テイルズサイト『姫林檎』の霧夕様から頂いた、3333hitキリリクで『クレスとミントの結婚式に仲間達が祝福しに来てくれる』というものでした。
実は霧夕様から頂いたこの作品が、管理人初の頂き物だったりします。頂いたその日は狂喜乱舞し、興奮冷めやらぬ状態でした。
チェスアー推奨サイト様ですのに、無理を聞いてくださってありがとうございました。
一日前がなんだかとても嘘のようだ。 自分の心臓の鼓動と同じリズムでズキリズキリと響いて痛む、そんな頭にそっと指を差し込んで彼はぼんやり思っていた。 開け放った自室の窓からは地平線に落ちかけた夕陽がまだ大分大きく見え、そのせいでいつもは上の方ばかり染まっているはずの夕焼けが今日に限って落ちてきている。 いつもの朱色とはまったく違う、現実味を失った色に染まる空気を眺めて、窓から大きくそして深い息を吐く。 ワイン色だ。 とびきり赤く、そしてとびきり渋い奴。 思い出してまた、彼もつられて顔を歪める。 一体どちらの渋味が勝っていたのだろう? ワインの味と彼の顔と……。 もともと林を駆け回っていたような生活のせいなのだろうか? 単色で塗りつぶされた部屋の中が、彼には嫌にどうも落ち着かない。 自分を含め白一色で塗りこめられている空間が、どうも精麗さや厳粛さ、ほかその他ここが教会の一室であるといった雰囲気よりも、ひとところでじっとしていなければいけない事からくる圧迫感が潔癖感を連想させた。 せめてこの部屋に窓一つでもあればいいのに……と溜息をつくのだが、生憎とそのようなものはここには無い。残念ながら。 緊張するのにももう飽きた、かといってリラックスしている訳ではない。 静かに、だが少しずつ鼓動を大きくする心臓を抑えるのにも、これから行われる式のリハーサルを頭の中で繰り返すのも、もう何度も何度も繰り返して、すっかり気持ちばかりが疲れてしまった。 挙句の果てには緊張をほぐすために注いだ飲み物で、自分の真っ白な衣装を汚さないよう緊張しながら飲む始末。 自分自身に苦笑が漏れる。 もう一つの部屋はどういった感じだろう…思いにふけっていると、コンコンと白のドアが軽い音を立て、隙間から自分と似たような格好が笑いかけた。 「よォ、入るぜ?」 いつも涼しげな瞳を持つ、彼の……親友。 見慣れているはずの顔でさえ、今日から何もかも新しくなるような妙な気がして、ひとつひとつを確認する。 「なんだよ?そんなにじろじろ見て。お前も似合わないとでも言いたいのかよ」 お前『も』?と首を傾げるわけなのだけれども、ずっと前からの決まりでもあるかのように傾けた瞬間に誰に言われたのかがハッキリわかる。 「ふ、そんな事言われてきたんだ?」 「ひどいもんだぜ?見た瞬間腹抱えて笑うんだ、おまけに指まで指してきやがる。俺からしたらあっちのほうがよっぽど、なぁ?」 なぁ?と言われても困ってしまう、残念ながら今日はまだ普段着だけでそんな姿は見ていない。 ただ「今日のアタシはすっごいんだから!」とそう言って一泡吹かせてやると意気込んでいたのが目に新しい。 ブツブツと喧嘩文句を喋りながらも、さっきからチェスターは部屋の端に備え付けてある等身大の鏡に向かって、自分の髪や、服の裾をつまんでは整える、「そんな似合わねぇかなぁ?」とでもいいたげに。 ただ首元だけは窮屈のようで、他は整えたにもかかわらずそこだけは緩んで、それでもまだ苦しいとでも言った風にさらに手で緩めにかかっている。 「気にしてるのか?」 アーチェに似合わないと言われた事、と、あえて口に出さないが。 まさか、と簡単な答が返ってきてギシッと音を立てて隣の椅子が埋められた。 「うぇ、お前そんな首までかっちり締め上げてよく苦しくねぇなぁ」 そういうとチェスターは、まるで首にしているタイでキュッと首を締められたような動作をつけ、ご丁寧に反動で舌まで出してみせた。 ぷっ噴出す勢いでさっきまでガチガチだった緊張感が少しだけ緩む。 「そうそう、その顔その顔。今日の主役があんな変な顔してりゃぁミントの方が可愛そうだ」 「どういう意味だよ?」 「そのまんまの意味さ」 「なにおぅ?」 