表側





「あれー?モー子さん?」
「あら、キョーコじゃない。偶然会うのは久しぶりね」

今、彼女たちがいるのは事務所のロビー。お互い今日の仕事を終え、思いつきで事務所に寄ったら親友と出くわしたという訳だ。
二人とも受け持っている仕事が忙しく、連絡を取り合わなければ会えないことが続いていたため、本当に予期していないことだった。

「そうねーv モー子さんも今日は上がり?」
「ええ。『も』ってことは、あんたもこの後仕事ないんでしょ?カフェにでも寄っていかない?」
「行く行くぅv」

奏江の提案に、一も二も無く同意するキョーコ。
その様子に苦笑しながら、満更でもない気持ちになる奏江だった。







ロビーの奥にあるカフェで、最近の仕事や軽い愚痴などを語らうこと数十分。彼女たちの耳に、突如として女性の黄色い声が響いてきた。
大体の予想はついているので特に不審に思うこともなく、声が聞こえてくる方へと顔を向けるキョーコと奏江。そこには、やはり予想通りの人物達がいた。

「……やっぱり」
「……まぁ、仕方ないんじゃない?あの二人、飛び抜けて顔が良いもの」

女性達の視線の先には、スケジュールを確認し合っていると思われる蓮と社の姿があった。
蓮は当然のこと、マネージャーの社の人気もかなり高い。二人が揃って歩いている姿は、事務所に勤める女性社員達にとってこの上ない幸せなのだろう。


ちなみに、今や蓮に並んでLMEを代表する芸能人である彼女たちにも男性社員の熱い視線が降り注いでいるのだが、それには全く気づいていない二人。この辺りの鈍感さは、両者未だに健在のようである。


女性達の反応を眺めながら、キョーコは溜息をついた。

「顔が良いのは認めるけど……皆、騙されてるわよねぇ?
蓮って意外と子供っぽい性格なのよ?無茶苦茶なヘリクツ言い出すし。見た目裏切って恐ろしいほど嫉妬深いし。日本中を騙しているあの紳士笑顔が一番危険なのよね。本当に温和な人は大魔王に変身しないってば。何より……すぐ迫ってくるし///
「……確かに。
倖一さんも見た目知性的なのに機械関係との相性は最悪だもの。彼も意外と嫉妬するし、何気に敦賀さんを超える腹黒だし。まぁ……一番問題なのは、敦賀さんに感化されてきていることかしら?」
「感化?どの辺りが?(大魔王ぶりではありませんように)
「……あんたが言ってた最後の部分よ///」
「あ、そうなんだ。(良かった、大魔王が増えなくて……ん?)
――って、ええっ!?あの社さんがっ!?」
「しーーっ!声が大きいわよ!っていうか座んなさい!」

あまりに予想外すぎて、思わず立ち上がって叫んでしまったキョーコの口を、慌てて塞ぐ奏江。
キョーコも今居る場所を思い出し、あたふたと席に着き直す。

「ご、ごめんなさい……でも、本当?」
「……こんなコト、あんたに嘘ついても仕方ないでしょう」
「そ、そうね……」


とは言うものの、やはり驚きは隠せない。キョーコのイメージする社は、あくまで「大人で温和な優しいお兄さん」なのだから。
そのキョーコの心中を察したのか、奏江はやんわりと微笑んだ。

「誤解しないでね?大人で優しいことには変わりないんだから。可愛いところもたくさんあるし、何だかんだ言って底抜けに甘いしね。顔に似合わず運動神経いいし、マネージャーとしての能力も抜群だし。
――私って、結構買い物上手よね?」

最後、悪戯っぽく笑う奏江の表情を見て、キョーコも負けじと微笑み返す。

「それなら私も買い物上手よ?本当に嫌がることはしないし、普段は大人の考えができる人だもの。仕事に対する真剣さは尊敬して已まないしね。それに、心からの笑顔は意識が飛んじゃうくらい神々しいんだから!」


言い終えると同時に見つめ合い、これまた同時に吹き出す二人。
しばらく笑った後、奏江はテーブルに突っ伏してしまった。

「あーもうっ!なんで惚気話をしなきゃいけないのよ///」
「いいじゃない、偶には。モー子さん、いつも私の話を聴いてくれるけど、あんまり自分のことは話してくれないもの」
「恥ずかしいのよっ///」
「まあまあv
――それにしても、話を聴く限りでは蓮と社さんって共通している部分があるわよね。腹黒以外で」
「(腹黒以外で……?)……あー、確かにそうかもね」

思い当たることがあり、素直に頷く奏江。
キョーコの表情は、親友の考えが自分と同じかどうか知りたいと物語っている。そのことに多少苦笑しつつ、

「……何なら同時に言ってみる?」

と尋ねてみた。案の定、彼女は満面の笑顔を浮かべてウンウンと頷く。
そして、彼女達が口にした言葉は――





「「誰よりも大切にしてくれること!」」











「お題……『表側』……人の表側……よし、外面だ!」ってことで、敦賀氏と社氏、二人の外面と(あくまでここでの)本性とのギャップを彼女達に語ってもらいました!
そしたらとんでもない惚気話になっちゃいましたね(笑) しかも、二人が思いっきり「親友」してますよ(爆)

蓮様も社さんも、心を許した相手にしか素を見せないだろうと思い、このような形になりました。
読んでくださった方、ありがとうございましたっm(_ _)m