服用の際は正しく







それは、本当に些細な疑問だった。








「ねぇ、蓮。蓮はお薬飲むとき、錠剤派?それとも粉薬派?」
「…………君はいつも突然だね」
 

何の脈絡もなく問うキョーコ。蓮も、流石に慣れたとは言っても苦笑してしまう。
自分でも突拍子もないことを言ったという自覚があるのか、彼女はほんの少し頬を染めていた。

「あ…ごめんね、突然」
「いや、いいけど……どうしてそんな事を?」
「実はね、モー子さんが風邪を引いたのよ」
「琴南さんが?」
「ええ。看病しに行くって言ったんだけど、『もしあんたに移したら自分のこと許せなくなるからダメ』って言われちゃったのよね……」
「――そんなに心配なら、俺から社さんに連絡しておこうか?彼女も社さんを追い返すようなことはしないだろうし」

心配そうに話すキョーコを見かねて蓮がそう告げると、一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、またすぐに不安そうな顔になる。

「そうしてくれると助かるんだけど、もし社さんまで風邪を引いちゃったら蓮が困るじゃない」
あの社さんが、琴南さんを苦しめている風邪なんかに負けると思う?」
「ゴメン、想像できないわ。」
「だろう?それに、もし俺が社さんの立場なら他の誰でもない自分が看病してあげたいし」


そう言って微笑みかけると、キョーコは「またそんなこと言って…」と言いながらも嬉しそうにする。
蓮が携帯を取り出して社に事情を話すと、彼は、


『ありがとうっ蓮!この恩はマネージャーの名に懸けてキョーコちゃんと仕事できるようにすることで返すよっ』


と言うなり通話を切ってしまった。間違いなく、即行で奏江の元へと向かったのだろう。
社の恩返しの内容を聞いて「教えて良かった」と感慨にふけっていた蓮だが、

「……キョーコ。琴南さんが風邪引いたことと、キョーコの質問と、どう関係があるんだ?」
「あ、忘れてた……
別に、直接関係あるわけじゃないのよ?ただ、『モー子さん、お薬ちゃんと飲んだかな?』って考えてたら、錠剤を飲んでる姿を想像しちゃったのよね。私は粉薬で飲むんだけど、最近はみんな錠剤のお薬を飲んでるし。
それでね、蓮はどっちなのかなって思って」
「――なるほど」


漸くキョーコの質問の意味がわかったが、蓮には答えられない。なぜなら――

「うーん…残念ながら、どちらでもないよ。何せ、二十歳になるまで風邪引いたことがなかったからね」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたわね……」

事務所で風邪が大流行して蓮の代理マネージャーをしたとき、蓮は生まれて初めて風邪を引いたのだ。そんな健康人間が薬を飲むことはない。
少し期待はずれな顔をしているキョーコに、

「キョーコは粉薬が好きなの?」
「ええ。別にこだわりがあるわけじゃないんだけど、何となく錠剤より粉薬の方が早く効きそうで」
「……錠剤が飲みづらいってわけじゃなく?」
「うん」

一般的に錠剤を好むのは、味が口の中に広がったり、ザラザラ感が残ったりするのがイヤだという人である。そして粉薬を好むのは、固形を飲み込むことが上手くできないという人が多い。
だが、キョーコはそのカテゴリーには属さないらしい。

(そういえば、ビタミン剤のような即効性を求められていないものは、錠剤で飲んでいたな……)

キョーコらしい、と思って小さく笑っていると、視界の片隅にキョーコがお肌のためと愛用しているビタミン剤が映った。
その途端、素晴らしい思いつきが蓮の頭に浮かび、その錠剤を数個手に取る。


「何やってるの、蓮」
「キョーコが粉薬以外はダメじゃなくて良かったよ」
「な、何で……?(ていうか、その笑顔が怖いんだけど)
「ん?それはね……」

ぐいっ

「!?んーっ!んんっ!……ん…んふぅ………ふぁ…」


一度自分の口の中に含んだビタミン剤を、口移しでキョーコに飲み込ませた蓮。一方、いきなり呼吸のできない状態にされたキョーコは息も絶え絶えである。
瞳は潤み、頬も上気している状態で蓮を恨めしそうに見上げてくる彼女に対し、思惑通り事が運んで上機嫌の蓮は、

「キョーコが風邪を引いたとき、こうやって薬を飲ませることができるからねv」

と、輝かんばかりの笑顔で告げたのだった。











……………………っっ!!
な、なんかスゴいことしてますよ、敦賀氏。お薬の飲み方を間違っています。

やっぱり、風邪引かない人は正しい飲み方を知らないのでしょうか……? ←ンなわけあるかっ