「親睦会」って何ですか? 前編





……ハァ。俺って、最近胃薬が生活の友になってないか?今日もまたこの薬の世話になりそうだし。(……ていうか、これって必要経費になるのか?購入原因は明らかに某担当俳優なんだしさ)

あ、でも、今日の胃の痛みは珍しいことに某担当俳優のせいだけじゃないんだよな。(原因であることには間違いないんだけど)
その発端はアレだ、ウチの社長だ。
イベント好きにも程があるよ。日々忙しい業界人――その中でも特に忙しい日々を送っているだろう人達――を巻き込んじゃってさぁ。大体、迷惑被るのは本人達より俺達マネージャーなんだけど。スケジュール調整のために奔走した日々は今思い出しても涙を禁じえないね。


芸能界は色んな人達――監督、俳優、歌手、芸人など――によって成り立っているのに、その彼らの間に交流の場がほとんど無いのは嘆かわしいことだとか何とか言って開催されたのは、各部門でトップ10にランキングされている人間200名が参加することとなった親睦会。社長としては全員参加させたいところだろうけど、現実問題それは無理だから一部の人間だけが招待された。
もちろん、トップ10に入っているということはそれだけ売れている――つまり忙しいのだから強制ではない。けど、主催者はあの宝田社長だよ?それを断れるような勇者は誰一人いないって。

この親睦会の趣旨を褒め称える人もいるみたいだけど、社長という人を泣いて叫んで辞退したいくらい知ってる人間にはわかる彼の本音。
最近イベントがないから作っただけでしょうっ、社長!!(涙)


今更嘆いても、むしろ最初から嘆いてもどうしようもないからソレは置いておこう。
理由は何であれ、社長が企画したのは親睦会。そう、紛れもなく「親睦会」。だというのに……これは一体どういうことだろう?

【参加者は必ず男女のペアになること!(ランキングの種類は不問)】

会場入り口にむやみやたらと装飾された状態で立てられた看板には、達筆でそう書かれていた。







「…………なんだろ、これ」
「さあ…なんでしょうね?まあ、社長のやることですし」
「……そうだな。にしても、男女のペア、かぁ。蓮はキョーコちゃんとなるつもりだろ?」
「何を当たり前のことを。俺とキョーコがペアになることは法律上決まっています。むしろ自然の摂理です」

法律で決まってないってば。まだ結婚してないんだからさ。――いや、結婚しててもそんな法律はないか……
大体自然の摂理って何だ。お前の摂理だろ。

「はいはい。わかってるって。俺が言いたいのはさ、奏江さんはどうするのかなってこと。俺はマネージャーだから参加できないし。やっぱり他の男と組むんだよなぁ…」
「それなら心配しなくていいんじゃないですか?確か上杉君も参加していたはずですから、きっと彼と組みますよ」
「あ、そうか!」

そういえばそうだった。うん、彼となら別にいいか。
よし!これで心置きなく見守れる!……はずだ!!







キョーコちゃんと合流した後、連れ添って会場内に入っていく二人を見送った俺は入り口から中の様子を窺っていた。
マネージャー達のために用意された部屋があるけど、俺としてはこっちが気になって仕方ない。蓮がキョーコちゃんに微笑みかけることで失神する女性が出ないだろうかとか蓮がキョーコちゃんに近づく男を凍りつかせないだろうかとか蓮が公衆の面前でキョーコちゃんを押し倒したりしないだろうかとか……

俺が胃をキリキリさせているのとは無関係に、パーティは開始された。


うわぁ……今回も派手な衣装ですね、社長。どこの民族衣装ですかソレ。
LME(うち)の人間と社長と親しい人以外、み〜んな引いてますよ?あ、グラスを落とした人もいるな。

あ、でも一応主催者らしいコメントしてるよ。格好は激しく場違いだけど。
へ〜。ペアにしたのは相手に自分の付き合いをさらけ出すためだったのか。……でも、それなら「男女」にする必要ないんじゃ……?


