悦びと怒り





ずっとずっと逢いたかった……誰よりも大切な私の姪……
『私』を必要としてくれた、初めての家族……











蓮におろされた後、キョーコはどこからか感じた『憎悪』の念の出所を必死に探していた。しかし、すぐにキョーコの意識は蓮と一緒にいる女性へと向かう。

(綺麗な人ねぇ。敦賀さんの隣に居ても全然遜色がないなんて……見たことないけど、女優の人かな?
それにしても、何でさっきから私を見てるの?あの人。このツナギのせいってわけじゃないみたいだし……)


先程から自分に向けられる女性の視線。
ラブミーユニフォームを着ているときはいつも怪訝な視線や嘲笑を向けられているが、彼女はそれらとは違う気がする。彼女の眼は奇異なものを見るソレではない。純粋に驚いている――そんな感じだ。
だが、彼女とは面識がないはず。
京都を出てきてから今まで、キョーコは毎日バイトに明け暮れ、知り合いなど作る暇はなかった。第一、あれだけ整った容姿の人物なら一度会えば忘れるはずがない。

悶々と考えていたキョーコだが、目の前にふっと影が差したことに気づき、頭を上げた。するとそこには、いつの間にかこちらまで来ていた美人な女性が立っていた。しかも、かなり緊張した表情で。

「あのぉ、何か?」
「……………キョー…ちゃん……?」
「……へ?」

いきなり名を呼ばれ、キョーコは意味のない返事しか返せなかった。しかし、それも仕方のないことである。見知らぬ人から親しげに声をかけられて、呆気に取られない人間がいるだろうか。
キョーコの態度から怪訝に思われていることに気づいたのか、彼女は次いで言葉を紡いだ。

「ああ、ゴメンね?八年も経てばわからないわよね、貴女は小さかったし」
「八年……?小さかった……?」
「私、明日香よ。憶えてない?貴女の叔母な」
あ゛ーーーーーーーっ!!
明日香ちゃん!?あの!?」
「……どういう意味の『あの』かはわからないけど、たぶんその明日香よ……
てことは、やっぱりキョーちゃんなのね?」
「えっ…あ、うんっ!!久しぶりね!明日香ちゃん!!でも、どうし」

ぐわぁしっ

「キョォォォォォちゃぁぁぁんっvv 逢いたかったわっ!
クソババァじゃなくて姉さんとの約束なんて地中深くへ埋め込んでやろうかと何度思ったことか!!」

「いたたたたたたたっ!!折れるっ!背骨が折れるってば明日香ちゃんっ!!」

女性の腕力とはとてもじゃないが思えない力で抱きしめられ、キョーコはかなり本気で助けを求めた。その声で碧――いや、明日香は冷静さを取り戻し、慌てて体を離す。

「大丈夫!?ごめんなさい!嬉しすぎてつい…」
「だ、大丈夫……(骨がキシキシいってたような気がするけど)
それより、どうして明日香ちゃんがここにいるの?」
「ん?私がこの映画の脚本書いたから」
「へぇ、そうなんだ………………え゛?」
「以前は脚本ができ上げれば脚本家の仕事は終わりだったんだけど、それがどう育っていくのか見守りたいって脚本家が増えてて。そういう脚本家たちの希望に応えて、脚本家も映画制作の過程やマーケティングに参加できるようになってるのよ」
「いや、それは別にどうでもいいんだけど…」
「え?何で脚本家が現場に居るのか、じゃないの……?」
「元々現場のことはよく知らないし。……明日香ちゃん、脚本家なの?」
「――ああ、そういえば言ってなかったわね……私の職業」








それからキョーコは、明日香が小説家としてデビューしたこと、1年ほど前から脚本も書いていることなど、簡単な説明を受けた。高校時代のことや京都を出て行った理由については、尋ねても上手くかわされてしまったが……

一通り聞いた後、キョーコは感嘆の声をあげた。

「すっご〜い!昔から頭良かったけど、そんな才能があったなんて知らなかったぁ!」
「ん〜…自分に才能があるとは思わないけどね。ちょっとしたきっかけよ、きっかけ。でも、キョーちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわねv」

キョーコに評価されたことが余程嬉しいのか、明日香は微笑みを浮かべた。
――もしスタッフが残っていたら、間違いなく驚かれていただろう。普段から笑顔の明日香だが、こんな優しい微笑みは滅多にお目にかかれないのだから。
しかし現在、明日香以外は各々の仕事に取り掛かっている。明日香は暇な時間に新開と打ち合わせを済ませていたので、役者が着がえて揃うまでは自由時間をもらった。(というか、もぎ取った)

