ハムスターの飼育過程 後編





* △月◇日 全体的に晴れ

アイツが口説――素直になり始めて数ヶ月。二人の関係は概ね良好だと思う。
アイツの方は相変わらずだが…彼女の方がある程度慣れたのか、真っ赤になって逃げ出す事は少なくなった。(お世辞にも「なくなった」とは言えない)

「二人の会話」と言えば「演技」と「アイツの食生活」が大半だった以前に比べ、今はお互いの日常について語ったり、お弁当のリクエストをしたりしている。
……人間および人間関係、変われば変わるものだ。特にお弁当に関しては――非常に助かる一方で驚愕に値するよ。口が酸っぱくなりすぎて捻じ曲がりそうになるくらい注意しても、一向に改善されなかったんだけどなぁ…

彼女の方も満更じゃないみたいだしね。
この間なんか、アイツが共演者の女優と話してるのを見ただけですっっっっごく不機嫌になってたし。あれって嫉妬だよな?何とも思ってない相手ならしないよな?

……そりゃあね、俺もあの女優は必要以上に近づいてたと思うけど(更に言えば不自然なくらい胸を強調してたけど)……完全に空回りしてたし。
しかもアイツ、見え見えなアプローチにも気づかず「メイク、直してきた方がいいですよ?役柄上、今のままだとキツ過ぎます。それに香水も……演技には出ませんけど、少し控えた方がいいかと…」――なぁんて、お前の言葉の方がキツイとしか思えない事言ってたもんな。近くにいた俺と違って、彼女には聞こえなかっただろうけどさ。

何はともあれ、最近の会話はこんな感じだ。


『あ、こんばんは!』
『こんばんは。今日は終わり?』
『はい!…………あ、あの、お弁当は…』
『ん?ああ、とても美味しかったよ。ご馳走様』(にっこり)
『…本当ですか?いつもそれしか言いませんよね?』
『そう言われてもな…君のお弁当はいつも美味しいから他に言いようがないんだけど………………何て言えばいい?』
『わ、私に訊かないで下さい!』
『それもそうか。うーん…………あ』
『?』
『「この俺がリクエストしてまで毎回完食している」――っていうのじゃダメかな?』
『…………不思議と断然説得力がありますね』
『……信じてもらえて何よりだけど…素直に喜べないね』
『ふふっ、冗談ですよv …良ければ明日も作りましょうか?』
『え?いいの?……俺としては嬉しいけど、大変なんじゃないか?』
『大丈夫です!最近はお弁当作りが楽し――っ!?』
『……楽しいんだ?』
『べべべべべべ別に深い意味はっ////』
『はいはい。そういう事にしておくよ』
『う゛〜〜〜っ/////』


……どうしてこれで付き合ってないんだろう。
最近じゃ気にならなくなったけど、やっぱり俺の存在忘れてるし。


>>追伸

タイトルの後半――「飼育過程」でいいような気がする。本当は「飼い馴らし過程」の方がしっくりくるんだけど…露骨過ぎる。だけど言い切るのもな……クエスチョンマークを付ければいいか。
題して「ハムスター(仮)の飼育過程?」だ!

それにしても……あの手懐け方は見本にしたいくらいだよ。どうやったらあれだけ警戒された状態から、今の関係に持ち込めるんだろう…





* ×月▽日 俺的に大災害

あの二人が付き合い始めたのは喜ばしい事だ。うん、それは素直に認めよう。
でも…でもな……頼むから…………

目の前でイチャつかないでくれっっ!!

そりゃ秘密の関係でストレスも溜まるだろうな!気づかれないように色々と気を配らなきゃいけないしさ!!
だからその分、二人の事を知ってる人間の前では気を緩めたい気持ちもわかる!わかるが――緩めすぎだ!!!何て言うか…二人の傍にいるだけで飛び散ったハートがグサグサ突き刺さるんだよねっ!

これは決して俺の被害妄想じゃない!俺の想い人であり、同じ境遇である彼女とも意見が一致したし!!

俺達の会話はこんな感じだった!


『あの二人…何とかならないんですか?惚気を聞くのも大変なんですけど?』
『……何とかなるなら即刻やってるさ…俺の胃のためにも』
『…………私より苦労してるみたいですね』
『――あの色ボケ男、二言目には彼女の話題を振ってくるんだ…』
『ふ、二言目…』
『そう、二言目。つまり仕事以外の会話は全部惚気だ!しかも毎日!!』
『ま、毎日…』
『新手の嫌がらせか!?アイツは俺が嫌いなのか!?そうなのか!?』
『ちょっ…とりあえず落ち着いて!』
『いつか同じ目に会わせてやるぅぅぅぅぅぅっ(涙)』


随分取り乱してたんだな、俺……本人の目の前で何て事を…(汗)

――もうこれも書く必要ないな。今後は俺のグチ日記になりかねない。


胃の健康上あり得ない気もするが、いつか笑い話として読み返せたらいいな……


>>追伸

アイツだけには万が一見つかっても読まれませんように……っ!!







パタン・・


「……今更だけど…色んな意味で見てはいけないものを見てしまったのかしら?」

この罪悪感は、多少とはいえ自分の事も書かれていたからだろうが……書かれた当事者二人よりも書いた本人に同情してしまうのは何故だろう?

「あの人、コレの存在自体忘れてるんじゃ……私はどうするべきなの?」

締め括り方からして、特定の人物以外になら読まれても問題ないようだが……この事に触れると過去の古傷を抉ってしまいそうな気がする。かといって、このまま知らぬ存ぜぬというのも後ろめたい。

しばし黙考した後――ページを捲り、数行書き込んで――元の位置に戻した。

書棚にある別の本を数冊手に取り、クッションへと戻る。ゆっくりと読めば、彼が帰ってくるまでの時間を潰せるだろう。


「…………いつ気づくのかしらね?楽しみだわ」









>>追伸

アイツだけには万が一見つかっても読まれませんように……っ!!



>>更に追伸

――ごめんなさいね?実はコレ、読んじゃったの。
あなたはこの本の事を忘れてるみたいだし、言いづらくて……読み逃げするのも悪いから、ここで謝っておくわね。

一つ私からアドバイスしておくけど、この本のタイトルは変えた方がいいわ。あなたにとっては「わかりやすくて不自然じゃない」かもしれないけど、言い回しが不自然で必要以上に興味を引くわよ?少なくとも私はそうだったし。
とりあえず「(仮)」と「?」は外した方が無難ね。


あと…あの二人に私達と同じ思いをさせたいなら…………協力してもいい、わよ?
ただし!あの二人の前限定だからねっ////












檸檬様からの44500hitリク、「ハムスターのように逃げ回ってたキョーコちゃんを蓮様が飼い馴らすまで」でした☆

別名「社さんの観察(グチ)日記」(笑)
作中では全員の名前を出さないようにしてみましたが……大変だった…!(爆)

「逃げ回ってた状態から飼い馴らすまで」を普通にやると軽く長編になりそうだった(←いやホントに。日付=話数と考えてください)ので、第三者に回想してもらいました。……何故か第四者になりましたが。
しかも蓮キョは実際に出てこないし、勝手に社奏も埋め込んで…(/-\)


檸檬様…こんなので宜しかったですか?苦情は覚悟してますので、ズバリどうぞ!



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