「――…その格好……」
「えへへ〜v 可愛いでしょ?」
「……確かに可愛いけど」
「モー子さんとお買い物に行った時に一目ぼれして買っちゃったのvv」

――せっかくお互いオフだったのに朝一から出掛けて夕方まで帰ってこなかったあの時のことか…
まぁ、放っておかれた分は夕方からキッチリ返してもらったけどね。

って、今問題なのはそのことじゃなくて――

「……腕と背中、見せすぎじゃないか?」
「キャミソールなんだから当たり前でしょ」
「…………足も見せすぎだと思うけど」
「ミニスカートなんだからこれくらいは当然――って、こういう格好は家でも偶にしてるじゃない。その時は何も言わなかったのに、今日に限ってどうしたの? せっかくのデートなのに…」

それはそうなんだけどね?
室内で二人きりのときと、今――野郎どもがウヨウヨいる屋外では状況というか、色々と違うだろう?








夏の風物詩








「久しぶりにデートがしたいなぁ…」と呟いたキョーコに「じゃあ明日行こうか。お互い昼上がりだし」と即答したのは俺だ。
その提案にキョーコはとても喜んでいたし、俺自身キョーコとのデートを楽しみにしていた。
だから、社さんと別れた(というか置き去りにした)後すぐに待ち合わせ場所であるキョーコの撮影現場まで来たわけだが…………急いで来て本当に良かった。

私服に着替えて出てきたキョーコは、いつも以上に露出の高いキャミソールとミニスカート姿だった。

夏の始めに「キョーコは肌が綺麗だから、キャミソールとミニスカートが良く似合うよね」と言ってから、キョーコは度々そのコーディネイトで俺の目を楽しませてくれたが――あれは限られた空間、状況だからこそ、だ。
他の男の目がある場所では歓迎できない。例え、この上なく似合っていようとも。

「キョーコ」
「……なに?」
「その服、君が一目ぼれしただけあって可愛いし、とても似合ってるよ」
「…あ、ありがと////」
「けどね、何か上に羽織った方がいいと思うんだ。紫外線とかで肌が荒れたら大変だし」
「あ……そっか。日焼けしたら撮影にも影響が出るかもしれないわよね」

うん。相変わらず実に素直だ。

「でもどうしよう…羽織るものなんて持ってきてないし…」
「じゃあ、まずその服に合うものを買いに行こうか」
「そうね。これを買ったブティックが近くにあるから、そこで探してもいい? お値段がお手ごろで可愛いのが揃ってたの」
「別にいいけど…俺が言い出したんだから、俺が出すよ?」
「だ〜め! 私が着るものだもの。私が払います」
「……了解。」(クス…)










幸い、キョーコ好みのものはすぐに見つかった。しっかり肌が隠れ、かつ風通しの良い生地だったので、俺も彼女も満足だ。
キョーコが支払っているうちに膝丈くらいのスカートを数点見繕う。いくら上を隠しても、足が丸見えのままなら俺的に意味がない。

「お待たせ〜…………って、何やってるの?」
「はい」
「へ??」

戻ってきた彼女にスカートを手渡すと、きょとんとした表情で首を傾げられた。
――とても可愛いけど、上目遣いでそんな表情されたら色々困るんだが。

「試着しておいで」
「…………なんで??」
「いいからいいから」
「そう言われても…………別にこのままでいいじゃない」

こちらの胸の内など知らないキョーコは、スカートを手に持ったままそんなことを言う。
しかし、そのままじゃダメなんだよキョーコちゃん。

訝しげな表情をしている彼女の耳に口を寄せ――

「―――― そんなに短いスカートで隣を歩かれたら、思わず手を這わせちゃいそうなんだけど?」
「%#★◎凵I※?$っ!!」
「それでもいいなら、このまま出」

バタンッ

………………………………………………………………素直で結構。

『…………ねぇ、蓮』
「ん?」
『どうして全部サイズがぴったりなの…?』
「それは――」
『あ、やっぱりいいっ! 言わないで!! 言ったら怒るからねっ!?』
「…………はいはい」

キョーコと話しながら会計を済ませる。どれも彼女が好きそうなデザインだから、買ってしまっても問題ないだろう。(←無駄遣いすると怒られる)
フィッティングルームの前まで移動したとき、タイミングよくキョーコが出てきた。

「それにしたんだ。――うん、可愛いね」(にっこりv)
「…アリガトウゴザイマス///」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「え? ちょ、ちょっと待って! お会計がまだ……」
「大丈夫。あ、そっちのは貸して」

慌てるキョーコから彼女が履いていたミニスカートと試着したスカートを受け取り、店員に袋詰めしてもらう。そして、状況がのみ込めて怒り出したキョーコの手を引き、店をあとにした。










