以下は『テイルズファンに100のお題』より、TOSでシリアスなゼロス+コレット(ロイコレ、ゼロしい前提)




66.みこ



「コレットちゃん、交代だぜ〜」
「あれ?私の次、ゼロスになってたっけ??」
「いんや、ロイドくんだけど。ロイドくんはお子様だからねぇ、睡眠時間が足りないと戦闘に影響するもんだから俺さまが変わってやった〜」
「あはは、そうだったんだ。じゃあ、後はお願いねゼロス」
「…あ、ちょい待ち」
「ほえ?」
「少しでいいから、俺さまとお話しない?」


そう言ったゼロスの瞳は、拒否を受けつけないものだった。








野営をするときの見張りは、交代制で行っている。
ローテーションは男が2で女が1――つまり、男は二日に一度、女は四日に一度の割合で自分の番となる。この持ち回りは、担当となる者の都合が悪くならない限り(怪我や病気、用事がある、など)変わらない。

今日はコレット→ロイド→ジーニアスの順で見張る予定だった。誰も見張りに問題はなかったので、最初の見張りであるコレットはロイドを起こしに行くつもりでいたのだが、その前にゼロスが彼女の許へやってきた。そして、交代しに来たはずの彼がコレットを引き止めたのだ。
コレットは不思議に思ったが……ゼロスの瞳が真剣だったので、そのことを口にすることができなかった。代わりに、ニッコリ笑って「いいよ」と返した。





二人で火の前に座ってから、暫くは会話がなかった。元々コレットに用事があったわけではないし、「話そう」と言ったゼロスが何も言い出さないからだ。
しかし、それも長くは続かなかった。

「…………あのさぁ」
「ん?」
「コレットちゃんは神子が嫌になったことね〜の?」

コレットは軽く目を見張った。まさか、そんなことを訊かれるとは……
けれど、同時に納得もする。彼もまた、神子なのだ。そして、繁栄世界で生きてきた彼は、衰退世界であるシルヴァラントにきて思うところがあったのだろう。コレットがテセアラで感じたことがあるように。

「…それが訊きたくてロイドと見張りを代わったの?」
「ま〜な〜。ずっと機会を窺ってたんだけど、こういうときに限ってぜ〜んぜんこないもんだから。ま、ロイドくんの睡眠不足問題も本当のことだけどな」

そう言ってウインクするゼロスに、コレットは「そっか」と笑う。
それから少し思案した後、彼の質問に答えた。

「寂しいと思ったことはあるけど、嫌だったことはないよ。寂しさも、ロイドとジーニアスが友達になってからはなくなったしね」
「―――シルヴァラントのために、死ぬ運命だったのに?」

コレットの答えに対し、ゼロスは探るように問いかける。
彼女は一瞬だけ苦笑し、次にはまた、笑顔を浮かべた。

「それが私の役目だったから。私が神子としての役目を果たすことでシルヴァラントのみんなが幸せになれるなら、それで良かったの」
「……俺には理解できないね。自分らでは何もしようとせず、神子に全てを押し付けてるようなヤツらのために命を捨てようだなんて考えは」
「そうだね…そういう人たちばかりだったら、私も嫌だと思ったかもしれない。でも、私にはロイドがいたから。ロイドのために私ができることは、嫌じゃなかったよ」


――コレットにとって、ロイドは特別だった。

村の誰もがコレットに良くしてくれた。だがそれは、コレットが神子だからだ。誰もが彼女を"神子"としてしか見てくれなかった。父であるフランクも、祖母であるファイドラも――コレットを娘として、孫として愛してはいたが、彼らにとってコレットは、"コレット・ブルーネル"である前に"神子"だった。
それが彼女の日常であり、世界だったのだ。

その彼女の世界に、ロイドが現れた。

ロイドは初めて会ったときから、"神子"ではなく"コレット"として接してくれた。初めての経験だった。"コレット"に話しかけ、笑いかけてもらうことは。
嬉しいと、幸せだと感じた。毎日が楽しくなった。