「お?やるか?」 ギっと男二人睨み合う。 部屋には彼ら以外誰もいない、誰も、止められない。 じっと違いを睨み合う、そんな二人に共通する事。 それは、今誰が見ても写真に収めれそうも無い顔だと言う事だ。 ほどなく決着は着くだろう。 にらめっこという戦いは。 「……〜〜っ。ぶっ、わははははは!」 「ふ、はははっ!!なっ!なんだよその顔〜!!反則じゃないのか?!」 「何言ってんだ!お前の方が反則だろうが。ははっ……は〜ぁ、ま、ガチガチに固まってるよりかお前はそうやって笑ってるのがいいんじゃねえの?せっかくめでたい日なんだろ?」 切れ長の目が細められて、これまでの自分が見送られる……これからの自分がすっかり変わってしまう訳ではないけれど、今までの自分とは少し違ってしまうのも本当だ。 これからの自分は1人じゃない。 支えあう家族ができる。 いつまでも少年の、若いままではいられない。 「チェスター……」 「んだよ、そんな顔すんなよな。まぁ、お前らの事だから遅かれ早かれこうなるとは思ってたけど……まぁ以外以外!よく頑張ったよホント!!」 いつもの肩当てのついていないクレスの肩をポンポンと叩きながら泣き真似するチェスターを、イタズラっぽく睨んで笑う。 「ま、僕はチェスターみたいにスケベとか思われたりしてないからね。そっちもあんまり余裕見せすぎて逃げられても知らないよ?」 静かな部屋の中に小さく唾を飲む音が響いたような気がした。 気のせいかと思うが一人、気のせいではないのが一人。 「……へっ、どうだか?ま、今に見てろって」 「はいはい」 「ん?!何だよそれ。あァ…まぁいいか。とにかく…よ。結婚おめでとうな、クレス」 「うん……。ありがとう……」 今までと……そしてこれからを区切るように、これまでとそしてこれからを区切るように、そういった意図などきっとしてはいないはずなのに、しんと静まりかえった部屋の中は、時間の波から彼らを離す。 式のために用意された控え室は、ただ単に進行上の便宜だけではなく、もしかしたら……変わっていく彼らの為、変わっていく新郎新婦の二人の為に、昔から知らず知らずのうちに伝えられてきたものなのかもしれない。 この場所だけでなく、色々な土地の色々な部屋……支えあう二人の数だけ、それはきっとあるのだろう。 白の上からさらに白を塗って、それでもまだ足らないほど白いドアは外を隔てるにはこんなにも薄かったといった事を、ずいぶん前から彼は知っていた。 そのはずだったのだけれども、いざ自分の番が来ると、ドアは知らず知らずのうちに厚みを増していたかのようで、自然と……彼と外とを切り離す。 もう、音すらも聞こえない。 それほどまでに重く、厚い扉となっている……はずなのだが 「よっ!おっ邪魔しま〜すっ!!」 それは彼にとっての話らしい。 隣ではさっそく「うるさいのが来た」といううめき声にも似た皮肉が漏れている。 よせばいいのにと思ってしまうのはいつもの事……これからもこれは変わらない事なのだろう。 「ありゃ?何?二人してしんみりしちゃって?もしかしてあたしホントにお邪魔しちゃったとか?」 「ううん大丈夫。あぁ、なるほど、それが例のドレス?」 アーチェのとっておきで、なおかつチェスターの不満の対象……『例の』ドレス。 薄ピンクのふわりとしたスカートは開きかけの花のように少しの露と光をまとう、幾重にも重ねられた儚い色合いは、きっと日の下で生き生きと煌くだろうと想像できた。 「そ、アタシにピッタリで可愛いでしょう?ま、それでも今日の主役には負けちゃうんだけど。ミントすっごい綺麗だったよ〜!まるでユリの精みたいでアタシ思わず見とれちゃったもん!クレスもう見た?」 「馬鹿、そういうのはもう何回も下見とか打ち合わせとかしてるから知ってんだよ。お前つくづくバカだよな」 「なんですって!!あ〜……いやいや、今日はアンタみたいなのに用は無いんだった。今日はクレスのお祝いにっと!結婚オメデトね、クレス!」 本当に、いつもと変わらない。 「あ、うん、どうもありがとう」 「うんうん、いいねぇ幸せそうな人ってのは。