Web拍手を飾っていた小話。
バカップル万歳★をコンセプトに(笑)
消毒 トントントン・・ キッチンから聞こえるのはリズミカルな包丁の音。 それは、料理に慣れている人間だけが繰り出せる音。 キョーコは慣れた手つきで野菜を刻みながら、作業とは全く関係ない――とも言えないことを考えていた。 (う〜ん…私には無理よねぇ……アレは。一度でいいから経験してみたかったなぁ…) 深い溜息をつき、握る包丁をじっと見つめる。 キョーコの思考を占めている「アレ」。それは実にキョーコらしい発想であった。 つまり―― 料理中に誤って指を切る ↓ 「痛っ」と小さく叫ぶ ↓ 恋人が慌てて駆け寄る ↓ 傷を手当てしてもらう ……というものである。 なんともベタな展開だが、乙女思考満開なキョーコは真剣にそれを考えていた。 だが、残念なことにキョーコの包丁さばきはプロ並み。 幼い頃ならまだしも、今は「指を切る」なんてミスをするはずがない。何せ板前の象徴たる「桂剥き」すらやってのける腕前なのだ。 だからと言って、わざと指を切るというのはキョーコの料理人としてのプライドが許さない。 結果、悶々とした気持ちで手にした包丁を見つめるしかなかった。――が、 「…………キョーコ?」 「きゃっ!?――つぅ〜〜〜〜っ」 突然背後から掛けられた声に手元を狂わせ、キョーコは人差し指をザックリ切ってしまった。 「やっちゃった…」と思うキョーコとは対照的に、大慌てしたのは蓮。 それもそうだろう。急に聞こえなくなった包丁の音に気づいて様子を見に来てみれば、何やら深刻そうな表情で包丁を見つめる恋人の姿。一体どうしたのかと思い声を掛けた途端、これなのだから。 「大丈夫か!?ごめんっ、俺が驚かせたせいで…っ」 「ううん、気にしないで?ぼーっとしてた私の不注意だし」 「でもそんなに血がっ」 「大丈夫大丈夫v ちょっと深く切っちゃったけど、舐めてたら止まるわよ」 「……本当に?」 「蓮ってば心配しすぎ――」 パク・・ 「っっっっ!?」 「……血の味がする」 かなり動転しているキョーコは一言も発せない。 いきなり腕を掴まれ、傷口を銜えられたのだから仕方ないのかもしれないが――ついさっきまで頭を占領していた展開通りだということはあまりにも突然すぎてすっぽり抜けてしまっているようだ。 「蓮っ///」 「ん?」 「もういいから腕っ、腕放してっ!!」 「ダメ。まだ血が止まってない」 「自分でやるから!」 「それもダメ。キョーコが何と言おうとこの傷は俺のせいなんだから、俺が治す」 「〜〜〜〜〜っ////」 ――この日、キョーコは念願のシチュエーションをしっかり堪能したのだった。
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