スキビサイト『十二ヶ月』の弥生様から強奪した、1万hitフリー小説です。
素直になれないキョーコちゃんと策士な蓮様風味でございます。
自分の気持ちに気付いたのは、何時だっただろう 思い出すだけで苦しくて、切なくて 無理やり心の奥にしまいこんだ・・・・ ルージュの伝言 仕事の報告を終え、帰宅の為廊下を歩いていると、敦賀さんに会った いつもなら隣を歩いている社さんも見当たらなくて、一人真っ直ぐにこっちに向ってくる 無駄に鼓動が早まるのが解り、大きく息を吸う いつもの様に、会話を進める為に 「こんばんわ」 「やあ、久しぶり。今日はもう終わり?」 「はい」 ・・・・・苦しい 柔らかな笑顔に、息が詰まる 言葉には、決して出してはいけないから 「丁度良かった、手出して」 差し出した掌には、一本のルージュ 開けてみれば、見たことも無いほど綺麗なローズピンク 「・・・これ」 「今日のCM撮影で貰ったんだ。あげるよ・・」 お化粧も大好きだし、このルージュの色もとても気に入った だけど何より嬉しいのは、敦賀さんに貰ったと言う事実 「有難うございます!」 心からの微笑みに満足そうな笑顔 また一つ、鼓動が大きく跳ねた ここで別れれば、今度は何時会えるのだろう それでも綺麗な笑顔で、無情に手を振る姿に微笑む事しか出来なかった 数週間がたった頃 嬉しくて悲しい出来事が起きた ドラマで役を貰えた それも、敦賀さんが主演のドラマ 私の役はそんなに大きなものでは無いけれど、毎回そこそこ出番のある役 勿論演技は大好きだから、仕事に気を抜くようなマネはしない だけど少しの時間でも、敦賀さんに毎日会える それがたまらなく嬉しかった でも・・・・・ 主演男優が居れば、必ず主演女優が居る 目の前で繰り広げられるラブシーンに、苦しみは増していくばかり 演技だと解っていても、時々泣きそうになった 隣で微笑む女性はとても綺麗で、華やかで・・・・ それに負けぬ程、敦賀さんは優しく笑っていて 私にあの人の隣は似合わない そう思わずには居られなかった いつも持ち歩いている それでいていつも使う事が出来ないルージュを、ポケットの中で握り締めた 撮影も終盤に差し掛かった頃 スタッフの人に頼まれて、控え室に敦賀さんを呼びに行った ドアを開け鏡に映る姿に息を呑む 鏡には、椅子に座って転寝する敦賀さん 今なら思いを告げても、気付かれる事は無いかも知れない 許されるなら、無防備に曝け出されたその頬に、口付けたい 「敦賀さん、撮影はじまるそうですよ」 理性で自分の心をきつく縛り、その肩を軽く叩いた 「・・あっ・ごめん有難う」 目を覚ましスタジオに向う敦賀さんの背中を、緩やかな笑顔で見送り大きく溜息を付いた もう一度、敦賀さんを映した鏡に向き直る その姿を消した今でも、そこに居るかの様に思い出せる 鏡に近づき、ポケットのルージュを取り出した 少しだけ唇に塗ってみる 鮮やかな色が、あまりに綺麗で涙が零れた そっと、敦賀さんが写った場所に口付ける 私は逃げ去るように、その場を後にした 撮影を終え事務所に戻ろうとした時、予期しない事態が起きた スタジオの出口で、空を仰いでいた敦賀さんが歩み寄ってくる 心臓が早鐘のように打って、苦しさで目を背けたい 「これから、事務所?」 「・・・はい」 「それなら、送って行くよ」 返事を返す間も無かった 半分強引に手を引かれ、駐車場に連れて行かれ 気付けば、敦賀さんの車に乗っていた 長い沈黙を破ったのは、敦賀さんからの質問 「俺があげた口紅、どうした?」 体が強張った 鏡を良く見もしないで逃げ出したから だけど、口紅一つで解る筈が無い 一度塗ったルージュも、今は綺麗に落としてある 知らない振りをしていれば、誤魔化せる・・・ 「家にありますよ、それが何・・・」 「嘘つき」 はっきりと、言い切った敦賀さんの言葉 驚いてその顔を見れば、薄っすらと笑みを浮かべている 「どうして・・嘘何て・・・」 「最上さんにあげた口紅、一つしか無いんだ。似合う人が見つから無くてね、製造を断念したたった1本なんだよ」 たった一つ・・・まさか、そんな事があるなんて思わなかった 上手く隠してきたつもりだったのに、残してしまった心 怖くて体が震え、無意識に涙が零れた ゆっくりと車が止まる 逃げ出したい、そんな衝動に駆られた でもそれは、敦賀さんの手によって遮られる 綺麗な指先が、流れる涙を拭ってくれる それでも、続けられるであろう拒絶の言葉が怖かった 聞きたくなくて、体が益々強張っていく・・ 「怖がらなくて良い、君を泣かせたい訳じゃ無いんだ」 瞼に柔らかな感触が触れた 驚いて目を開けた目の前で、いつも見たドラマのシーンより優しい笑顔 「解らない?君なら似合うと思ったんだ。真剣にしている筈の仕事の最中に思い出すほど、俺の頭は君でいっぱいらしい」 現実が理解出来ず、混乱が頭と心を支配していた 誰が・・一体何・・? 目を見開いて硬直する私の唇を、静かに敦賀さんの指がなぞる その感触に、目眩を覚えた 「もう一度、塗ってくれないか・・俺の為に・・」 戸惑いながらも、ポケットのルージュを取り出し唇に飾った 変わらず美しいローズピンクを、敦賀さんは嬉しそうに見つめて笑う 「やっぱり良く似合う、綺麗だよキョーコ」 その瞳に映れる事が、ただ嬉しくて 出来るなら、映る姿はどんな自分より、綺麗な姿で映りたくて 精一杯の笑顔で答えた 今もまだ言葉に出来ない思いを乗せて 敦賀さんからの答えは、深く甘い口付け 幻の彼ではなく、現実の彼の唇に残ったルージュ 残された想いを拾った貴方が、変わりに運んでくれたのはたくさんの幸せ
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