輝きは増して… 前編 外見も中身も蓮そっくりの長男――昴は、やはりと言うか当然と言うか、極度のマザコン&シスコンの称号を得ていた。 特に妹――星華への執着ぶりは、キョーコに対する蓮の独占欲と比べてもなんら遜色がない。これは「母さんは父さんのモノ」という絶対的かつ究極的な真理によるところが大きい。 一方、キョーコ生き写しの星華は家族全員(むしろ周りの人全員)大好きだ。 しかし、これまた案の定と言うか予期通りと言うか、「パパ」が一番好きだったりする。「ママ」と「スバル」は次点だ。 ――これは、敦賀家の双子(5歳)が忙しい両親と久方ぶりの「一家団欒」を満喫することになった、ある日の出来事。 「パパ〜おはよ〜〜v」(ちゅう〜v) 「おはようv 星華vv」(チュッvv) 朝っぱらから、天使の笑顔でソファに座る蓮の頬にキスをする星華。 老若男女問わず腰砕けになりそうな神々しい微笑みを浮かべ、お返しとばかりに愛する妻に瓜二つの娘のおでこにキスを落とす蓮。 どこの国の朝だ。とツッコミたくなるが、あえてスルー。こんなモノ、この敦賀家においてはもはや日常と化した光景だ。 「子は親を見て育つ」と言うが、その典型的なパターンではないだろうか?毎朝万年新婚夫婦よろしく口付けを交わしている両親を見て育った星華は、「キス=家族内の朝の挨拶」という、日本ではありえない方程式をはじき出したようである。同じように見て育った昴は蓮の血をそのまま受け継いだだけあって、それが一般家庭と異なっていることを理解しているようだが。 大好きなパパに挨拶をした星華は、その隣で明らかに不機嫌オーラを出している昴にも挨拶をする。 「スバルもおはよ〜v」(ちゅう〜v) 「(オレはついでか…?)おはよう、セイカ。(ちゅ)……でも、できれば父さんより先にしてほしかったかな?」(にこにこ) 「だぁめ!いちばん好きなパパへのあいさつがさいしょ!」 「………………そう。」 「(……なんかサムいしコワい…ここはキケンだわっ)あっ、ママにもあいさつしなきゃ!ついでにごはんのジュンビも手つだってくるわ!」 属性までしっかり両親から受け継いだ双子は、片やぷちブリザードを引き起こし、片やそれを敏感に察知して逃げた。 その一部始終を傍で見ていた父親は、 (うん、自分に素直ないい子たちに育ってるなv) と、どこか的外れなことを思っていた。 「おはよ〜ママv」(ギュッ) 「あら、おはようv」 キッチンで朝食を作っていたキョーコの腰に、後ろから抱きついた星華。いつものことなので驚きもせずに挨拶をし、キョーコは少し屈んで娘の頬にキスを落とす。もちろん、星華も同じように返した。 「ママ!わたしもお手つだいする!」 キッチンの隅に置かれた星華専用の台を引っ張りながら申告する星華に、キョーコは優しく微笑みかけ、 「ありがとうっ星華vv いい子に育ってくれたわね〜っv でも、向こうでパパと昴と一緒にいてもいいのよ?」 「ダメ!きのう、パパがいってたもん!ママ、げんきないんでしょ?」 「……え?」 「『パパにはかくしているつもりみたいだけど、ママ、さいきんかおいろがワルいんだ。パパもきをつけるから、ふたりもママをたすけてあげてね』って、パパにいわれたわ!」 (バレてたのね、やっぱり……通りで『病院行け』的な発言が多いはずだわ…) 星華の言う通り――つまりは蓮の言う通りなのだが――ここ最近、キョーコは体調を崩していた。風邪でもないし、月に一度のアレでもない。おそらく、仕事疲れが出てきたのだろう。 平気なフリをして、それに周り全員が騙されているというのに、やはり夫だけは一筋縄ではいかなかったらしい。何だか負けたみたいで悔しいが、同時に自分のことをよく見てくれているのだと嬉しい気持ちもある。 知らず知らずのうちに顔をほころばせていたキョーコを余所に、星華は両手で握り拳を作って使命感に満ちた瞳になっていた。(……この辺りも、やはり血なのだろうか?) 「だからわたし、カジを手つだうわ!おリョーリもセンタクもおソージも、いつもお手つだいしてるからできるし!!」 「……じゃあ、お願いしようかな?」 「ええっ、まかせてっ」 自分そっくりの娘。一度言い出したら簡単には引かないことはよくわかっているため素直に頼むと、星華は顔いっぱいの笑顔で胸を叩いた。 「――そういえば、どうして星華は家事をしたがるの?」 キョーコ自身は家事全般プロ並だが、別に身につけたかったわけではない。成り行き上、そうならざるを得なかっただけだ。 しかし、星華は誰に言われるでもなく、また誰のためにでもなく家事を手伝っているように思える。キョーコにはそれが不思議だった。 「わたしね、ママみたいななんでもできるおヨメさんになりたいの!」 「ブッ!!」 「とくにおリョーリはがんばって、大好きなヒトにたべてもらうのぉ〜vv」 「…………そ、そう…(滝汗)」 娘のなんとも可愛い夢。特に「ママみたいな」なんて言葉は、思わず涙が出そうなくらい感動的なセリフだ。 だが!だが、切実に待って欲しい!!我が家にはそれはもう目に入れても痛くないどころか「痛い」なんてほざいた人間は即・抹殺!しそうなほど娘を可愛がっている父親(蓮)と、その蓮といい勝負むしろ星華に関しては蓮よりスゴいと思われるシスコン兄貴(昴)がいるのだ。 その二人に今のセリフを聞かれた日には……考えることも恐ろしい…… 「……せ、星華?誰か、手料理を食べて欲しいような人がいるの?(いたとしたら確実に血の雨が降るわ!できればまだいないでっ!)」 引き攣った笑顔でそう問いかけると、星華は抱きしめて頬擦りしたくなるくらい可愛い笑顔で、 「パパ!」 「ぱ、ぱぱ?」 「うんっ!わたしね、しょうらいはパパのおヨメさんになるの!」 「……そうv パパも喜ぶわよ〜v(それはもう蕩けんばかりの笑顔でね)」 「ほんとっ?」 「ええv」 嬉しそうに振り向く娘に、キョーコは大きく頷いた。 「父親のお嫁になりたい」。父親のいなかったキョーコには経験がないが、女の子なら一度は抱く夢だろう。キョーコは微笑ましく思い――そこで、はたとあることに気づいた。 「……ねぇ、星華。『昴のお嫁さんになりたい』とは思わないの?パパと昴、顔も性格もほとんど変わらないわよ?」 「なにいってるの?ママ。スバルはわたしのおにいちゃんだから、ケッコンなんてできないのよ?」 「……………………」 至極真面目にそう答える娘。 その隣には、「どうして『兄とは結婚できない』ってことを知ってるのに『父とは結婚できない』ってことを知らないのかしら?」と、かなり真剣に悩む母親の姿があった。 |