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<灰かぶり姫> ペローの童話で、『シンデレラ』『サンドリヨン』ともいう。 継母とその連れ子である姉達に日々苛められ、王室主催の舞踏会にも一人連れて行ってもらえなかったシンデレラは、魔法使いによって衣装を与えられ、カボチャの馬車に乗って舞踏会に出る。そこで王子に見初められるが、魔法の効力は深夜12時までであり、ガラスの靴を残して逃げ去った。王子はガラスの靴を手がかりにシンデレラを捜し当て、シンデレラは妃として迎えられることになる。 グリム童話は『アッシェンプッテル』とも言われ、魔法使いは登場せず(当然、カボチャの馬車も登場しない)衣装は母親の墓のそばに生えたハシバミの木にくる白い小鳥から与えられ、靴もガラスではなく金である。 シンデレラの本名は『エラ』で、『灰(Cinder)まみれのエラ(Ella)』が名前の由来。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
坊かぶり姫 前編 ある国の城下町に、キョーコという16歳の少女がいました。 彼女は幼い頃に母を亡くし、数年前までは父と2人で暮らしていたのですが、父が再婚してからは継母と2人の義姉ができました。 父が存命の頃はそれなりに仲良く暮らしていた少女達でしたが、昨年彼が病で亡くなってからというもの、4人の生活は一変してしまったのです。 「坊っ、早く洗濯物干しなさいよ!折角いい天気なんだから!!」 「はあ!?瑠璃子ちゃんがやればいいでしょ!大体今は『坊』じゃないわよ!」 「あんたなんか『坊』で十分だわ!そんな事より、私に洗濯物を干させる気!?私の美白が崩れちゃったらどうするのよ!!」 「知るかーーーーっ!」 「ちょっと坊!私のために高級菓子を買ってきなさい!」 「絵・梨・花・さん!私はあなたの召使いじゃないのよ!?そんな事はあなたが連れてきたお付きの3人に頼みなさい!それに私は『キョーコ』よ!!『坊』は着ぐるみの名前でしょーーーっ」 「どう呼ぶかは私の勝手でしょう?それにあなたみたいな庶民に命令される筋合いはないわ」 「そのセリフ、そっくりそのまま返すっっ!」 「坊!私の可愛い娘達の言う事がきけないの!?」 「そんな義務はないし名前が違う!っていうか寛子さん!義理とはいえ私もあなたの娘でしょうが!!」 「口の利き方に気をつけなさい!誰のおかげで生活できてると思ってるの!?」 「自分の力でよっ!!」 このように、少女は継母および義姉達と犬猿の仲になっています。 ――といっても、遺産を全て奪われ、衣食代を稼ぐために朝から晩まで『坊』と呼ばれる鶏の着ぐるみのバイトをするハメになったことを考えると、少女は大変寛大な心の持ち主といえるでしょう。更に、家事能力というものをどこかに忘れてきてしまった3人のために、通常の8割の賃金で家政婦代わりを務める彼女には涙を誘われますね。 しかし、この生活にも突然終わりがやってきました。 ある日、王室主催の舞踏会が三日後に開かれるというお触れが出ました。 身分は関係なく参加できることはいつも通りでしたが、今回は一味違います。なんでも、御年20歳の王子が初めて舞踏会に参加するらしいのです。 眉目秀麗・文武両道・公明正大な人物と評判の王子ですが、今まで一度もこのようなイベントには姿を見せたことがありません。 そのため、国中の女性はウザイくらいに大はしゃぎ――もとい、喜んでいます。 そして、義姉達(ついでに継母)は王子の大ファンでした。 「これはチャンスだわ!自慢の美白で蓮王子を虜にしてみせる!!」 「王子を手に入れるのはこの私よ!あなたは引っこんでなさい!それとも私の美貌に敵うとでも思っているのかしら!?」 「なんですってーーーっ(怒)」 「ふんっ」 「そこの2人!いがみ合ってる暇があるならエステに行くわよ!ああ、ドレスも新調しないと!」 「待ってお母様。」 「私とお姉様はともかく、どうしてお母様まで?」 「べ、別にいいでしょ!?私にだって権利はあるわよ!」 「「それは図々しい」」 「お黙りなさい!!(怒)」 普通なら王族に対してこのような想いを抱くことは許されませんが、この国は一味も二味も違います。 この国の王――ローリィ宝田王は愛をモットーにしているため、そこに愛さえあれば身分なんて本気でどうでもいいらしく、蓮王子の妃は彼が選んだ女性なら誰でもなることができるのです。 自意識過剰という言葉が辞書にない3人は、かつてないくらい気合を入れて出かけました。 