あんなに自分の中を支配していた「復讐」という気持ちが

なくなっていこうとしているのは

やっぱりあの人のせい・・・?




Reason





キョーコは「DARK MOON」出演のお陰で超多忙な日々を送っていた。
敦賀蓮に負けずとも劣らぬ殺人的スケジュールをこなしている。
そんな日々がずっと続き、さすがにだるまやに迷惑がかかるから、と一人暮らしを始めて早1月。

そんな中久しぶりに立ち寄った事務所で久しぶりにあの人にあった。

「やあ、久しぶりだね。」
「敦賀さん。ご無沙汰しています。」
「なんだか忙しそうだね。お陰でなかなか君に逢えなくて。」
「え?何か私に用事でもあるんですか?」
「・・・・最上さんはやっぱりこれからも仕事?」
「ええ。10時までみっちりと。」
「そっか。じゃあ、10時半になったら電話するよ。番号変わってないよね?」
「え?ええ・・・でも・・・どうして・・・・」
「・・・・ちょっと話があるんだ。」



そういって蓮は事務所で用事を済ませた社と合流すると地下駐車場に消えていった。
呆然と立ち尽くすキョーコ。
なんで自分に用があるのだろう。
確かに自分も今はとっても忙しいが、蓮なんて更に忙しいはずなのに。

「キョーコ、お待たせ。どうしたの?」
「あ、森田さん。なんでもないです。・・・それより、今日って仕事10時に終わりますよね?」
「ええ、その予定だけど。それがどうしたの?何か気になることでも?」
「いえ、何でもないです・・・。」

にっこり笑ってキョーコはついたばかりのマネージャーの森田と共に次の仕事先へ向かう。



どうして急に呼び出されたかわからないけれど。

何故か心躍っている。

久しぶりにあの人と話ができる。ただそれだけなのに。

そんな自分が不思議で仕方なかった。






蓮からの電話がかかってくる10時半になった。キョーコは自宅に戻ってきていた。
携帯電話の前で正座して待っている自分が信じられないが、今はただ電話を待つのみ。

〜〜♪♪

着メロが鳴り、携帯のディスプレイには「敦賀蓮」の文字が浮かぶ。

「はい、もしもし!!」
『あ、最上さん。敦賀です。今どこ?』
「あ、もう自宅にいるんですけど・・・」
『今から行くよ。俺ももう仕事終わったんだ。』
「ええええええ!!そそそそそんな!!」
『大丈夫。社長にちゃんと居所聞いてるから。』

ぴーんぽーん

キョーコの部屋のインターホンが鳴る。
ディスプレイに映し出された顔は紛れもなく敦賀蓮であった。
「つ、敦賀さん!!」
『こんばんわ。鍵、開けてくれる?』
「え、え、え、でっでもっっっ!!」
『大丈夫だよ。襲ったりはしないから』
「敦賀さん!!!」

くすくすと笑う蓮だが、この夜更けにわざわざ自分の部屋を訪ねてきたということは何か深刻な話でもあるのかと考えたキョーコはカギを開けた。
『ありがとう。10階だったっけ』
「・・・はい」



キョーコはドキドキしていた。一体何を言われるんだろうか。
演技のダメだし?
仕事の態度?
何かプライベートで私を見かけてそれをチクりにきた?

などといろんな妄想が頭を駆け巡る。

再びチャイムが鳴り、キョーコはドアを開けに行った。猛ダッシュで。


「やあ、こんばんわ。」
「・・・敦賀さん・・・」
「入っても・・・いい?」
「あ、はい・・・どうぞ・・・」

蓮がドアの中に入り、キョーコはドアを閉めてスリッパを出してあげる。
「ありがとう」
と言って蓮は素直にスリッパを履く。

引っ越してまだ一月のせいかすごく殺風景。蓮は部屋をキョロキョロ見回して苦笑い。

「何を笑っているんですか?」
「え?いや、君のことだからもっとレースがひらひらっとした部屋かと思ってたよ。」
「・・・まだ一月ですからね。やりたいんですけどおかげさまでとっても忙しくて。」

そう言ってキョーコは蓮にソファに座るよう促した。
「コーヒー、飲みますか?ブラックでしたよね?」
「ああ、ありがとう。いただくよ。」
鼻歌まじりでコーヒーを淹れるキョーコ。キッチンでかちゃかちゃと食器の音を立てながら蓮に話しかける。

「ところで、敦賀さんは私の部屋に何しにきたんですか?お部屋の見物ですか??」
くすくすっと笑うキョーコを見て蓮もくすっと笑う。
「もちろん、そうだよ。」
その瞬間キョーコの顔が真っ赤になる。
「敦賀さん!からかうのはやめてくださいよ!!いつまでも私をいぢめるんだから!」
「いや、別にいじめてるわけじゃ・・・」
「私にしてみればイジメ以外の何物でもないです!」
とプリプリしながら蓮にコーヒーを出した。
「あ、ありがとう。」

