社さんの家へ行こう!





「えぇぇ!?社さんが風邪ぇ!!」

珍しく早めに家に帰ってきた蓮は、ジャケットを脱ぎながらキョーコと話していた。
その中で出てきた社のことを聞いて、キョーコは暗記中の台本を置いて蓮に詰め寄った。

「そう。朝から具合は悪そうだったんだんだけど、夕方になると本格的に悪化したみたいで、タクシーで家まで帰ったよ。」
「・・・・な、何てことなの!」

彼氏である蓮としては、マネージャーの事は心配であるが、他の男のことをここまで心配されると、いい気分ではなくなってしまうものである。

「・・・どうして社さんのことでキョーコがそこまで心配するんだ?」
「だって、モー子さんロケに行ってるのよ!?社さんひとりぼっちじゃない!・・・私行ってこようかしら・・・。」
「は?・・・キョーコちゃん、本気?」
「本気よぉ!蓮だって、社さんに早く良くなってほしいでしょう?」
「そ、そりゃあ、そうだけど・・・。」
「そうでしょう?じゃ、私行って来るわね!」

ガシッ!!

やる気マンマンといった様子で立ち上がったキョーコの腕を、蓮は慌てて掴んだ。
こんなにヤル気を出しているキョーコを沈めるのは至難の業。
そのため蓮は溜息を吐きながら言葉を発した。

「・・・俺も行きます。」



一人のマンションに帰った社は、背広を脱ぎ捨て、ネクタイを緩めただけの姿でベッドに倒れ込んでいた。
先程からチャイムが鳴っているが、それに出る気力すら社には残っていなかった。

ガチャ

そのうち帰るだろうと思い、無視していた社であったが、どうやら鍵を閉め忘れていたらしく、訪問者は躊躇いもなくそのドアを開けた。

「・・・え!?」
「あ、社さん!!大丈夫ですか!?」
「キョ、キョーコちゃん!?に、蓮!!ど・・・どうして・・・?」
「社さんが風邪だって聞いたんで、看病しに来たんです!とりあえず、パジャマに着替えませんか?」
「・・・は、い/////」

キョーコはニッコリ微笑んで、社のYシャツに手をかけた。

ガシィ!!

「・・・俺がやる。」

蓮はキョーコの手を掴んで、すぐに社から離した。
キョトンとして見上げるキョーコと、キョーコのいきなりの行動に固まってしまった社さん。
蓮はキョーコにニッコリ微笑みかけた。
しかし目は笑っていない。

「あ・・・・そう?じゃ、パジャマ持ってくるわね。それとタオルも持ってくるから身体拭いてあげてね。」
「・・・え!!い、いいよ!」
「ダメです!汗をちゃんと拭かないと、更に悪くなっちゃいます!」

キョーコはそう言い残すと室内を物色し、タオルとパジャマを持ってきた。
その後は、お粥を作るのだと言って、台所へと行ってしまった。
不本意ながら社の服を脱がせた蓮は、何とも微妙な表情で黙々とキョーコの指示通りに世話をやいた。
微妙な空気を察した社は申し訳なさそうに蓮に話しかけた。

「・・・ご、ごめんな、蓮。」

謝る社は本当に具合が悪そうだった。
顔色は悪く、息づかいも荒く、全身に汗をかいている。
そんな社を見ていると、やっぱりキョーコの言う通り様子を見に来て良かったと蓮は考えを改めた。
申し訳なさそうな社を安心させるように、蓮はニッコリと微笑んだ。

「いいんですよ、社さん。あなたに早く良くなってもらわないと、俺も困るんです。俺たちの事は気にしないで、ゆっくり休んでください。」
「れ・・・蓮・・・。・・・ありがとう。」



