俺のプライドは粉々に打ち砕かれた。
俺の演技が認められなかった。
あんなに"オリジナル"の演技を超えようとしていたのに。




PRIDE





恋愛の演技に対して感情移入をできない自分がいる。

自分は恋をちゃんとしているんだと思っていた。
それをあっさりと否定してくれた人がいた。
しかもそれはその人の思ったとおりになって俺はなす術もなかった。


自分の力を否定された俺はもう何も考えられなくなった。
演技が出来ないなら来なくていい、とストレートには言われなかったが、それでも俺の昔のイヤな記憶が俺の役者生命を脅かす。

深い傷跡が俺の心を抉った。


そんな時。

ある人が俺の悩みを聞いてくれた。
その人は着ぐるみを着たままだったから顔はわからないけれど、親身になって答えてくれた。

俺が恋愛ってどんなものなんだろう・・・と真剣に悩んでいて、最初は驚いていたが話を聞いてくれた。
突然「ゴキブリをやっつけてた」なんて言われた時は、
「人が真剣に悩んでいるのに・・・」
と怒りに任せて着ぐるみの頭を取ってやろうと目論んだが結果は帽子が取れただけ。
それが却って俺の心を和ませてくれた。
最後まで顔はわからなかったけど、1つの答えを導いてくれた。


「可愛いなとか素敵だな、って思った事があるのだったらそれがその人に対する恋の前兆なんだよ。」




ああ、俺にもちゃんと恋が出来てたんだ。


そう思ったら胸のつっかえが取れたような気がした。


これで少しは嘉月の気持ちになって演技ができるかもしれない。
いてもたってもいられなくて俺は次の日スタジオへと走った。
今なら出来る。きっと出来る。そう信じて。




俺が思い浮かべた彼女は今日もスタジオにいた。
俺が復帰するのを待っていてくれた。
そして喜んでくれた。
それだけで俺の胸の鼓動が高鳴る。
それだけで満ち足りた気持ちになる。

これが、彼の言っていた「恋」だったんだ。

「恋を」理解できた事をあの着ぐるみの子に感謝しなければいけないけれど。
それはまた後の話。
今は自分の気持ちに素直にならなければ。




彼女が俺のこれからの人生の光になりうるのならば、深く愛してみようか。

彼女が俺の事をよく思っていないのは重々承知だけど、そんな事は構わない。
俺が昔彼女と会った時の記憶が勇気をくれる。
あの時会った事が運命なのだとしたら、俺はその運命を受け入れよう。
それが今までの俺の心のしこりを消し去ってくれる程の光を放っているのだとしたら。


手に入れるしかないじゃないか。




彼女とは戦いになる。
だから今はこの気持ちは胸にしまっておこう。


でも、この戦いが終れば・・・・・。きっと未来は動きだす。

不安とプライドを胸に君を求めるだろう。











Sana様のサイト、『SanaSEED』様から強奪してきた6万hit記念のフリーSSv
本誌6号後の設定だそうですが……素敵すぎますっvv
蓮様の「あの時会った事が運命なのだとしたら、俺はその運命を受け入れよう」という言葉に胸を打たれましたよ(T-T)

Sana様、こんなに素晴らしいお話をフリーにして下さってありがとうございました!