そんな時でも何故かキョーコは楽しく感じた。顔が怒っていないから。
蓮とのやりとりはいつの間にか自分の中で楽しいものへと変換されている。
その理由は今はまだわからないけれど。


キョーコは自分のコーヒーを手に持ってソファに腰掛けた。
「で、本当に・・・何の話があるんですか?」
コーヒーを一口飲んだあとカップをテーブルに置いて一呼吸いれる蓮。

「・・・君ってさ、今、すごく仕事忙しいよね。」
「え??ええ・・・まあ・・・ありがたい事なんですけど。」
「君の目的って最初なんだったっけ。」
「目的って・・・・・・・・」

しばらく考え込んだキョーコを見つめる蓮の瞳はとても優しげだった。

「あ!思い出した。不破尚への復讐・・・・・・」

「そうだったよね。今ってそれ実践してるわけ?」



キョーコはその言葉に戸惑ってしまった。
そもそも芸能界に入った理由は「不破尚へ復讐するため」だった。
でもそれが「演技を通して『最上キョーコ』を作りたい」に変わっていった。
だんだんとキョーコにも仕事が入ってくるようになり、今ではすっかり忘れてしまうまでになっている。


「私・・・・・忘れてる・・・・?」
「・・・・仕事してても彼の顔を思い出しては怖い顔とかしてないよね。」

「・・・はい・・・・」



「・・・・・キョーコちゃん・・・・・・」

「!!!!!」

蓮が初めて(いや、正確には2回目)名前で呼びかけた。

「昨日ね…ちょっと仕事で僧侶の人に会ってね・・・素敵な言葉を言ってたんだよ。」
「素敵な言葉・・・?」

「憎しみは許す事で消えるって」

「許す・・・・?」

「君は今は仕事に追われてて彼への復讐心を忘れてしまっているだけだ。心の奥底にはまだまだその憎しみの渦が満ち溢れていると思う。でも・・・。」

「でも・・・・?」

「俺は・・・・・不破尚を許してあげられる最上キョーコになってほしいんだ。」


蓮は言葉を慎重に選びながらキョーコに語りかける。

復讐心を消す事は二度とないと思っていたキョーコはその言葉を聞いて、言葉を失くした。



「もう君には不破尚を憎む理由もないしね。」

「え・・・?それどういう・・・・」


そう言いかけたキョーコにふわっと覆いかぶさった大きな肩。


「俺は・・・・・どうも・・・・・・」


「え・え・え・え・え?????なななななに???」


慌てふためくキョーコをぎゅっと抱きしめる蓮は耳元で囁く。


「君のことが好きみたいだ・・・・・」





キョーコは蓮に抱きしめられたまま硬直している。




「君は・・・俺のこと、どう思っているの・・・・・?」


「え・・・・・・・わ・・・・私・・・・私はっ・・・・・!!!」

どう答えたらいいのかわからない。頭がぼーっとしている。
自分の事を嫌いだと思っていた蓮が自分に今好きだと告白しているのだ。


「・・・ごめん、急ぎすぎたね。」


そう言って蓮はキョーコから離れた。


「君が不破を許してあげられることができたなら・・・・・そのときは・・・・返事をくれるかい?」


「ど、どうして・・・私なんか・・・」

「自分でもよくわからないよ・・・・。ただ、君の前だと本当の自分を出せる。今のところそれが理由。」


蓮はすっと立って帰り支度を始めた。
「帰るよ。突然すまなかったね。」

そういって蓮はキョーコの横を通り過ぎて玄関に向かった。


その瞬間。

キョーコの体が熱くなった。蓮が抱きしめてくれたあのぬくもりがキョーコの体を支配する。
無意識に玄関に走っていって蓮に抱きつく。


「敦賀さん・・・!!」


蓮はキョーコの行動が信じられない。
あんなに自分の告白に戸惑っていたキョーコが突然自分に抱きついてきたのだ。

「キョーコちゃん・・?」
「私・・・私!今日あなたと会えただけですごく幸せな気分になれた!電話がかかってくるのを今か今かと待ちわびていたわ!これって・・・この気持ちって・・・」

「君はようやく『愛する事』を取り戻したみたいだね。」

「敦賀さん・・・・」
くるっとキョーコの方に向き直し、蓮はキョーコが無意識で流した涙を指で拭ってあげる。

「不破への復讐はもう・・・消えてる?」

「わからない・・・でも今は敦賀さんの事ばっかり考えてる・・・・だから・・・・もうショータローを憎む必要もない・・・・?」


蓮はキョーコの言葉にくすっと笑い、ぎゅっと抱きしめる。

「合格だね。」











こちらはスキビサイト『SanaSEED』のSana様のところから強奪してきた、2万打記念フリー小説です。
尚への復讐心より演技と蓮様を取ったキョーコちゃん。素晴らしいですね!
何気に「ショータロー」と本名をつぶやいているところもグーです!