再会





――私はねっ本当にこんな映画の仕事なんかやりたくなかったのよ!日焼けしたら最悪だし現場は山奥だし!でも、「芸能界で一番いい男」って支持されてるあの敦賀蓮から共演を望まれたのよ!?だからこの仕事も引き受けたのに……なんなのよあの飛鳥って女はーーーーーっ!!

しかも何!?スタッフの人達み〜んなあの人の味方じゃない!!
「飛鳥さんにすっごくイジワルなこと言われたわ!あの人、陰でアイドルとかイジメてるんですよ、きっと!!」って言っても「彼女は仕事に関してだけは厳しいから」って庇うのよ!?最っ悪!!

……もういいわ!こうなったらとことん無視してやるわよっ!!あんな思わず土下座したくなるような禍々しい空気なんて怖くな…………いことないけどっ!私には「切り札」があるんだから!!










瑠璃子が碧の毒の洗礼を何とか克服していた頃、毒を吐いた本人は晴れやかな笑顔を振り撒いていた。

「あ、新開さん見〜っけ♪」
「ん〜?随分とスッキリした表情してるなぁ」
「ええ、6割方吐き出しましたからねv ちゃ〜んと約束は守りましたよ?」
「ははっ、悪いね…タダでさえ予定より遅れてるから、これ以上延期になるとヤバいんだ」
「わかってますよ。私も毒吐くために来たわけじゃないですし。
それより蓮君への連絡は終わったんですか?確か、近くの川に釣りに行ってますよね?」
「そうだなぁ……おーい、誰か蓮に戻って来るように連絡してくれないかー?」
「あ、蓮ならちょっと前に俺が連絡しましたよ。今、こっちへ戻って来ているところです」

周りのスタッフに声をかけていると、ちょうど二人の近くまで来ていた社がもう連絡済みであることを伝えた。

礼を言う新開の隣で、碧は怪訝そうに社を見ている。それに気付いた社は、なぜそんな表情で見られているのかわからないでいた。

「あの…何か……?」
「…………社さんが、連絡したんですか…?携帯で……?」
「そうですけど」
「…………そんなバカなっ!?
「どういう意味ですかっ!」

戦慄して否定する碧に、社は思わずツッコミを入れる。しかし、碧も負けずに言い返した。

「だってっ!つい昨日のことですよ!?貴方が私のパソちゃんクラッシュさせたの!」
「そ、それは…」
「あのコの中には大事なデータがたくさんあったのに!全部バックアップしてたけど!!
「……申し訳ございません。」
「いや別にそれはどうでもいいんですけどね。「いいの!?」うん。だってデータ残ってますし。私、社さん(ほのぼのしてて)好きですし」
「えっ///」
まあそれもどうでもいいです。「…………(涙)」ちょっと触っただけでノーパソ壊せる貴方が、どうやって携帯を壊さずに連絡できたんですか?」

上げて落とされた社は心の中で涙したが、それは表に出さず碧の疑問に答えようとしたとき――


「………………!!」
「………!?………………!!」


「――ん?何だかあっちが騒がしいな」
「そうですね…何か言い争ってるような……?」
「あれ?片方、蓮の声じゃ……」


建物のセットの向こう側から聞こえてくる喧騒に、三人は各々の感想を零したのだった。










「だから!!私、大丈夫ですからおろして下さい!!私一人で歩きますー!!」
「何が大丈夫だ。ガサガサコソコソ亀みたいにしか動けないくせに。
だいたい君は、人の親切にケチをつけるのが趣味なのか!?礼を言われても怒鳴られるスジ合いはないと思うけどねっ」

ようやく現場へたどり着いた蓮とキョーコは、周りの目などお構いなしに言い争っていた。


キョーコはお姫様抱っこされていることに気恥ずかしさがあり、しかもその相手がいつも自分に意地悪な蓮ということで、どうしても大人しくすることができない。
一方、蓮は怪我人を見捨てるようなことはできないし、痛めている足に負担をかけさせないためにはお姫様抱っこしかない。だというのに、キョーコは暴れるばかり。