「尚〜っ!そんなあからさまに欠伸してどうするの!」
「……あれ?確か不破君の…」
「えっ!?あ、あなたは敦賀…さんのマネージャー、ですよね?私、不破尚のマネージャーで安芸祥子といいます」
「あ、社です。ところで何やってるんですか?」
「え゛?あの、その、ちょ、ちょっと心配事が……」

……随分顔が引き攣ってますが。
ああ、そうか。彼、蓮のこと毛嫌いしてるもんな〜。しかもキョーコちゃんのことで更に拍車をかけたみたいだし。何か問題を起こさないか心配なんだろうな……これは俺にも言えることか。
ていうかさ、彼が来てて尚且つ蓮とキョーコちゃんがパートナー……?ふっ。俺の平穏は終わったな……


心の中で号泣しているうちに――実際泣いていたかも――参加者は好き勝手に動き始めた。









<愛する彼女と生意気な俳優の場合>

「おやおや。予想通りの組み合わせだな」
「きゃーーーv モー子さん、その服似合ってるぅvv」

うんうん!奏江さんは何着ても似合うな〜v

「ありがと。キョーコも似合ってるわよ。ていうか、敦賀さん?人のこと言えませんよ?まあ、あなた達が組まないはずないでしょうけど」
「まあね。それより、社さんが心配してたよ?君は誰と組むんだろうって。俺は『彼』じゃないかと言ったんだけど」
「ああ、それで『予想通り』ですか」
「なんだ、眼鏡の兄ちゃんはこのオレがここにいないとでも思ってたのか?」

いや、そんなことないけど……
それにしてもいつになったら名前を呼んでくれるんだ、君は。お兄さん、哀しすぎて君の携帯に名前登録しそうだよ、素手で

「ちょっと飛鷹君。いい加減『眼鏡の兄ちゃん』じゃなくて『社さん』って呼べないの?」
「お前こそいい加減子供扱いするな!!オレはもう子役じゃないんだっ!!」
「あら?人の名前も素直に呼べないような子は、十分子供じゃないの。ねえ?モー子さん」
「なっ!?」
「(何で私に振るのよっ!?)別に子供だとは思わないけど……そうね、そろそろ名前で呼んであげて欲しいかしらね。あれで本人、凄く寂しがってたから」
「そうだね。社さん、寂しそうに漏らしていたよ。『飛鷹君の携帯に名前登録しちゃおうかな、素手でって」(にっこり)

バラすなよっ!!ていうか、なんで三人とも固まるんだ!?

「……マジで?」
「うん」
「………………努力シマス。」

……飛鷹君。随分顔色悪いよ?







<腹黒監督と美白歌手の場合>

「…………これはまた、珍しい組み合わせね」

うん。俺もそう思う。

「よぉ、久しぶりだな〜二人とも♪」
「お久しぶりです、新開監督。瑠璃子ちゃんもあの映画以来かな?」
「お久しぶりです敦賀さん!(いつ見てもカッコイ〜vv)……久しぶり、元ハイエナ部員」
「誰が元ハイエナ部員よ!?」
「あんたよあんたっ!!結局敦賀さんとくっついたクセにーーーっ!!」
「それは『今』でしょ!あのときは本当になんとも思ってなかったわよ!!」
「はんっ!どうだかねっ!!」
「何よそれっ」

うわぁ〜。久しぶりに見るな〜、二人の勝負。
あ、蓮も新開監督も放置してるし。

「それにしても、どうして二人が?」
「ん〜?別にこれって理由はないけど?強いて言うならあの二人の言い合いを間近で見たかったからかな♪」

…………新開監督。そんなこと言ってるから腹黒の蓮に腹黒と言われるんですよ。

「……相変わらずですね」
「お前もな。あ、そうそう。今度キョーコちゃんと仕事するからヨロシク!」
「……そんな話、聞いてませんよ、俺」
「だろうな。キョーコちゃんには黙ってるように言っておいたし」
「なんでまたそんなことを…」
「実はな。共演する予定の俳優がキョーコちゃんをこよなく愛して「今すぐ名前を教えてください。きっちり身の程と言うものを教え込みに行きますから」(に〜っこりv)……だと思ったよ。名前を教えるくらいわけないが、教え込むのは無理だと思うぞ〜?」
「相手が誰だろうと関係ありませんね。さあ、一体だ「敦賀蓮」………………は?」
「だから、お・ま・え」(にや)

……監督。俺も初耳ですが。
いや、蓮に映画の話が来てたのは知ってるし、その調整もしてたけど。松島主任からは「○△監督」だって聞いてましたが……?

「その顔!その顔が見たかった!!宝田さんに頼んで違う情報を流してもらった甲斐があったな〜♪」

そこまでやりますか、あなた。
あ〜あ……蓮も最初は目を見開いてたけど、キョーコちゃんと一緒に仕事できることが嬉しいみたいだな。怒ることも忘れて微笑んでるよ。


「……ぜー…はー……っ監督!もう行きましょ!!」
「お、もう決着はついたのか?」
「いいから!!」(ぐいっ)
「はいはい。んじゃ、また仕事でな〜」(ひらひら)


……最後まで飄々としてましたね、新開監督。さすが、蓮もが認める腹黒です。













-△-