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<人魚姫> アンゼルセンの童話。 深い海の底に人魚達が住む宮殿があった。王の6人の姫達は15歳になると海の上に浮かび出ることを許された。心優しい末娘がようやく海に浮かび出たとき、船に乗っていた人間の王子を一目見て好きになる。そして嵐で船が沈んでしまったとき、必死になって王子を助ける。しかし、気を失っていた王子はそれに気がつかなかった。 姫は魔女の力をかりて、美しい声と引き換えに人間の姿になることができ、王子の城に出かけていって侍女になる。ところが王子は彼女が命の恩人であることを知らないまま、隣の国の王女と結婚してしまう。 王子の愛を得られなかった姫は人魚にも戻ることができず、ついに海に身を投げ、その魂は空にのぼっていった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二人の人魚姫 前編 「お・姉・様v 16歳、おめでとうございますv」 「ありがとう、マリアちゃんv これで噂に聞く『そら』を見ることができるわっ」 そう、この日はキョーコの16歳の誕生日です。そしてここ――LME宮殿では、16歳を迎えた人魚だけが海上へと浮かび上がることを許されていました。 ……え?何故16歳かって?LME宮殿の最高権力者、つまり王であるローリィ宝田が「結婚できる年齢(トシ)だからなっ」という誰がどう考えても理由とするには無謀にも程がある理由で法律を決めてしまったからですよ? それはともかく、やっと16歳になったキョーコは他の人魚達から聞いていた「そら」に思いを馳せ、うっとりとしています。同じ「あお」でありながら海底とは全く違った色と聞き、自分の目で見てみたいとずっと思っていたのです。 16歳を迎えるまで、まだまだ年月のかかるマリアはお見送り。 「私もお姉様と一つ違いならお二人に待ってもらえたかもしれないけど、あと数年も待たせるわけにはいかないもの!だから、上のお話を楽しみにしてるわ!」 「――そうねぇ…あの王の孫娘でも、マリアちゃんのためなら二年くらい待ってあげられたんだけど……さすがに、ね」 「あっ、モー子さんv」 横からかけられた聞き慣れた声に振り向くと、長い黒髪を掻きあげながら佇む奏江がいました。 奏江はキョーコの親友です。そして、キョーコの「そら」への憧れを誰よりもよく知っていました。そこで彼女は昨年16歳を迎えていたにも拘らず、キョーコも海上に出られるようになるまで自分も海上に出ずに待っていたのです。まさに親友の鑑。 「誕生日おめでとう、キョーコ」 「ありがとぉ〜v」 「じゃあ、早速上に行ってみる?」 「うん!それじゃマリアちゃん、土産話を持って帰ってくるから、楽しみに待っててねv」 「お二人とも、お気をつけてねーーっ」 こうして、奏江とキョーコの二人の人魚は海上へと向かったのです。そして、これが二人の人生(というか人魚生?)の転機となったのでした。 一方その頃の海上では、曇天通り越して明らかに嵐が来るだろこれはっ!といった感じの天候の中、豪華客船がゆ〜らりゆらりと漂流――いえ、進んでいました。 その甲板では、スラっとした長身に見目麗しい男性が手すりに頬杖をつき、深〜い溜息をついています。 「どうしたんだ?蓮。浮かぬ表情してるじゃないか」 「ああ、社さん……そりゃ浮かぬ表情くらいしたくなりますよ。何ですかこのパーティは。まるでお見合いじゃないですか…」 「そうだな〜俺もそう思ったよ。やっぱりアレかな?俺達があまりにも結婚しないから、叔父上達が画策したのかな…」 「……あの父達がそんな理由で動くと思いますか?俺には楽しんでいるとしか思えませんが」 「…………そうだな」 今度は二人揃って盛大な溜息をついてます。 蓮は新開王国の王子であり、社は黒崎王国の王子です。 蓮が新開王の実子であるのに対し、社は黒崎王の甥という立場ですが、新開王国と黒崎王国が隣国であり、かつ王二人が腹黒とチンピラのため大変仲が良く、王子達も幼少の頃からお互いを励ましあって育ったためか無二の親友となっていたのです。 「あの二人のことです。どうせ『あいつら、浮ついた噂の一つもないのかねェ……からかい甲斐がないな〜』『だな。倖一もそうだが、あんたんトコの蓮も好きな女の一人くらいいねーのか?』