勝手に会計を済ませたことで、多少不機嫌になったキョーコを宥めた――丸め込んだともいう――後。

「少し遅くなったけど、そろそろ昼食にする?」
「んー…そうね。さすがにお腹減ってきたし」
「了解。えっと…この辺りでハンバーグが食べれるお店は――」
「……………………別にハンバーグにこだわらなくてもいいわよ?」

せっかくだからキョーコの好物がある店を選ぶつもりだったが、そこは苦笑交じりに辞退された。
残念。ハンバーグを目の前にしたときの蕩けるような笑み――あれを見ることが密かな楽しみだったんだけど。

結局、服を買った店から少し歩いたところにあるパスタ店で昼食をとる事になった。
俺はムール貝とアサリのボンゴレビアンコを、キョーコは小松菜ときのこの和風パスタを頼み、3分の2ほど食べて交換したりした。こういうことは同じ料理が並ぶ家での食卓ではできないことだから、新鮮で楽しい。
もちろん、普段の食事にケチをつける気は微塵もない。キョーコの手料理はプロ並みに美味しいし、何より彼女の愛情がたっぷり詰まっているし、ね。

お昼も済ませ、さてこれからどこへ行こうか、という話を始めたとき。

「あっ! ねぇ蓮、あそこのアイス屋さんに寄ってもいい?」
「もちろんいいよ」
「やったvv あそこのアイス、すっっっごく美味しいのよ!」
「へぇ…そんなに美味しいんだ?」
「うんっ。美容とスタイルの維持に余念がないモー子さんですら、気づいたらペロッと食べちゃってるくらいなの。じゃ、買ってくるわね!」

……………本当に仲が良いな。大人気ないとは分かってるけど、やっぱり琴南さんには嫉妬してしまうよ。

「ただいま〜」
「おかえり。それは何味?」
「マンゴーよ。とろけるような甘さと華やかな香りが口の中に広がって美味しいんだからvv」

そう言ってアイスを舐める姿は――――――正直言って、かなりヤバイ。
キョーコの小さくて紅い舌がチロチロと動き、そこに意識が集中してしまう。俺にとっては、アイスなんかより余程甘い……

――って、ダメだ! 久しぶりのデートなんだから我慢しろ俺!!

うっかり伸ばしそうになった右手を額に持っていき、軽く頭を振る。そうすることで、浮かんだ邪な思いを振り払いたかった。
しかし、その動作がキョーコの気を引いてしまったらしい。しかも、悪い意味で捉えてしまったようだ。

「どうしたの? いきなり額を押さえて…………もしかして、体調が悪かったりする?」
「いや、そんなことないよ」
「本当に…? 私が『デートしたい』なんて言ったから、無理してるんじゃないの?」

心配そうに覗き込んでくるキョーコに、申し訳なさが先立つ。
――いや、本当にゴメン。そんな風に心配してもらえるような理由じゃないんだ…(汗)

「本当に何でもないから。それより、早く食べないと溶けちゃうよ?」
「え? …あっ! やだ、手についちゃった…」

日差しの強さのせいもあるだろう。僅かな時間でも溶けてしまったアイスは、キョーコの手首にまで流れていた。
彼女はそれを見て――――舐めとってしまった。
俺の目に、脳に。美味しそうなキョーコの舌が、極め細やかな肌を這っている様子が焼きつく。

………………………………………………………うん。限界だ。

よく我慢した俺。そもそも今日は服装からしていけなかったんだ。極めにつけに続けて扇情的な姿を見せてくれて――
これで何もしなかったら俺じゃないよね?

「……………あ、あの…………蓮…?」
「ん?」(キュラキュラ☆)
(ひぃ…っ! こ、この笑顔は危険だわっ)つ、次はどこに行くんだったかしら!?」
「次? そうだな…次は――」
「つ、次は…!?」

「俺たちの愛の巣へ戻ろうかvv」(にーっこりv)










――――最後に、「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜………っ!!(涙)」とジタバタするキョーコを捕縛し、家まで連行した俺の姿は、見る人によっては人攫いに見えたかもしれないことを明記しておく。






























≪おまけ≫

「――ってことがあったの! ひどいと思わないっ? 久しぶりのデート、楽しみにしてたのに〜〜〜っ(涙)」
「………………あのさぁ。思いっきり嘆いているトコ悪いんだけど、一つだけ言わせてもらっていい?」
「蓮のばかぁ〜〜〜〜っ!! ――え? なに?」(きょとん)

「私の記憶違いじゃなかったら、同じようなことを昨年も一昨年も聞いたわね。」

「……………えっと…………(滝汗)」
「私にしてみれば、もはや夏の風物詩の一つよ」











もう秋も深まろうって時期に夏真っ盛りのお話です(笑)
夏限定の企画に投稿した作品ですが、投稿も期限ギリギリでした・・・

久しぶりに書いたSSなのでやりたい放題ですが、私の書く蓮キョは前から壊れてたので問題ないですね! ←開き直り