それからすぐ後にジーニアスがやってきて、もっと楽しくなっていった。ロイドとジーニアスだけは、コレットを"コレット"として見てくれたから。だから、今でも二人は彼女にとって一番大切な友達だ。
けれど……二人とも大切な人だけど、誰よりも特別なのはロイドで。
コレットの世界に光をくれたロイド。彼が幸せに暮らせる世界を作るためならば、世界再生を行い、天使になることも嫌だとは思わなかった。ただ、ほんの少しだけ……ロイドと一緒にいられなくなることが哀しかったが。


「ふ〜ん…………ロイドくんのため、か。愛だね〜」

茶化すようにニヤニヤと笑うゼロスに、コレットは照れ笑いを浮かべ、「ゼロスは?ゼロスはどうだった?」と尋ねる。まさか自分がした質問が返って来るとは思っていなかったようで、ゼロスは少し驚いた表情を浮かべていた。しかしすぐに掻き消して、ヘラヘラと笑いながら「俺さま〜?俺さまは別に何とも。むしろ好き勝手できてラッキー、みたいな?」と答える。
コレットは「嘘だよ」と首を振った。

「嫌だと思ったことがないなら、こんな質問しないよ」
「…んなことねぇって。シルヴァラントのヤツらがコレットちゃんのこと『神子さま』『神子さま』ってやってるの見て不思議に思っただけだし?」
「それなら、わざわざロイドと見張りを代わってまで二人きりになる必要なかったでしょ?」
「いや、それは……みんなの前で訊くような話じゃないでしょーよ」
「――ねぇ、ゼロス。ゼロスは…神子が嫌だったんじゃない?こっちに来て、"再生の神子"が衰退世界でどういう存在なのか肌で感じたから余計に。だから、神子の宿命を受け入れた私の考えを知りたかったんでしょう?」

確認というよりも、確信していることをただ口にしているだけのようなコレットに、ゼロスは誤魔化すことは無意味だと悟ったのだろう。皮肉げな笑みを浮かべていた。

「コレットちゃんの言う通りだ。けどよ、一つだけ間違ってることがある。俺は……神子であることが嫌なんじゃない。神子も、神子制度も、マナの血族も――憎んでる」
「ゼロス…」
「コレットちゃんとは少し事情が違うけど……周りからは神子としてだけ必要とされ、神子以外であることは許されなかった……神子であるというだけで、俺の人生狂っちまったし、狂わせちまったヤツもいる。だから――全てを憎んだ…」

虚ろな瞳で淡々と話すゼロス。彼は、ここではないどこかを見ているようだった。

「…………でも、憎しみだけじゃなかったよね?」
「……………………」
「ゼロスは、セレスのこと大切に思ってるもん。セバスチャンさんのことも。それに――」
マテマテマテマテ!!セレスはともかくセバスチャンを出さないでくれそこで!」

セバスチャンの名が出てきたことで、それまでの空気が払拭されてしまった。結構込み入った話をしていたはずなのに。
しかも、コレットはまったくわかっていない。しきりに首を傾げている。

「ほえ??なんで?」
「当たり前でしょーが!!俺さま、そっちの趣味ないっつーの!」
「そっちってどっち?趣味にそっちとかこっちとかあるの??」
「いや、そこはどーでもいいっつーかツッこむトコじゃないでしょーよ…」

コレットのボケぶりに、ゼロスは頭を抱えた。ボケだドジだ抜けてる天然だとは常日頃思っていたが、ここまでとは。彼女に対する認識が甘すぎたようだ。
コレットと難なくコミュニケーションを取れているロイドに、少し尊敬の念を覚えてしまう。

「よくわかんないけど、話続けるよ?えっと………………あれ?私、何言おうとしてたんだっけ??ゼロス、わかる?」
「…俺さまが知るワケないでしょ」
「あはは、だよねぇ。ちょっと待っててね、思い出すから。えっと……………」