一方、少女は王子には全く興味がありません。 彼女の心を惹きつけて已まないのは、幼い頃から憧れ続けている「お姫様のドレス」。ドレスが似合う年頃になったら絶対に着よう、と幼心に誓ったものです。 ですが、今の少女にはドレスを買うだけの余裕はありません。また、少女を目の敵にしているあの家族が買ってくれるはずもなく…… 一瞬だけ哀しそうな表情を浮かべ、彼女は着ぐるみのバイトへと向かいました。 そんなこんなで舞踏会当日。 普段からエステ通いしている人間がたかが三日間でどう変わるわけでもないのですが、本人達には特殊フィルターがかかっている様子。等身大の鏡の前、着飾った自分にうっとりです。 また、他の2人は引き立て役だと本気で思っていました。 そんな彼女達を、少女は羨望と呆れの眼差しで見つめます。 (いいなぁ……私もお姫様になりたい………………いいなぁ…………) 「っ!?いやーーーーーーーっ!!」 「なんなの一体!?何が巻き付いてるのよ!?」 「あ、あなた達…どうしたの?いきなり取り乱したりして…」 「声まで聞こえるぅ〜〜〜〜〜っ(涙)」 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ(涙)」 「だから何!?何が起こってるの!?」 ナニかに襲われている義姉達の恐怖と、幸か不幸かただ一人標的から外された継母の混乱は、馬車が迎えに来るまで続きました。 そのときの御者曰く、 「舞踏会に行く前からあんなに憔悴していた人達は初めてだったよ…」 だそうです。 継母と義姉達が出かけた後、少女はトボトボと自室へ向かいました。 今日はバイト先の女主人も舞踏会に行くため、やることがないのです。 しばらくはベッドの上で3人の嫌いな食べ物リストを手に明日からの献立を考えていた少女ですか、ふと窓から王城を見上げ、哀しげに瞳を細めました。 「――…一度でいいから、綺麗なドレスを着て舞踏会に……………なんて思うだけ無駄か……」 そっと瞳を閉じたそのとき―― 『もーーーーーーっ!!見ててイライラするのよあんたはっ(怒)』 「へ?」 ボフンッ!!! 「あんたねェ!日々の生活は呆れるくらい前向きなのに、どうして自分の事には後ろ向きなのよ!?もーーーーーーっ」 「……………………不法侵入者?」 「違うわよっ(怒) 失礼な事言わないでよね!もーーーーーっ」 状況的には間違いなく不法侵入なのですが、突然特殊効果(=煙)付きで部屋の中に現れた黒髪美人はキッパリとそれを否定しました。 ここまで気持ち良く切り捨てられると、途端にそう思えてくるのですから世の中不思議ですよね。 少女は「モーモーよく言う娘さんねェ…」と思いながら、とりあえずいくつか質問することにしました。 「あのー…あなた今、いきなり現れませんでした?」 「っ!……………ま、魔法使いだから……」 (いきなり小声になったわね……って、魔法使い!?本当にいたんだ〜〜〜〜vv ――…じゃなくて!) 「えーと…その魔法使いさんが、どうして私を怒鳴りつけるんでしょうか?」 「さっきも言ったでしょ!見ててイライラしたからよ!!あの家族に財産を横取りされたせいでニワトリにまでなって!」 「いやニワトリにはなってませんけど。」 「(スルー)なのに安く家事をしてあげたりやりたい事を我慢したり!あんたバカじゃないの!?もーーーーーーーっ!」 (バ、バカって…初対面の人間に言う言葉じゃ……………ん?) 「ちょ、ちょっと待って!どうしてそんなに詳しく知ってるのよ!?――――ま、まさか…ストー」 「んなわけあるかっ(怒) よぉぉぉぉく聴きなさい!私達魔法使いには『魔法使いの心得・第210条、純粋で優しい心の持ち主の願い事を一つ叶えよう☆』っていう傍迷惑なものがあるのよ!それで私があんたの担当になって資料を貰っただけ!!」 魔法使いは不名誉な称号を与えられる前に事情を説明しました。 一瞬の沈黙後―― 「えーーーーーっ!?本当!?本当に願い事叶えてくれるの!?」 「だからそう言ってるでしょ!」 「っ……モー子さ〜〜〜〜んvv」(がしぃっ) 「ちょっ…何なのあんた!離れなさいよ!!それに『モー子』って何!?私には『奏江』っていうちゃんとした名前が――」 「ありがとーーーーvv モー子さん大好きvvv」 「……………………もう好きにして………」 2人に友情が芽生えた瞬間です。(「芽生えてないっ!」 by魔法使い) 「とにかく!あんたの願いを叶えてあげるから、まずはこれに着替えなさい!」 どこからともなく取り出したドレスを突きつけてきた魔法使いに、少女は不思議そうに首を傾げました。 