この作品はPrisonerのパラレルです。しかも幻想的な雰囲気を「これでもか!!」というくらいブチ壊しています。
それでもいいという方は、どうぞお進みください。



















Who is it that was caught? 前編





ここは数多の魔物が住む、力が全てを支配する秩序なき世界――魔界。
この世界を統治する者は「魔王」と呼ばれ、その座に着けるのは魔界で最強の悪魔。そして、魔王に次ぐ力を持つ者を次世代の魔王とし、「王子」と呼ぶ。
よって、魔王と王子は「狙う者と狙われる者」であり、互いに命を取り合うことが通例である。

しかし、中には嫌々魔王となった悪魔も存在し、王子にその座を譲り渡したいと思う者もいた。
そして今「魔王」と呼ばれる悪魔も、その一人であった。

「――ということです」
「…………つまり、フラっといなくなったあのバカは選りに選って天使に恋をした挙句その反動で死にかけている、と?」
歯に衣着せぬ物言いをすればそうなるな」
「まったく…『いつかその地位からお前を引き摺り落としてやる!!覚悟しやがれ!!』とほざいていたくせに、何やってるんだか……」
「どうなさるんです?」
「……二人に訊きたいんだが、あのバカの居場所は掴んでいるのか?」
「「バッチリ」」
「そうか……不愉快な上に物凄く嫌だが、あれでも一応後継者だ。連れ戻しに行こう」







天使と悪魔、そのどちらの種も足を踏み入れることができる地にて、一人の悪魔と一人の天使が睨み合っていた。

「さっさと魔界に帰りなさいよ!!」
「お前に指図されるいわれはねーー!!」
「あるわ!あんたのせいで私の親友が死にそうなのよ!?」
「そりゃ俺だって同じだ!!」
「あんたが死のうが生きようが果てしなくどうでもいいわ!私にとって問題なのはミモリの命よ!!」
「ンだとっ!?」

――訂正。怒鳴り合っていた。

「大体悪魔のあんたが天使のミモリのどこを好きになったのよ!?確かにミモリは可愛いけど、あんたが命を犠牲にしてまで想う理由は!?」

ここで悪魔――ショーが「理由なんてない。ただ、愛しいだけだ」とでも答えたならば、天使――キョーコも少しは彼を認めたかもしれない。
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。

「胸だっ!!」
「帰れぇぇぇぇぇぇっ!!(怒)」

どうやらショーは命よりもあの豊満な胸をとったようである。
ある意味、とても潔い。


「あんたに言っても埒が明かないわ!もういいっ、ミモリを説得するから!あんた、付いて来ないでよ!?来たらその場で絞める!!

そう言い捨てると、キョーコはミモリのいる花畑へと駆け出していった。





一人残されたショーが憮然と突っ立っていると、目の前に突如として三人の悪魔が現れた。
長い漆黒の髪を無造作になびかせ、髪に劣らぬ闇色の黒衣をその身に纏った凄まじく美麗な黒瞳の男。彼に付き従うように控える男女もまた、黒衣に身を包んでいる。男は一つに結んだ白髪を肩から流し、金色の瞳をショーと傍の男に交互に向け、女はダークグリーンの髪を綺麗に結い上げ、紫暗の瞳を細めていた。

そのどの顔もショーがよく知ったものである。だが、決して気の置ける仲ではない。
ショーは思いっきり嫌そうに顔を歪めた。

「……何しに来たんだ?魔王とその側近二人ともあろう奴らが、こんなトコにいていいのかよ?」
「お言葉だな。果てしなく不本意ながら迎えに来てやったというのに」

黒髪の男――レンは、心底腹立たしそうに答える。白髪の男――ヤシロは大きな溜息をついて左右に頭を振り、女――カナエは肩を竦めた。

「何だその言い草はっ!不本意なら来なきゃいいだろーが!!」
「だからお前はバカだと言うんだ」
「ンだとコラァァァァァッ!!」
救いようのないバカで単純で自信家で自己中心的で巨乳好きで女たらしで(以下延々と続く罵詈雑言)でも、一応王子なんだぞお前は」
「て、てめェ……っ(怒)」
「(スルー)そのお前に天使との恋なんかで死なれては困る」

途端、ショーは直前の言葉も忘れて満更でもない表情をする。レンに「救いようのないバカで単純」と言われても仕方ないだろう。

「ハッ!何だかんだ言って俺がいないとダメってことかよ。まあ、俺って強い上にこの美しさだし?気品も溢れて「次を探すのが面倒だ。」オイっ!!

きっぱりはっきりと言い切られ、再びショーの額に青筋が張り付く。
レンは意に介さず言葉を続けた。

「いいか?俺はそろそろ引退したいんだ。力が強いってだけで魔王に祭り上げられ、どうでもいい理由で晩餐会に呼ばれた挙句権力に目の眩んだ女どもに囲まれ……いい加減ウンザリだ」
「何さり気に自慢してんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「――どこをどう取ったらそう聞こえる」
「全部だ全部!!」
「……王子。王は女性に興味ないんだからさ、自分の基準を押し付けるのはどうかと思うよ」
「そもそも本当のことなんだから、そう目くじら立てるのはお門違いでしょ」
「うっせーーーーー!!………………ん?」

横槍を入れてくる二人に怒鳴った後、ショーはあることに気づいてニヤリと笑う。そして、勝ち誇った表情でレンを(不本意ながら)見上げた。

「そうか…そうだったな。アンタ、誰かを愛したことなんてねーんだよな」
「それがどうした」
「なら、俺の方がアンタより上だ。『愛すること』を知ったからな」
「……愛だと?そんなもの、まやかしに過ぎない」
「哀しいこと言ってんなぁ?『魔王』様には心がないってか?」
「……そうかもな。だが、そんなことはお前に関係ない。不必要な感情で死を招く暇があるなら、少しでも早く俺を超える努力をしてくれ」
「っ!!どうしててめェは俺の神経を逆撫でることしか言わねーんだ!!」
「事実を言ってるまでだ」





「…………いつまで続くのかなぁ、このくだらない会話……」
「さぁ…?どうせいつものように『今に見てろ!俺がお前をその座から引き摺り落としてやるぜ!!』って王子が啖呵切って終わりでしょ?できもしないのに
「そうだよな〜。それにしてもレンの奴、ここに来た最初の目的忘れてないか…?」

どう見ても連れ戻しに来たような雰囲気ではない。そのことに、ヤシロは深〜〜い溜息をつくのだった……













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