蓮は社の着替えを済ませ、ベッドに寝かせると調理中のキョーコのもとへ向かった。

「キョーコ。社さん寝かせたよ。」
「あ、お疲れさま〜!じゃ、そこにある氷枕を用意して、額に濡れタオルを置いてあげて。」
「あれ、氷嚢は?」

蓮は数少ない風邪の記憶からそんな物もあった事を思い出した。
他ならぬ彼女が看病してくれていた。
だからこそ同じようにするのだと思っていたのだ。

「氷嚢?この家にはないみたいね。タオルでも代用はできるから。よく冷やした水で濡らしてあげてね。」
「はい。」

蓮は素直にその言葉に従った。
いつになく従順な蓮を見て、キョーコは満足そうに微笑んだ。
そして、ふたたび料理に戻ったのだった。


「ふぅ、こんな感じか??」
「・・・すまないなぁ、蓮。げほ。」
「そんな事言いっこなしですよ、社さん。」

蓮はそう言って社の眼鏡を外してやった。
そこへ、ちょうど料理をすませたキョーコが戻ってきた。

「お粥作ってきました。わ、社さんの眼鏡外したの初めて見たぁ!かっこいいですね!」
「・・・そ、それは、どうも・・・。」
「・・・・・。」

キョーコのこの発言に部屋の温度が数度下がった。
それを敏感に察知したキョーコはカラッとした笑顔を蓮に見せた。

「蓮〜?芸能界一いい男と言われる人がなんて顔してるの?」
「・・・社さんと俺ならどっちがかっこいいと思ってる?」
「・・・社さんにまで嫉妬ぉ?・・・蓮が一番に決まってるじゃない。」

その一言で部屋の空気は上昇。
熱にうなされる社は、ハートマークの幻影を目撃した。
喜ぶ蓮とは裏腹にキョーコはそれだけ言い残すとすぐに社に向き直った。

「少しだけでも食べてください。それでお薬を飲んで、今夜はゆっくり休んでください。」
「あ・・・うん。」

社の答えを聞くと、キョーコはその身体をそっと起きあがらせた。
社を起きあがらせると、キョーコはすぐにお粥をレンゲに取り、フーフーと息を吹きかけた。
この時点で、蓮と社の双方に嫌な予感が走った。

「はい、口開けてください。」
「キョ、キョーコちゃん、それは・・・あの・・・」
「?食べないとお薬飲めないんですよ?」

困った社は蓮に救いの目を求めた。
いくら蓮が許しても(許してはいないが)、さすがに本人の彼氏の前で、『ア〜ンv』をする勇気は社にはなかった。
しかも彼氏はあの蓮である。
その視線を感じた蓮は再び溜息をつきながらキョーコに話しかけた。

「・・・キョーコ。俺がする。」
「・・・そう?」

蓮はキョーコから、茶碗とレンゲを受け取るとそれをそのまま社の口に運んだ。
キョーコは社が食べるのをジッと見守っている。
食べないわけにはいかなかった。



「・・・お、おいしかったよ。キョーコちゃん。」
「はい。どうぞ。お薬です。」
「あ、ありがとう。」

社が薬を飲み、眠りにつくのを確認した蓮とキョーコは、深夜になってようやく帰路についた。
その車内。

「社さん、早く良くなるといいわね。」
「そうだね。」
「それにしても、蓮って本当に社さんの事好きなのね!」
「・・・・ん???」
「だって、私が社さんのお世話しようとしたら全部取り上げたじゃない?あれってヤキモチでしょう?そんな事しなくたって、あなたのマネージャーを取ったりしないわよ〜。」
「キョーコちゃん、それ勘違い・・・。」
「モー子さんにまでヤキモチ妬いたりしちゃダメよ?モー子さんは恋人なんだから!」
「・・・だから、勘違い・・・。」









強制終了(笑)

スキビサイト『Organism Dream』様のナオ様から強奪してきた、5万hit記念フリーSSです。

「モー子さんに代わって看護しなくては!」と使命感に燃えるキョーコちゃん、蓮様の気苦労が全くわかっていません(笑)
甲斐甲斐しく社さんの看護をする蓮様に爆笑ですね!
男の手による「あ〜んv」…社さん、ご愁傷様☆……ぷっ(・ω・ )

ナオ様、楽しいお話をありがとうございましたvv