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<赤ずきんちゃん>

ペローの童話では、赤ずきんと呼ばれる少女が母親の使いで祖母のもとへ行き、食い殺した祖母になりすましていた狼に食べられてしまう。
グリム童話では、猟師が狼を退治して二人を助ける挿話が加わる。

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ピンクツナギちゃん 前編





ある所に、ピンクツナギを着た可愛らしい女の子がいました。
彼女の名は最上キョーコ。どうしてピンクツナギを着ているかというと、キョーコのことを「お姉様v」と呼んで慕ってくれる、お人形のように愛らしい少女・マリアが作ってくれた――わけではありません。
正確には、マリアの祖父・ローリィ宝田がキョーコを一目見て気に入り、

「君こそ俺の求めていた『愛の使者』だ!俺の野生のカンがそう告げている!!そして俺のカンには決して外れん!!てことで、君には今日からこの『ラブミーユニフォーム』を着てもらうぞ

というヘリクツを超えた独断によって、キョーコ本人の意思とは関係なくピンクツナギを着用することになってしまったのです。
拒否しようにも、ローリィから放たれる有無を言わせない迫力と、マリアの「是非着てちょうだいお姉様!(これで不埒な輩からお姉さまを守れるものv)」という言葉には敵いません。







ある日のこと、親友の奏江(通称モー子)がキョーコを呼んで言いました。

「マリアちゃんが『最近、お姉様が会いに来てくださらないの……やっぱり、あのラブミーユニフォームを無理やり押し付けたことを怒ってらっしゃるのかしら……』って、沈んでたわよ?」
「ウソッ!?」
「嘘ついてどうすんのよ。『嫌われたかもしれないわ……』なんて言って、涙ぐんでいたわね」
「ど、どうしよう……」

キョーコは慌てました。
確かにマリアの言うとおり、最近会いに行けない原因はあのピンクツナギ。

アレを着て外に出ると、幼馴染にはバカにしたように笑われ(その場で怨キョ襲撃)、見知らぬ人には遠巻きに噂され(どうしようもないのでダッシュで逃走)、知人には同情の目で見られる(もしここで慰めの言葉でもかけられた日には、もう立ち直れない)始末――
そのため、彼女は外へ出かけることがイヤになっていたのです。

ですが、決してマリアを怒っているわけでも、ましてや嫌っているわけでもありません。
奏江もそのことはよく知っているので、マリアには誤解だと告げています。

「でも、あんた自身の言葉じゃないとあの子には意味が無いのよ。結局寝込んじゃったみたいだしね」
「ええっ!?ぐ、具合はどうなの?」
「大したことは無いらしいわ、ストレス性のものだもの。まぁ…あの年でストレス抱えて倒れるのはどうかと思うけどね。
――ほら。このお菓子とジュースを持ってお見舞いに行けば?」

そう言って押し付けたバスケットの中には、芳しい匂いを立たせているクッキーと果汁100%のジュース。どちらも明らかにお手製のものです。
それにしても、病人にお菓子とジュースってどうよ、と思わなくもないですね。


「ありがとうっモー子さんvv 洗濯物だけじゃなく、お料理も得意だったのね!しかも子供向けの!!
うるさいわねっ!
もー!さっさと行きなさいよ!あ、寄り道なんてしないでしょうね!?それと男に声をかけられても相手にしないことっ!」
「大丈夫よ、子供じゃないんだから。大体、私なんかに声をかける男の人なんていないわよ」
バタークリームに砂糖ブチ込んだくらい甘い!!
いいこと?男はみんな狼なのよっ!!どんなに紳士ぶってても優男ヅラしてても、所詮は男!最大限の警戒心を振り絞りなさい!!」
「そ、そこまで……でもそれって、『オオカミ』の意味が違うんじゃあ……?」
「わかったわね?」
「はいぃぃぃぃっ!最上キョーコ、細心の注意を払って行ってきますぅぅぅぅぅっ」

ドス黒いオーラを発動して念を押す奏江に怯え――もとい、キョーコの身を心配してくれている奏江に感謝し、キョーコはバスケットを引っ掴んでマリアのお見舞いへと出かけて行きました(逃走しました)。







マリアは森の奥で静養しています。
本当は祖父と二人暮らしなのですが、ローリィと一緒にいたら静養できません。そこで、一人森の奥にある別荘に身を寄せることになったのです。

キョーコは森の一本道をてくてく進みます。
今更ながら、自転車に乗って来ればよかったと後悔。そうすればものスゴイ勢いで突っ切ることができたものを……


そのキョーコの姿を木の陰からじっと見つめる人物がいました。
彼の名は敦賀蓮。スラっとした長身に甘いマスク、女性ならその微笑みで昇天すること間違いなしの、実にいい男です。

彼は、彼にお近づきになろうとして言い寄ってくる有象無象の女性達から逃れ、一人森の中で休んでいたところでした。しかし、神のお告げかはたまた悪魔の助力か、何かしらの予感が身体を駆け巡り、蓮はそっと木の陰から森の一本道を窺いました。

