ねぇ、敦賀さん。

私と『ゲーム』をしませんか?

一ヵ月後に、敦賀さんが負けたと思ったら、私に何かくださいね。

逆に、私が負けたと思ったら。



貴方には、ネクタイをあげる。




アンフェア・ゲーム





事務所ですれ違った敦賀さんに、勝手に『ゲーム』という名の『賭け』を持ち込んだのは、私。



「…ゲーム?」
一体何を言い出すんだコイツは、って顔をして私を見る敦賀さんに構わず、私は話を進めた。
「そうです、ゲーム。今から一ヶ月後に決着をつけましょう」
「決着って言ったって、ゲーム自体どんな内容なんだい?」
「内容は自己解釈で結構です。とにかく一ヵ月後に、敦賀さんは私に、私は敦賀さんに『負けた』と思ったら相手の勝ちです」
「要するに、最上さんに『負けた』と思わせれば俺の勝ちって事だね?」
「ええ」

詳しい内容なんて一切告げなかった。
だってこれは、私の悪足掻き。

「一ヵ月後に『負けた』と思ったら、相手に何かプレゼントをあげるって言う事で、いいですね?」
「了解」

笑いながらも敦賀さんは私の勝手な提案にのってくれた。



そしてそのまま事務所を出た私は、新幹線に乗り、一ヶ月の地方ロケへ。






こんな馬鹿げたゲームを持ち出したのは、自分の気持ちがわからなくなったからだった。

日に日に自分の中で存在が大きくなる『敦賀蓮』という男。
捨て去った筈の感情が戻ってきている感覚と、それを否定する私。

考えて、考えて、もう何が何だかわからなくなった。

好きだと認めたくない。
けれど好きなのかもしれない。
好きだと認めてはいけない。
けれど好きだと認めざるを得ないのかもしれない。

だから私は、相手を無理矢理巻き込んで、『ゲーム』という形で決着を出す事にした。

地方ロケの一ヶ月間、私は『敦賀蓮』との接触も…そして連絡も何もかも一切断つ。
その間に、私が『認めない』と結論を出せば、私の勝ち。
その間に、私が『認めざるを得ない』と結論を出せば、私の負け。

そう…『敦賀蓮』が欲しいと思う程その存在に溺れてしまったら、私の負け。



携帯が鳴る度に、その表示を見て喜び…首を振って気持ちを制し、元に戻す。
電話にも出ないと決めたのだ。
メールも入れないと決めたのだ。

ディスプレイの『敦賀蓮』の文字が、目に痛い。



日が経つにつれて。
このゲームは、どう考えたった不平等なゲームにしかならない事を感じ始めた私は。



――『負け』を悟る。






馬鹿げたゲームを持ち出して一ヵ月後。

事務所に戻ってきた私を出迎えたのは、あろう事かゲームの相手。
電話もメールも一切無視していたから、絶対にあの凍りつく様な雰囲気で責められると思った。
けれども、敦賀さんは私を抱きしめて『心配した』と呟いた。


嗚呼、もう完全完敗。


「ご心配、おかけしました」
「ロケ、電話にも出られない程忙しかった?」
「いいえ」

きっぱりと否定した私に対し、敦賀さんは明らかに不機嫌になる。
それはそうよね、と心の中で呟くと、私は手に持っていたバッグから一本のネクタイを取り出す。
敦賀さんが今つけているネクタイに手をかけると無理矢理それを外した。

「も、最上さん…?」
「ゲームは私の負けです」

解けて首にかかっているだけの状態のネクタイを、ぐいと下に引く。
敦賀さんの顔が自分の顔に近くなった事を確認すると、ネクタイを完全に取ってしまう。
代わりに私は、自分で買ったネクタイをその首にかける。


「…今日が何の日だか、後で調べてくださいね」


そしてその頬に……キスをする。

「な…っ」
「覚悟、しておいてください?」

にこりと笑ってみせ、さっきまで敦賀さんがしていたネクタイを握ったままその場を離れる。
早くその場を離れたくて、凄い早足になっていたと思う。
だって…恥ずかしくて。



人気の無い場所に辿り着いた私は、壁にそってペタンとその場に座り込んだ。
手にしていたネクタイを見、思わず言葉が漏れる。

「敦賀さん…意味わかってくれるかなあ…」


……わかってくれたなら、今度会った時の態度はきっと、違う筈。






今日は5月23日。
今日は『キスの日』そして『ラブレターの日』。

ネクタイは、私なりのラブレター。
ネクタイを贈る事が、すなわち『貴方に首ったけ』と言う意味だとわかってくれるかしら。

そして、頬へのキス一つで、さらに今日の意味を高めてみたわ。



今度は敦賀さん……貴方が負ける番よ?











ふぁい様が管理されている『Time-scape』様から、30万hit記念のフリーSSを強奪☆

キョーコちゃんが可愛い〜〜〜vv
蓮様…もうノックアウトでしょう、これは(笑) 抱き締めてますしね♪

5月23日が『キスの日』で『ラブレターの日』ということ、初めて知りました(笑)
マメ知識をありがとうございます、ふぁい様v