だが、明日香の希少価値の微笑みもキョーコには見慣れたもの。彼女は懐かしそうに笑っていた。

「変わらないなぁ、明日香ちゃん……あ、でも外見は変わりすぎじゃない?名前聞くまで全然わからなかったんだけど」
「……そう?そんなに変わった?」
「絶対変わった!美人なのは前からだけど、京都にいた頃は優等生を絵に描いたような姿だったもの!」
「…そういえばそうだったかも……(煩かったからねぇ、あのヒト…)
けど、それを言うならキョーちゃんも随分変わったわよね。いつから髪染めたの?黒髪、綺麗だったのに…」

突然話題が自分のことになり、キョーコはかなり焦った。昔からショータローを嫌っていた彼女のこと。本当のことを言えば、「ほら!私が言ったとおりだったでしょ!?」と、怒るかもしれない。普段は底抜けに優しい明日香だが、怒ると思い出すだけでも背筋が凍りつきそうなほど怖い。
自分が本気で怒られたことはないが、その様子を見たことがあるだけに遠慮願いたい。そこで、キョーコは誤魔化すことに決めた。

「そ、それは……そう!おしゃれをしようと思って!!」
「そうなの?ま、どっちもよく似合ってるからいいけどv」
「あ、ありがとう!(よし!誤魔化せた!!)」
ところで、どうしてキョーちゃんはここに?しかも怪我して。偶然、なんて言わせないわよ?蓮君も貴女のこと、よぉぉく知っていたみたいだしね?」(にこv)
「…………(う゛あ゛〜〜〜〜〜っ!!誤魔化せてない…ここは黙秘で通)」
「黙秘権、あると思わないでねv」(にこりv)
「な、何故それを……っ!?」
「(何故って……キョーちゃん、表情に出すぎ……)
それより、どうして?私としてはあのヴァカに愛想尽きてこっちへ出て来た、っていう話を聞きたいところだけど。誤魔化そうとした時点で違うみたいだし?……さぁ、洗いざらい話してもらおうかしら?」(に〜っこりv)
「……………………はい。」




――結局、キョーコは正直に話すことになった……










「……………………」
「……………………」

(ち、沈黙が痛い……)

ショータローに誘われて東京へ出てきたこと、その時は明日香との約束を忘れてしまっていたこと、ショータローに捨てられたこと、復讐のために芸能界へ入ったこと、「愛」を失くしてしまったこと、それを取り戻すためにラブミー部に所属していること――全てを正直に話した。(ケガについては「転んだ」としか言わなかったが)
明日香は話している途中から俯いてしまっていて、今どのような表情をしているのかわからない。が、間違いなく怒りモードだ。その証拠に、周りの気温が真冬のように寒い。

「あ、あのぉ…明日香ちゃん……?」
…………フフフ……どうやら死にたいようね…あのガキャア……

恐る恐る掛けた声には答えず、明日香はボソリと呟いた。瞬間、キョーコは石像と化す。


「キョーちゃんが忘れてたのは、あの年頃なら仕方ないこと……それはいいのよ、それは。
けど……松(マツ)だけはねぇ……(怒) きっちり教育してやらんといかんみたいねぇ……あの世とご対面できるくらいには
「あ、明日香ちゃ」
いっそのこと沈めるか?いえ…それだと環境汚染になるわね……となると……」
「…………(涙)」
「ここはオーソドックスにボコるか……」

(明日香ちゃん……無表情なだけに怖い……)

次々と呟かれる「松太郎・抹殺案」に恐怖するキョーコ。
ショータローがどうなろうと一向に構わないのだが、できれば見たくない。まず間違いなく地獄絵図と化すだろう……



どうしたものかと考えあぐねていると、キョーコにとっては神にも勝る救いの声が聞こえた。


「――居た!飛鳥さん!」
……骨の2、3本は……あ、社さん?」
「(骨の2、3本……?彼女のケガ、そんなに酷いのかな?)監督が呼んでましたよ。準備ができたそうです」
「(……ちっ!欲しいときほど時間はないものよね)わかりました。彼女のこと、お願いします」
「ええ、引き受けました」
「それじゃあ二人とも、また後でね」





彼女はまだ固まったままのキョーコを社に任せ、撮影現場へと向かった。『明日香』ではなく『飛鳥碧』となって……










ビミョ〜ですね、何かまとまりがない。一気に色んな話をしたいんですけど、ストーリー上無理です(涙)
ていうか、2ページしか進んでないのはどうなんでしょうか……?次はもう少し進むと思いますが……



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