しくないんだよ」
「………………」

困ったような微笑でそんなことを言われたら、何も言えない。キョーコは満面の笑みを浮かべ、

「それじゃ、甘えさせてもらうわねv」

と、蓮の腕の中で大人しくすることに決めた。
その瞬間、蓮の神々しい笑顔で周りの女性達が次々に倒れたことは言うまでもない……







本日の仕事も終わってマンションに帰り着いた二人は、夕食の準備を始めた。
なぜ二人で夕食を作ることになったかというと、

「どこで食べる?」
「へ?家で食べればいいじゃない」
「さすがに夕食として出せる料理を作る自信はないからね」
「いいわよ、私が作るから」
「ダメ。料理を作るには長時間立ってなきゃいけないだろ?」
「大丈夫よ、大したことないんだし。何ならイスに座ってやればいいんだから」
「…………なら、俺も手伝う」

――ということである。
キョーコの指示に従って料理をする蓮に、キョーコは感心してしまった。

「蓮、包丁の扱い上手ね」
「そう?ほとんど使ったことないんだけど」
「ほんとにぃ〜?どっかのバカは旅館の跡継ぎのクセに包丁握ったことすらないから、皮むきもできな…………あ゛。」

つい尚のことを口にしてしまい、「しまったぁぁっ!!」と思ったがすでに後の祭り。
蓮の表情は明らかに不機嫌になっている――が、すぐに似非紳士スマイルへと変わった。


「へえ?そうなんだ?」
「え〜と……あの〜」
「アイツにできなかったって言うなら、完璧にできるようにならなきゃね?」
「そ、そんなことないと思われます…」
「(スルー)ところで、アイツは誰かの世話なんてできないだろ?」
「そ、それはもちろんでございます…」
「……そう。なら、全部において頑張らせてもらうよ。着がえからお風呂までねv」(キュラリ)

輝きが増した瞬間、キョーコの頭の中では「終わった…私の平穏」というフレーズが流れていた。







――キョーコの足が治った一週間後、蓮の介護スキルは見事なものになっていたそうな。











Sana様に相互記念として押し付けたリクエストによる、「キョーコがケガをしてしまって、その世話をかいがいしく焼く蓮様」でしたv

……どうしてこうなったんでしょう?(←オイ)最初は慌てふためく蓮様を強調した話にするつもりだったんですが、書いてるうちにだんだん違う方向へ……i|||i_| ̄|○i|||i
尚君なんて最後の最後まで出す予定じゃなかったのに、どっからか現れてますしね…


Sana様…駄文に輪をかけた駄文になってしまい、申し訳ありません(涙)
苦情・返品お待ちしております……m(_ _)m