「なんで手渡し…?」 「うるさいわねっ//// いいからさっさとしなさい!」 「は、はぁい…」 また何かを取り出してゴソゴソしている魔法使いに背を向け、少女は慌ただしく着替え始めました。 この魔法使いの行動は「いかにも魔法使いらしい事をするのは恥ずかしい」というあってないも同然の理由からで、登場したときのように頭に血が上っていない限りは地味〜〜に魔法を使います。(ちなみに今はヘアセットとメイクの準備です) 「――よし。これだけあれば十分ね。そっちは準備でき…………何泣いてんの?」 「だって……スゴク嬉しいんだものっ!」 魔法使いが用意してくれたドレスは、少女が長年夢見ていたお姫様ドレスだったのです。 ピンクからイエローのグラデーションが鮮やかな、シルク100%のインポートドレス。 ドレス全体をスパンコールで飾り、ウエスト部分はシースルーになっています。 また、ホルターネックが少女の細い首を際立たせていました。 少女は自分がいかに感動しているのか、文字通り涙ながらに訴えました。 予想以上に喜ばれた魔法使いは、ほんのり頬を染めています。 「あのねェ…それくらいで感動してどうするのよ?まだ髪とメイクが残ってるのに」 「メイクっ!?」 少女はもう天にも昇る心地です。 ドレスだけでも信じられない出来事なのに、ずっと憧れていたメイクまでできるとは思ってもいませんでした。 「あ…でも、メイクなんてやった事ないからどうすればいいのか……」 「任せなさい。ヘアセットとメイクの腕には自信があるわ」 「本当!?じゃあ、お願いしまーーすvv」 「うわぁ…モー子さんすご〜〜〜いvv こんなに変わるなんて思わなかった〜〜」 「それはこっちのセリフよ…」 魔法使いによってメイクを施された少女は別人のように美しくなりました。元々の造形に加え、化粧映えするタイプだったようです。 その出来栄えに大満足している少女に、魔法使いは苦笑しながら最後の贈り物を取り出しました。 「――…綺麗……」 「そのガラスの靴はあんたの足の形になるように魔法をかけてるから…………世界であんただけが足を通せる――あんただけの靴よ――…」 「モー子さん…」 少女は必死で涙をこらえました。こんなに親身にしてもらえたのは本当に久しぶりだったのです。しかし、折角してもらったメイクを崩すわけにはいきません。 何とかお礼を言おうとする少女に、魔法使いは照れくさそうに顔を背けました。 「そろそろ出るわよ。……随分待たせてるし」 「は?待たせ…??」 「……城に行くんでしょ?さすがに馬車は操れないから知り合いに頼んだのよ」 「ウソ!?馬車まで用意してくれたの!?っていうかあれからもう一時間近く経ってるわよ!?」 泣きそうだったことも忘れて外に出ると、確かに一台の馬車が待っていました。 その御者台では眼鏡をかけた男性が本を読んでいましたが、2人に気づくと優しい笑顔を浮かべました。 「出発?」 「ええ…待たせてごめんなさい」 「いや、魔法書読んでたから気にしなくていいよ。 それにしても……綺麗になったねー。見間違えたよ、うん」 「えっ?あ、あの…どこかでお会いした事ありました…?」 「あ、ごめんごめん。俺は資料とかで知ってるけど、キョーコちゃんはそうじゃないもんね。初めまして、社倖一です。本業は魔法使いだけど、今日は御者として協力させてもらうね。よろしく」 「い、いえ!こちらこそよろしくお願いします!」 魔法使い2改め御者の丁寧な挨拶に、少女も深く頭を下げて返しました。もう1人のときとはえらい違いですね。 御者から後ろに乗るように言われた少女は、おずおずとそれに従いました。 「じゃあ行ってくるね」 「倖一さん、頼んだわよ。道中、くれぐれも変な電波は飛ばさないように。」 「はは、大丈夫だよ。飛んでも馬車は壊れないからね♪」 「……それもそうね」 「????」 意味不明な2人の会話に、少女は首を傾げつつ見守るしかできませんでした。 実はこの御者、魔法でも対処できない程の機械クラッシャーであり、つい最近機械が組みこまれている乗り物をスクラップにしてしまったばかりだったのです。 とりあえず危惧は解消され、魔法使いは憂いなく見送ることができます。 「楽しんできなさいね…………キョー…コ……////」 「っ……うん!行ってきます!」 魔法使いに初めて名前を呼ばれた少女は、満面の笑顔を彼女に向けました。 魔法使いも、照れ交じりの微笑みを浮かべます。 そんな彼女達を微笑ましく見守っていた御者は、頃合を見計らって馬を走らせました。 少女が夢の舞台に立つまで――あと少し。 |