ほとほと呆れる蓮と必死にもがくキョーコのバトルは、二人が出逢った場所から尽きることなく続いていた。

「あなたの親切は素直に喜べないんですぅ!!あなたの親切の裏には絶対、何かおとし穴があるんだからーーー!!」
「……あのねェ…俺だってケガしてる女の子にイヤガラセする程、鬼畜じゃないよ」
「(それはケガしてなかったら嫌がらせするってこと!?それとも男ならケガしてても嫌がらせするってことなのっ!?)
とにかく私、あなたのお世話にはなりたくないんですーー!!」







「とにかく私、あなたのお世話にはなりたくないんですーー!!」


「――っ!?(…………この声…まさか……)」
「?どうした、碧ちゃん」
「えっ?い、いえ、何でも…(まさか、ね……あの子がこんな所にいるわけないし……)」
「それなら別にいいんだけど」
「あ、蓮が戻って来たようですね……あれ?…………蓮が、女の子連れてる……?」
「お。ホントだ」

聞こえてきた声に動揺する碧を余所に、社と新開は戻って来た蓮と彼が抱きかかえている少女に関心を向けた。
蓮は少女をセットの縁側におろし、何か一言言ってからこちらの方へ向かって来ている。

「どうしたんだろ?」
「魚じゃなくて女の子を釣ってきたか?」
「……監督っ!!」
「はは、冗談だよ、冗談v」


「――社さん」
「お帰り、蓮」
「今帰りました。それより、悪いんですけど彼女の様子を見てくれませんか?足にケガしてるんです」
「えっ!?」
「変色の具合と痛がりようからすると、たぶん骨にヒビが入ってると思うんですよ。頼めますか?」
「わかった。とりあえず包帯を取ってくるよ」
「お願いします」

蓮が少女のことを社に頼んでいる間、碧は微動だにせずにいた。――いや、できなかったのだ。

(…………似ている……髪の色と雰囲気が少し変わってるけど……
――でも、何でここに……?やっぱり、違う子……?)

困惑する碧の隣で、新開は少女を指差して素性を尋ねている。

「蓮。あの子、一体誰だ?それにどこから連れてきたんだ?」
「あの子はうちの社長が趣味で作った部門に配属されている子ですよ」
「……ああ、例の……確かラブミー部、だったか?」
「ええ」
「なるほどねェ……あれが噂のユニフォームか。うん、確かに印象深い
「…………それはそうでしょうね」

変なところで感心している新開に、蓮は呆れながら言葉を続ける。

「で、『どこから』っていう質問ですけど、ここへ戻ってくる道中で行き倒れていたんですよ。どうやら彼女――松内瑠璃子の依頼を受けているようです。何故かは知りませんが、その途中でケガをしたようですね」
「ふぅ〜ん。ま、彼女のことは社君に任せよう。お前は準備しに行け」
「……わかりました。それじゃ…」
「――ちょっと待って」

衣装に着がえに行こうとした蓮を呼び止めたのは、一度も言葉を発さなかった碧。
蓮は眉をひそめ、振り返った。そこには、顔を俯けて佇む碧の姿が――

「……何か?」
「蓮君……あの子の名前、わかる……?」
「え……?」
「知ってるの?知らないの?……どっちっ!?」
「……知ってますよ」

イラついたように語気を強める彼女に、蓮は戸惑いながらも正直に答える。その瞬間、碧は弾かれたように顔を上げた。その瞳が、早く話せと雄弁に物語っている。


そして、蓮は少女の名を告げたのだった……





「彼女の名前は――『最上キョーコ』ですよ」











や〜っと再会しました!でもキョーコちゃんは気付いてません、まだ!!(爆)

かなりオリジナルが入ってきましたねv ←初めからオリジナルだろ
これからコミックスと多少違うところが出てきたり裏話的なものが入ったりしますが、大筋は原作通りです。ご覧くださる方が飽きないように頑張っていきます!

次回は「飛鳥碧」から「明日香」に戻りますよv



-△-