彼女の夢と彼の応え方
一度は尚こと松太郎の所為で諦めていたが、キョーコには恋人ができたら是非してみたいことがあった。それは――
「ねぇ蓮?ちょっとだけ、外を歩いてから帰らない?」
「それは別に構わないけど……その手にある長いマフラーは…………何?」
今日のスケジュールは全て終了し、先に終わって待っていたキョーコにかけた「ごめんね、待たせて。帰ろうか」という言葉への返事が、先程のものである。
そして、キョーコが手にしていたモノは3メートルは優にある、シックなマフラーであった。
キョーコの、一部偏った一般常識というものをよく知っている蓮は、もの凄く期待している瞳で見つめてくる可愛い彼女の様子から大体の予想がついていたが、思い過ごしであるようにと願って訊いてみる。
だが、返ってきた答えは予想していたものと寸分の狂いもないものであった。
「あのねっ、このマフラーを一緒にしましょv」
「………………(やっぱりか……)」
「私、ずっと彼氏と一つのマフラーを二人で巻くのが夢だったのvすっごく恋人っぽいじゃない?」
「………………そう…かな……?」
「そうよ!…………ダメ?」
可愛い表情で、おまけに上目遣いで頼んでくる彼女のお願いを断るなど、蓮にはできない。内心「やれやれ」と思いながらも了承しようとしたが、そこでふとある事に気付く。
「……キョーコ」
「なに?」
「やるのは別にいいんだけど……俺たちの身長差だとちょっと無理なんじゃないか?」
「…………あ…そうね……」
二人の身長差は30センチ以上ある。これだけ離れていると、どうしても不恰好になってしまう。
明らかにしょぼくれてしまったキョーコを見て、蓮は優しく笑いかけながら、
「お嬢さん?これでは不満かな?」
と、キョーコをコートの内側に招き入れた。
最初は驚いていたキョーコだが、状況を理解すると嬉しそうに微笑み、
「ううん!これも夢だったから嬉しいv」
「それは良かった。じゃあ、ちょっとだけ散歩しようか」
「そうねv」
事務所を出てから15分ほど歩いた頃、キョーコはある露店の前に立ち止まった。そこは女物のアクセサリーを売っている店で、キョーコ好みの可愛らしいデザインのものが色々と置いてある。
「うわぁ、この指輪かわい〜v 蓮もそう思わない?」
「ん?ああ、そうだね」
「……………………」
「……………………」
「…………蓮。ここは『じゃあ、買ってあげようか?』って言うところでしょ?」
「……そう?」
頬を膨らまして抗議してくる彼女に、思わず蓮は尋ね返す。キョーコは当然とばかりに、
「そうよ!こういう露店で彼女が『かわい〜』って言ったら彼氏は『買ってあげるよ』って言って、それを彼女の指にはめてあげるものでしょ!」
とのたまった。間違いなく一般的な恋人同士の会話ではないのだが、夢見るキョーコにはわかっていない。
それに蓮は苦笑し、キョーコの左手を取って、
「うーん…そう言われてもね……
俺としてはフリーサイズの指輪じゃなく、この指にピッタリのものを贈りたいんだけど?」
と、微笑みながら薬指に口付ける。その意味を理解したキョーコは顔を真っ赤にして、何も言えなくなってしまった。
「今度、一緒にちゃんとしたのを買いに行こう?」
「……うんv」
「それじゃ、そろそろ帰ろうか。明日も仕事だしね」
再び彼女をコートで包み込み、二人仲良く事務所の方へと戻っていく。
余談ではあるが、二人が立ち寄った露店商の男性は大量に砂を吐いていたとか――
マンションに帰ってキョーコの手料理を食べた後、二人はティータイムを楽しんでいた。
今日した仕事に始まり、誰に会ってどのような会話をしたのかなど、色々と話をしていたとき、蓮は不意に思ったことを口にした。
「ねぇキョーコ。恋人としたかったことって、今日したことで終わり?」
「違うわよ?まだまだたくさんあるわ」
「…………そう。参考までに訊くけど……一番してみたいことって、何?」
「え〜っとぉ……今の時期じゃ無理だけど、一つのジュースを二人で飲んでみたい、かなv」
訊かなければ良かった、と思ったが、もう後の祭りである。訊いてしまった以上、きっといつか頼まれたときには応えてしまうだろう。
だが――
「二人で一つものを飲む、ねぇ……」
「(今何かイヤな予感が……)ど、どうしたの?」
「うん?別にどうもしないよ。
ただ、同じ『二人で一つのものを飲む』なら――」(コク)
「!?ちょっ…………んん…っ」(こくん)
「こっちの方が好みかな」
(強制終了!)
秋崋様に相互記念としてリクエストしていただいた「甘々・バカップル思考満開なキョーコにたじたじになりながらも、最終的にはマイペースの蓮がキョーコを振り回す」でした。
うむぅ、リクエストに応えれていませんね……纏まりもないし……
「バカップル思考」は管理人の偏見です。いっそのこと「ダーリン」「ハニー」で呼ばせてやろうかと思いましたが、それはギャグだろうと思い留まりました!
秋崋様、相互記念にいただいたイラストとは比べることもおこがましい駄作ですが、どうぞお納めください!苦情はバッチリ受け付けますので!
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