って……そっれにしてもこんな窓も無い部屋でクレスってばずっと居たってわけ?よく息が詰まんないね」 潔癖とまでの壁の白さはどこへやら、いつのまにか添えられていた彩りに、極度の緊張に疲れた息はまた少しだけ緩まって。 「ん〜、ほら、だっていざ式が始まるって時に肝心の僕の居場所がわかんなくなってたら困るだろ?だからちょっとは詰まるけど仕方ないよ」 それに…ミントもきっと着付けなんかでかかりっきりだろうから…。 「ふうん…あ!じゃあさ、アタシがここで伝言任されてあげるよ。そしたらクレスもちょっとは息吸ってこれるでしょ?」 「でも…」 「あ〜、はいはい!そうと決まれば即行動!大体ミントがあんなに綺麗なのにそのお婿さんがこんなしなびた顔してちゃ可愛そうじゃん?ほら!立ったたった!」 グイグイと腕の付け根が引っこ抜けそうなほど引っ張られ、座っていた椅子から剥がしにかかる。 「わ、わかった!わかったから引っ張るの止めてくれよアーチェ!行くから!息吸ってくるから!」 その言葉を聞いたとたん「よし」と捕まれた手が放される。 危うく尻餅をつきそうになる。 息を吸いに行く前に、一つ吐息が漏れ出した。 それにしても……僕そんなに変な顔してるかなぁ?と、白い扉をくぐった後……一人腕を組み、首を少しだけ傾けた。 「おや?どうしたんだ?今日の主役がこんな所で」 他の誰にも見つからないように、こっそり壁伝いに出てきスはずが、思わぬ伏兵に出くわしたのはさっきの事。 別に居所はハッキリさせたはずなのだから、こっそり身を潜めなくても良いはずなのだ。 だが『抜け出した身』という事実が、どうも条件反射でうかがってしまう。 いや、もし堂々中央を歩いてゆけば数々の祝いの言葉に捕まって、それこそ息もつけないだろう。 そう思えば長い旅の条件反射もそんなに悪い物じゃない。 青い空気を吸えるのも条件反射の賜物と言う訳だ。 祝ってくれる事は、とても嬉しい事なのだが、疲労困憊、参った時は、少しだけ……後回しにしたくなる。 潜む必要の無い男が、ほんの、ほんの少しだけ羨ましい……。 「クラースさんこそ、なんでこんな所に?中にも場所はあるでしょうに」 ふっと愚問とでも言っているようにふわりと笑う……目を閉じれば森の青い香りを含んだ風が睫毛を揺らし、視線を壁伝いに走らせると、柔らかい光が丁度ステンドグラスに透き通り、ガラスの面以上の、目に眩しい色数を見せる……目の前で手を首に掛けながら、なにも語らないその視線は何よりも理由を語っている。 「お前さんも似たようなものなのだろ?それに私は変わり者と言われているしな、こんな時は人の少ない所に居た方が落ち着く。はぁ、どうせそっちはおおかた外の空気でも吸って来いとか言われた口なんだろう?」 言い終えて、ふーっと息を大きく吐き出した。 「すごい!何でわかったんですか?」 観察力なのか推理力なのか、クレスがキラキラとした目で見ていると、ツと伸びてきた指先が彼の鼻先でピタリと止まる。 「顔が」 ……二度有ることは三度有る。 悪い、と続くであろう言葉は今までからして簡単に答えが出、そして簡単に出ること自体に彼はガックリうなだれた。 「さっきチェスターとアーチェにも言われましたよ、それ」 ピクリ、耳が動いたかのように見えた。 「会ったのか?アーチェに」 つかの間の疑問。 見る間に驚きの表情は、笑いとも何ともつけがたい少し渋味を持ち合わせた表情に変わる。 「アーチェが、どうか…したんですか?」 これほどまでの反応は何事か、こんなにも過敏に反応するほど二人は険悪ではないはずだ。 いや、険悪なはずが無い。 それは今までの旅の中で知っていた。 ……だが、もしかしたら自分の知らない今までに何かがあったと言う事もあるだろう。 疑問だけが彼の口から出ることなく、ただ静かに波打っている。 「あ……いや、なんでもない。気にするな。それよかなんだ、クレスもとうとう結婚か、おめでとう……そうだ!なんなら私の称号をお前に譲ってやろうじゃないか!」 さっきの雰囲気とは打って変わってクラースは嬉々とした表情で話しだす。 