彼の目に飛び込んできたのは、ショッキングピンクのツナギを着込んだとっても可愛らしい少女の姿。
その瞬間、蓮の頭の中では天使がラッパを吹き鳴らししっぽの生えた生き物がニヤリと笑みを浮かべました。平たく言うと、彼は少女に一目惚れしたのです。
そうなると、彼の行動の早いこと早いこと。すぐさま木の陰から飛び出し、少女の目の前に登場しました。


一方、キョーコの方はビックリです。誰もいないと思って歩いていたら、見目麗しい男性がひょっこりと現れたのですから。
彼の美貌にキョーコは言葉もありません。何と、彼女もまた、彼に心を奪われてしまったのです。

「こんにちは、お嬢さん。俺は敦賀蓮って言うんだけど、お嬢さんの名は?」
「こ、こんにちは……最上キョーコです…」
「キョーコちゃんか……可愛い名前だね」(にっこり)
「あ、ありがとうございます///」

蓮はいきなりナンパをしでかしました。しかもキョーコまでそれに応じています。

こんな展開でいいのでしょうか?
答えは『NO』。たとえ管理人が許しても、あらすじの方が許してくれません。

「こんな森の中を女の子一人で歩いたりしたら、危ないよ?どこへ行くんだい?」
「え?この先の別荘で静養中の………………ああっ!?」
「ど、どうかした??」

突然大声を出したキョーコに驚き、蓮はどもりながら尋ねます。しかし彼女は何か思案中のようで、全く聞こえていません。
キョーコは、出かけ際に奏江から言われていたことを思い出したのです。

(どどどどどうしようっ!?モー子さんに『男に声をかけられても相手にしないように』って言われてたのについ答えちゃった!でもでも、この人のこと、すごく気になるんだものっ!かと言ってこのことがモー子さんにバレたら絶対に怒られるし……)

「キョーコちゃん?」
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ」
「……そんなに驚かなくても」
「いきなり耳元で話しかけられたら誰だって驚きますっ///」
そう?(確信犯)ところでどうしたの?突然大声出して」
「そ、そのぉ……友人から知らない男性と話をしたらダメだと言われていたのを思い出して……」
「へぇ……でも、俺は『知らない男』じゃないよね?」
「は?いやあの、今日と言うか今さっき出会ったばかりだと…」
「俺の名前は?」
「??敦賀蓮さん、ですよね?」
「その通り。ほら、『知らない男』じゃないだろう?」

(うわっ!ローリィさんに負けず劣らずのヘリクツ言ったわこの人!?)

思わず心の中でツッコミを入れてしまうキョーコ。
しかし、神々しい笑顔で自信満々に言い切られると、何故かそんな気になってしまいます。これぞ敦賀マジック。


それでもなお、キョーコは申し訳なさそうに言葉を紡ぎました。

「あの…ごめんなさい、敦賀さん。そのことを抜きにしても、今日は知り合いの女の子のお見舞いに行くところなんです。だから…」
「……そう。残念だけど、仕方ないな」
「本当にごめんなさい……」
「じゃあ、名前で呼んでくれる?」
「…………はい?」
「だから、俺のこと『蓮』って呼んで欲しいんだけど?俺も君のこと『キョーコ』って呼ばせてもらうしvv あ、もちろん敬語もナシね?
「……いまいち展開についていけないんですが。」
「敬語ナシ」
「……敦賀さん?」
「次に『敦賀さん』って呼んだり敬語使ったりしたら、その可愛い唇を塞ぐよ?
――ああ、俺としてはそっちの方が得かな?」


キョーコはその時、蓮の背中に黒い翼が生えるのを確かに見ました。そして、本能的に悟ったのです、「彼に逆らってはいけない」と。

「もう絶対に金輪際二度と敬語は使わないし、苗字も呼ばないわっ」
「……そう頑なに拒否されると、それはそれで不愉快だな」
「私にどうしろってのよっ!?」
「(『俺のものになって?』って言いたいところだけど、警戒されると困るしな……)
冗談だよ。キョーコの反応が可愛いから、ついvv」
「……何か納得いかないんだけど」
「それより、お見舞いに行くんじゃなかったのかい?もうお昼過ぎてるよ?」
「あ!そうだったわ!ていうかもうお昼!?早く行って帰らないと、モー子さんに『寄り道したわね!?』って怒られる!!」

さすが策士。キョーコの性格を利用した、見事な話の逸らし方です。

「なら、そっちの道を行けばいいよ。近道のはずだから」
「ありがとうっ蓮!今日は時間がないけど、今度はお話しましょうね!」
「くす……了解」

お礼を言ってから、蓮の指し示した道に向かって駆け去るキョーコ。
それにしてもキョーコちゃん?貴女が時間を食った原因にお礼を言うのは、何かと間違っていませんか?


一方の蓮は、彼女の去って行く姿を微笑みながら見送ります。その様子だけを見ると、本当にまたの機会を楽しみにしているようです。そう――様子だけを見ると。





「今度、ね……なら、そうさせてもらおうかなvv













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