1分経過。
2分経過。
5分経過。

――10分経過。


「…あのさ、コレットちゃん。無理に思い出さなくても「あ!思い出した!」…………ドウゾ」

どこまでもマイペースな彼女に、ゼロスは諦めて先を促がした。
元々ゼロスが始めた話だ。なら、最後まで付き合う義務がある。(←『毒を食らわば皿までも』の境地)
胡坐をかいた膝の上で頬杖をつきながら、コレットが話すを待った。

「ゼロスにとって、しいなは特別だよね。私にとってのロイドみたいに」


ズリ。


「…ちょ……なんでそういう話になってんの?」
「だって、家族以外で"神子"じゃなく"ゼロス"の心配してくれてたの、しいなだけだったんでしょ?それってすごく嬉しいことだよね」
「それは……まぁ、な。でも、だからってコレットちゃんたちと一緒ってことには――」
「ゼロス見てたらわかるよ。みんなと旅を始めてから、ゼロス、少しずつ心を開いてくれたと思う。特にロイドにね。けど、しいなと一緒にいるときのゼロス、一番楽しそうだよ。『心を開いてる』っていうより、『心を預けてる』って感じ」

コレットの言葉に、ゼロスは動揺する。彼女の指摘は、自分でも気づいていないことだった。
一緒にいる彼らを信頼しているのは確か。それは自分でもわかっている。しかし、しいなに対する自分の態度はそんなにも違うのか。コレットを見る限り――彼女の思い込みではなく、そこにある事実を述べている。ならば、本当に目に見えてわかるくらい違っていたのだろう。
ゼロスは少し気恥ずかしく感じ、目を泳がせた。

「……あのさ、コレットちゃん。それ、アイツらみんな気づいてんの…?」
「気づいてないの、しいな本人だけだよ」

それは喜んで良いのか悪いのか。判断に困る。
というか、あの鈍いロイドにまで気づかれてることには戸惑いを隠せない。いやしかし、ロイドは自分のことでなければ意外に鋭いところがある。しいなもそのタイプだが、この場合自分のことなので気づいていないということだろうか。

「ゼロス?なんか、スッゴイ大きなため息ついてるけど、大丈夫?」
「あー、平気平気。それより、つまらない話に付き合ってくれてありがと〜」
「ううん、色々話せて楽しかったし」
「俺さまもな」
「あはは、そっか。じゃあ、私そろそろ寝るね」
「どーぞどーぞ。後はバッチリ見張っとくから、安心して眠ってくれ」
「うん。おやすみ〜」

二人は笑顔で別れ、コレットは自分のスペースへと向かった。








彼女が眠りについた頃、ゼロスは火を見ながら薄く笑っていた。その笑みは嘲るようなものではなく、優しいものだった。

旅に出る前は、こんな穏やかな気持ちで過ごせるなんて、想像してもいなかった。神子であることが嫌で、神子をやめられるなら――そして、神子制度をなくせるなら、何でもするつもりだった。誰かを裏切ることも、自分の命を捨てることも…………アイツを哀しませることも。
それが今では、心から笑い合っている。自分の本音を話せるほどに心を許している。――そうできる者達と出会うことができたのだ。

(――…俺たちは……今までの"神子"と比べたら、ずっと幸せだよな。俺たち自身を見てくれるヤツらと出会えて――こうして、傍にいるんだから…)

過去を思い出すたびに、言葉にし難い感情が今でもゼロスを襲う。
しかし、その黒い感情を抱えてでも一緒に生きていきたいと思える者ができたことは、本当に幸運だった。同じ宿命の下に生まれた神子――コレットと出会えたことも。
立場と境遇は違っても、その本質は変わらない。その証拠に、異なる世界で生まれ、育ったというのに――惹かれる相手は同じような人間だ。


ゼロスは隣り合って眠るロイドとしいなに視線を向け――幸せそうに笑った。

お題配布元:星色の花











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