恋愛音痴





君を好きだと気付いてから、どれだけ経ったのか……この想いは日に日に強く、深くなっていく。
自覚してからは、社さんが「胃がキリキリするからもう少し周りを気にしてくれ」と泣いて頼んでくるくらい、君に対してアプローチしているつもりなんだけどね?

なのにどうして……どうして君は気付かないんだっ!





<実証その1>

「敦賀さん、ちゃんとご飯食べてますか?」
「え?」


事務所で見かけて差し当たりのない会話をしていると、彼女は突然そう言った。
食事の話はしてなかったはずなんだけど……

「この前社さんに泣きながら言われたんですよ。『もう俺にはどうしようもない……キョーコちゃん!お願いだから蓮のこと気付いてやってくれ!』って。
ダメですよ敦賀さん、ちゃんと食事しなくちゃ。また風邪引いたりしたらどうするんですか」

最上さん……社さんが言ったのは食生活じゃなくて俺の気持ちだと思うよ?いや、俺の身体のことを気遣ってくれるのは嬉しいんだけどね?


「大丈夫だよ、最近は前より食べるようになっ」
「嘘ついてもダメですよ、関係者に聞き込みしましたから」

…………君は聞き込みが趣味なのか?俺に直接訊いてくれればいいのに。

「そうか、最上さんはわざわざ聞き込んでまで知りたいほど俺のこと気にしてくれてるんだね」
「へ?」
「だったら、君がご飯作ってくれる?君の料理なら、何があっても食べるよ?晩御飯も作ってくれると嬉しいね」


そう告げると、彼女は吃驚した表情になる。そりゃそうだろうな。別に料理が目的じゃなく、俺の気持ちに気付いてもらうことが目的だからいいけど。
――いや、やっぱり作って欲しい。

なんて思っていると、彼女はすごく嬉しそうな顔になっていた……もしかして、脈ありか?

「本当ですか!?だったら作ってきますよ、お弁当!お夕飯も作りに行きます!
それにしても、敦賀さんって料理にこだわりがあったんですね!以前は『腹に入れば何でも同じ』なんて言ってたのに!」
「……いや、ちょっと待」
「早速今日から作りに行きますよ!お仕事終わったら連絡してください!
あ、もう仕事に行かなきゃいけないんで、これで失礼しますねっ」

盛大に勘違いしたまま彼女は立ち去ってしまった。
でも……まあいいか。これから彼女の料理を毎日食べられるようになったし。――背後から社さんのすすり泣く声が聞こえた気がするけど。





<実証その2>

「あの……敦賀さん、わざわざ毎日送ってくれなくてもいいですよ?」


晩御飯を一緒に食べた後、最上さんを彼女の下宿先まで送ることが生活の一つとなった頃、彼女はありえないことを言い出した。

「……何を言い出すのかな、このお嬢さんは。俺のために毎日食事を用意しに来てくれている君を送るのは、当然のことだろう?」
「でも、敦賀さんだってお疲れなのに、こんな遅くに運転させるのは悪」
「こんな遅くに一人で帰るつもりか、君は。随分と危機感が欠けているんだね」
「は?危機感、ですか?」

彼女は何のことだと言わんばかりの表情で首を傾げている。
――そんな仕草も可愛いと思ってしまうあたり、俺も重症か……?

「君は女の子なんだよ?襲われたらどうするんだい?」
「あはは、何言ってるんですか。私なんかを襲う物好きはいませんよ」

俺はいつも襲いたいよ?今すぐ実行してあげようか?

「仮に襲ってきたとしても、ブラックたちが守ってくれますからv」

『ブラックたち』?まさか君はあの不穏な空気のことを言っているのか?確かに、その辺の小者なら泣いて逃げ出すだろうけど……


「最上さん、その自信はどこから来るの?」
「え?そりゃもう、ある人以外には効果的だとわかってますから」
「……じゃあ、その『ある人』とやらと同じようなヤツに襲われたら?」

そう言うと、彼女は何故か俺の方を冷や汗を掻きながら凝視し、固まってしまった。
……俺に襲われるとでも思っているのかな?
失礼な。たとえ常日頃襲いたいと思っていても、強引に迫ることしかしないさ。

「……スミマセン。これからもお願いしマス」
「素直でよろしい。
――でもまあ、君がどうしても気を遣うって言うのなら他にも方法はあるけど?」
「他に?」
「ああ。君が俺のマンションで泊まっていけばいいんだよ。俺も安心だしね?

これで少しは俺の気持ちも伝わったかな?と思いながら彼女を見る。
だが、顔を真っ赤にして怒鳴ってくるという予想に反し、何故か閃いた!という表情をしていた。……何だか嫌な予感がする。


「その手がありましたね!じゃあ、これから夜遅くなったときは泊まらせてください!」
「………………」
「実はゲストルームにあるベッド、すごく寝心地が良かったんですよね〜。確かに敦賀さんなら安心だし、お言葉に甘えさせていただきます♪」

……予感的中か。
『俺も安心だし』とは言ったが、それは「俺が安心する」という意味であって、決して「俺のことは安心だ」という意味じゃないんだけど。やっぱり俺の気持ちにも気付いてないし。
それに安心されているっていうのも、微妙だな。男として見られてないのか多大な信頼を寄せてもらっているのか――


しかし、すごく嬉しそうな彼女を見ていると断れない。俺も理性がもつか心配なだけで嬉しいのは嬉しいし。口説く機会も増えるしね。









「……と思って何度もそれらしい素振りを見せたんですけどね。彼女、全く気付いてくれないんですよ。どうしたらいいと思います?」
「蓮以上の恋愛音痴だったのか、キョーコちゃんは……このままだと俺の苦労が増大しかねない……ん?待てよ…そう言えば……」
「もっと大胆に迫るべきなんでしょうか?でも、せっかくの彼女の信頼を失いたくないですし――社さん、聴いてます?」
「…ん?ああ、聴いてる。それでな、一つだけ気付いたことがあるんだよ」
「え?何ですか?」
「態度で示す前に告白ぐらいしろ、この元祖恋愛音痴。」









(終われ。)

夏嵐様にリクエストしていただいた「蓮→キョ・蓮は自覚ありでかなり想っているのに、それに気付かないキョーコ」でした!

……微妙っていうかかなり違う作品になったような気が……結局蓮様も恋愛音痴のままだし。ギャグ風味なのは管理人の暴走です。


夏嵐様。リクを満たしきれてない駄作ですが、よろしかったらもらってやってくださいっ。苦情もドウゾ!