彼が言っている称号…それは『アイテムコレクター』でも『まほうがくしゃ』でもないだろう。 いわゆる、奥様に頭の上がらないあなたにささげる称号、それが『しりにしかれマン』!!! 「結構です」 空気が真っ二つに切れた音がした。 「お話中失礼します。クレスさん、そろそろ皆さんがお待ちです」 草を踏む音も、空気フ流れキら感じさせず、振り向くとそこに少女が立っていた。 髪型こそいつものポニーテールだったのだが、今日と言う日の為であろう、着せ付けられた衣服が違和感を醸し出す。 似合う似合わないといった話ではなく、彼女の衣装はいつも臙脂色の忍服と決まっていた、その差が今、妙な感覚となっていた。 「あ、うんわかった今行く。それにしてもすずちゃん……見違えちゃったね。服、すごく良く似合ってる」 まだ少し感情表現を出せずにいる彼女はやはりいつもの無表情なのだが、最近は徐々に感情を外に出す事に慣れてきたのか頬に赤みが強く差しパッと見ただけでも照れていると言う事が簡単にわかるまでになっていた。 「あ、ありがとうございます。クレスさんこそ、ご結婚おめでとうございます」 「あ、うん、そうだね、ありがとう」 ありがとうと言われありがとうと返す、少し不思議だ。 「それでは私はもう少しここにいるとするかな、どうせまだ時間がかかるのはわかってるからな」 また息が一つふうっと漏れ出した。 「それでは参りましょう」 「わかった。じゃあクラースさんまた後で」 片手を引かれながら遠目に見たその表情は何かを含んでにやりと笑っていた、ように見えた。 「クレスさん、余り大きな声では言いませんが、式の後のアーチェさんとクラースさんには気をつけられたほうがよろしいかと思います」 引かれていた手が放される。 「祝杯ということで、お二人から許容量以上のアルコールが待っているそうなので……。明日の朝は一生で一番最悪の二日酔いにすると張り切っていらっしゃいました」 今までの人生で一番幸せな日の後に用意されかけようとされている今までの人生で最悪な日。 散々変だ変だと言われた顔は、引きつり、とってくるよう勧められた息抜きは、まるで逆の効果となった。 開け放たれた彼の部屋、まだ痛む頭を抑え、一人うめく。 ワイン色の夕陽をバックに、教会の鐘が今日最後の鐘を鳴らす。 「すごく嬉しかったんだけどな……」 二日酔いでガンガンと響いて痛むはずの頭に手を差し込むと一箇所、ソコに触れるだけで刺すような痛みを持っている……そう、たんこぶだ。 起きた時の頭に走る痛みと話の続きから彼は少しの混乱を……そして大部分の落胆を。 「何が…嬉しかったんですか?」 「ん?いや、すごい幸せな夢を……って、うわっ!!ミ、ミントいたの!?」 彼の自室のドアの側、夕陽の光をその長い髪に映し彼女はそこに立っていた。 煌く夕陽が彼女の艶やかな髪の上で光を散らせ彼女を彩る。 姿はやはりいつもの白の法術衣、同じ白なんだけどな……と、彼はさっきまで夕陽を眺めていたからか目尻に涙を少し溜めた。 「あ、お夕飯だとお呼びしたんですが返事など無かったので……。どんな夢、見てらしたんですか?」 僕と君が結婚する夢を見たんだ……なんて、言えない。 絶対言えない。 言える訳ない。 「あ〜、えっと、う〜ん……よ、よく覚えてないや!でも、すごい、本当に……嬉しくて……起きた時それが現実かと思えて……実際は全然違ったんだけど。でも……すごい、幸せだった」 それほどまでに現実味を持った夢だった。 「そうなんですか……じゃあ、正夢になるといいですね」 正夢……。 僕と、君の 。 「そうだね……。正夢か。なるといいな、いや、したい……かな」 ワイン色の夕焼けを連れて 夢の続きを連れた夕陽 それが全て沈みきるのは まだ少し後の事
テイルズサイト『姫林檎』の霧夕様から頂いた、3333hitキリリクで『クレスとミントの結婚式に仲間達が祝福しに来てくれる』というものでした。
実は霧夕様から頂いたこの作品が、管理人初の頂き物だったりします。頂いたその日は狂喜乱舞し、興奮冷めやらぬ状態でした。 チェスアー推奨サイト様ですのに、無理を聞いてくださってありがとうございました。 |