紅い花





「・・・・っ」
痛さに喘げば、その行動を止めてくれるかもしれない
そんな安易な思いはすぐに打ち破かれ後に残るのは、ただ紅い花。
今までその場所に存在したことはなかったその色は、白い肌によく映えた
なおも首元にかかる吐息がキョーコの背筋を凍らせる
恐怖と驚愕と羞恥心と、湧いてくる感情を押さえ込まれるように両手は彼に戒められ、発しようとする言葉は彼によって塞がれていた


「つ、敦賀さん!!」
「何?」
冷静に返答をしてきた彼に一瞬の間ができた
キョーコはそれを逃さず、顔を背ける
「冗談も程ほどにしてください」
未だ解かれることのない腕は次第に痺れを感じてきている。
これもきっと自分に対する嫌がらせに違いない。
きっとこの後には笑って「冗談」だよといつもの憎たらしい紳士スマイルがでてくるのだろう
・・・キョーコはそう自分に言い聞かせていた
だってそうとしか考えられないではないか
なぜあの「敦賀蓮」が自分に対してこういう行為に出るのか、キョーコには皆目検討もつかないのだ。困らせて楽しんでいるとしか考えられない。
しかも最上級の嫌がらせを彼は決行しているのだ、と。

「冗談でキスをするとでも?」
「!!・・・っ」
キョーコの反論する声は遂に聞こえず、代わりにくぐもった声が静寂の中響いた。
声にならない声すらもすくい上げるように続けられる衝撃に耐えられるはずもなかった
「・・・やめてください!!」
「何故?」
「なぜって、こんなの卑怯じゃないですか!?いきなり、こんな・・・ 」
「こんな?」
「いきなりキスするなんて卑怯じゃないですか・・嫌がらせにも限度があると思います!」
きっと睨みをきかすキョーコに、蓮はその動きを止めた

――この期に及んでこの子はまだ気づかないというのか

「まったく君の思考回路はどこをどうしてそんな風な結果をだしてしまうのかな」
ふ〜っと蓮はため息をついた
「敦賀さんの思考回路こそショートしちゃったんじゃないですか?」
先ほどとは一転、いつもの蓮に戻ったような発言にキョーコも多少の安堵を得た。
少なくとも先ほどと違い、話が出来る状態になった状況に―――

相変わらず接近しているお互いを、少し離れようとキョーコはジリジリと動き出した
とにかく早くこの状況から脱出するのが先決だ

「あーそうそう。俺が怒っているのは間違いないんだ」
―――バンッと彼の腕がキョーコが離れるのを見透かすように阻んだ
にっこりと例の紳士スマイルで笑いかける蓮は、しっかりとキョーコを腕の檻に閉じ込めている
「な、な、何ででしょうか。ごめんなさい、私にはわからなくて・・・」
この人のこの笑みほど恐ろしいものはない、だったら素直に謝って事を終わらせた方が身の安全というものだ

「先ほど君の電話に不破が出た」
「は?」
「聞けば君は彼の楽屋で2人っきりだったそうだね」
「あー、あれは」
「随分と仲良くなったようだね。2人っきりだったなんて」
―――何てことだ
彼は誤解しているらしい
それもとてつもない誤解を。

何とか誤解を解こうと、しどろもどろになっているキョーコに蓮はすっと視線を落した。・・・瞬間、回りの気温が下がったように感じたのは多分間違いではないだろう

「・・・言い訳、しないんだね?」
そしてまた衝撃。
熱が口唇から首に落ちてくる

「不破とこんなことにはならなかった?」
「なるわけないじゃないですか!!」

とめどなく襲ってくる衝撃に耐えられない
溢れてくるのは羞恥心より恐怖心
流れてくる涙
それに気づいた彼は長い指先でそれを拭うと耳元で囁いた
「だってこれは罰だから」
「罰って・・・」

未だ熱を帯びているそこに熱い吐息がかかる

「君は少し学んでおいた方がいい。無防備は時として罪になるということを」

手首には戒めの紅い痕跡
そして首には、――烙印を残す
艶やかな紅い花を。











スキビサイト『another sky』の朔羅様から強奪してきた、20万hitフリー小説です。
思わず赤面してしまうような攻め攻め蓮様ですヨ。管理人がこのような素敵小説を書けるようになるのはいつの事やら……┐(´ー`)┌