ある休日
「あー……失敗、したかしらね?」
「明らかに失敗だっての」
思わず呟いた奏江の言葉に返ってきたのは、飛鷹のキツイ一言であった。
記念すべきの初ドラマで共演して以来、奏江と飛鷹は一緒に出かけることがある。
最初はちょっとしたすれ違いで色々問題を抱えていたが、それも無事解決してからは、まるで本当の姉弟のように振舞っていた。
――とは言っても、本当に姉弟感覚の奏江と違って、彼女に淡い恋心を抱いていた飛鷹にとってはそれも面白くない間柄ではあったのだが。
今では奏江にも社という恋人ができ、飛鷹の想いも「お姉さん」に対するものになっている。
今日は久しぶりにオフが重なり、最近人気のカフェに一緒に行くことになった。
しかし、いざその店に入ってみたら「人気」という言葉が表すように、混み合っていて座れる席が見当たらなかったのだ。
「どうしましょうか。待っててもいつになるかわかんないし」
「違うトコ行きゃいいんじゃねェのか?」
「そうねぇ……」
顎に手を寄せ、今回は違う店にしようかと思い始めたその時――
「あれ?モー子さん?……に、上杉の坊ちゃん」
「キョーコ!?なんであんたがこ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?なんでお前がここに居るんだ、黒い悪魔め!!」
「こらこら。人の話を遮っちゃダメでしょ?じゃないと」
「だからなんでお前が」
「らぶりぃなブラックたちが活動し始めちゃうわよv」(ぴょこん♪)
「ゴメンナサイ。」
怨キョがちょっぴり顔出した瞬間、即座に謝る飛鷹。以前の怨キョ襲撃でトラウマを負ってしまったらしい。(合掌)
だが、効果があるのは何も飛鷹だけではなかったりする。
「ちょっと!その澱んだ空気は止めなさいよね!(怖いからっ)」
「はぁいv」(しゅるりん)
「(ひ、引っこんだわ…)
で、どうしてあんたがここにいるの?」
「そ、そうだ!なんでお前がここに居るんだ!?」
「どうして一々突っかかって来るのよ飛鷹君。それに私がここにいるのは」
「俺とデートしてたんだよね?」
「「「!?」」」
長身なのに気配を感じさせず、ひょっこり現れた蓮。
後ろを向いてたキョーコはいざ知らず、真正面のはずの奏江と飛鷹に気づかれないとは……アンタ何者だ。
固まっている3人に構わず、蓮は奏江と飛鷹に笑顔を向ける。
「やあ、久しぶりだね、琴南さん。上杉君は、初めまして……だよね?」
「お、お久しぶりです」
「初めまして、敦賀さん。お会いできて光栄です」
「こちらこそ」(にっこり)
「(私のときと随分態度が違うわね、二人とも)
……ねぇ?立ち話もなんだし、とりあえず席に戻らない?」
蓮とキョーコの話によると、今日は先日雑誌で見つけたこのカフェでデートをしている最中だったらしい。今は相席させてもらって、蓮と飛鷹、キョーコと奏江が向き合っている状態だ。
しかし、天下のトップ俳優が4人いるというのに、なぜ周りにバレていないんだ?いくらなんでも店員は気づけよ。
社がこの場にいたなら、きっとそうツッコミをいれたことだろう……
「そういえば、社さんは?今日は休みのはずだけど?」
「倖一さんならいつものとこよ」
「……そう」
「相変わらずのハードクラッシャーなのね……」
「あの兄ちゃん、電波でも出してんじゃないのか……?」
多くを語らずとも通じ合う関係というのは素晴らしい。が、今は猛烈に哀しくなるのはナゼだろうか?
「にしても……お前、敦賀さんと付き合ってたのか?」
「あのねぇ…私、一応年上なんだけど?」
「芸能界暦はオレの方が長い」
「ぐっ」
「……ちょっと、飛鷹君」
勝ち誇ったように笑う飛鷹の裾を引っ張る奏江。飛鷹は訝しげに眉を寄せた。
「……なんだよ?」
「敦賀さんの前でキョーコの悪口を言うのは止めた方が良いわよ?黒オーラが発生するから」
「げっ!?敦賀さんって眼鏡の兄ちゃん属性なのか!?」
飛鷹にとって「黒オーラ=社」らしい。……過去に何かあったのか?
しかし、彼の言葉に沈痛な面持ちで首を横に振る奏江。
「違うわ……倖一さんが敦賀さん属性なの」
もはや顔面蒼白な飛鷹。過去に社と何があったのか、ものスゴク気になるところだ。
「(思い出すなオレ!忘れろ、忘れるんだっ!ここは話題転換するんだっ!!)
そ、そんなことより、おま――最上…さ……ん……も、芝居、やってるんだよな?実力の程はどうなんだ?」
業界でも話に聞くし奏江からも聞いていたので、キョーコが女優であることは知っているのだが、実際に演技をしているところを見る機会が無かったのだ。話題を換えたいのも大いに本音だが、ちょうどいい機会だと思い尋ねる。
しかし、それに答えたのは神々しく微笑む蓮。
「キョーコの演技には目を見張るものがあるよ?君も、一度見ればわかるさ。同じ役者だからね」
「私もそう思うわ」
奏江もまた、蓮の言葉に同意する。
実力者二人からの賛辞に、喜びと同時に恥ずかしさを感じるキョーコ。
「二人とも褒めすぎよ///」
「……へえ。この二人に認められてるってことは、期待できそうだな。じゃあさ――」
言葉遣いは生意気そのものだが、どことなく楽しそうに話し始める飛鷹。好きな分野(こと)の話は、聞いていても話していても楽しいものだ。
そして、今ここにいる4人は正真正銘の演技好き。演技の話に花が咲き、大いに盛り上がっていった。それこそ、「いつか4人で共演できたら……」という言葉が出てくるほどであった。
――いつもと変わらないある休日に、少しだけ変わった彼らの関係。
蓮香様にリクエストしていただいた「ギャグ風味でほのぼの系・蓮キョ+モー子さん・飛鷹君」でした。
何か蓮キョっぽくできませんでしたね。ほとんどモー子さんと飛鷹君の話……しかも社さん、登場してないのに存在感ありすぎるし(笑)
飛鷹君はイマイチ性格が掴めていないので、かなり嘘っぱちです。さすがに芸能界での地位を確立している蓮様に向かって生意気な口は利かないだろうと、こんな形になりました。……もっと生意気小僧にすべきでしたかね?
蓮香様。微妙通り越して滝汗な駄文になりましたが、お納めください(涙)
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