『う〜ん…いっそのこと見合いでもさせようか?上手くいけばからかう対象ができるし、いかなくても嫌がらせにはなると思うしな〜』『おお!そりゃ楽しいな!よし、今すぐやろーぜ!!どうせなら嵐の日に!』って感じで話を進めたに決まってますよ」 「うわぁ……容易に想像できるあたりが虚しいなぁ…」 「まったく…何であんな腹黒いのが王なんでしょうね」 「ハハハ……(いや、仮にも自分の親だろ?しかもお前、人のこと言えないって)」 「俺は親と認めてませんし、失礼なこと思わないで下さい」 「心を読むなっ怖いからっ(涙)」 ……もう一度言いますが、二人は無二の親友ですよ?たとえ上下関係が浮き彫りになっていても親友なんです。 ゴロゴロゴロ・・・ 「ん?」 「あ〜・・(当然過ぎて今更驚けないけど)嵐かな?」 「みたいですね」 「船、沈没するよな…これは」 「間違いなく。荒れ狂う海を泳ぐなんて無理ですし、沈没したら運を天に任せましょうか」 「…………お前は何があっても生き残りそうだな……」(フッ) 「……ねえ、モー子さん。これが『そら』の色なの?」 「あらら……運が悪かったわねぇ。ちょうど嵐の日に出てきちゃったみたいよ?」 海の上に顔を出した二人の人魚の前に広がっているのは、どんよりとした黒い雲と時折見える稲光でした。 想像していた「そら」と全く異なる光景にキョーコが疑問の声を上げると、奏江は首を振ってそれに答えました。 「えーーっ!?楽しみにしてたのにーーーっ」 「そんなこと言っても、天気ばかりはどうしようもないじゃない」 「それはそうだけど……って、ちょ、ちょっとモー子さん!!ああああああれ!」 「どうしたのよ?…………何やってんのよ、あの船。こんな嵐の日に海に出るなんて、死にたいのかしら?って言ってるそばから豪雨になってるし」 「そんな落ち着いてる場合じゃないでしょーーーっ!?助けなきゃ!!」 他人事のように(実際他人事ですが)話す奏江とは対照的に、キョーコは大慌てで船に向かって泳いで行きます。奏江はやれやれ、と肩をすくめました。 「……相変わらずお節介ねぇ。仕方ない、手伝いましょうか」 二人が船に近づいた頃には、案の定客船は転覆し、多くの人が海に沈んでいっています。 彼女達はその美しい歌声で人魚を含めた海の住人を呼び寄せ、人命救助を始めました。 「もーーーっ!何人いるのよこの船!!全員助けたのかどうかわかんないじゃない!もーーっ」 「お、落ち着いてモー子さんっ!この何故か防水加工になっている乗船名簿によると、あと二人よっ」 「…………まるでこうなることがわかっていたかのような用意周到さね……防水加工の乗船名簿を作るくらいなら、初めから海に出なきゃいいのに…」 そこをツッこんではいけません。(企画・発案者は、あの腹黒王とチンピラ王ですからね) 「あっ!?モー子さん、あそこに二人いるわ!!」 「ほんとね。ほら、行くわよ!」 最後の二人を海岸にまで運び終わったその時、先程までの嵐がウソのように空は晴れ渡りました。 キョーコは瞳を奪われています。しかし、それは憧れの「そら」にではなく、自分の助けた人間にでした。(ちなみに、奏江も自分の助けた人間に瞳が釘付けなっています) 艶やかな髪。非常に整った容姿。極め細やかな肌。引き締まった体格。 瞳は閉じられていてわかりませんが、彼を構成する要素全てが、まるで芸術品のような美しさです。 (うわぁ…こんな綺麗な男の人、初めて見たわ……やだ、何かドキドキしてきたっ///) 初めて経験する胸の高鳴りに、キョーコは戸惑いを隠せません。そう、初恋すらしたことのない彼女は、彼に「一目惚れ」したのでした。 「………う…ん……」 ビクゥ!!! 不意に漏れた呻き声に、キョーコは過敏に反応しました。人魚が人間の前に姿を見せることは、固く禁じられているからです。ですが、足?の上に彼の頭を横たえているため、すぐに逃げ出すことはできません。 その間に、彼の瞼が開かれてしまいました。 「…………ん……ここは…?」 「あ、あの、その…」 「……え?君は…」 「あう……そ、そのぉ、私は……」 状況把握をしようと頭を振りながら周りを確認する彼にここが海岸であることを伝えようとし、上手く言葉にならずどもっていると、キョーコに気づいた彼の瞳が驚いたように開かれました。その瞳は想像していた以上に美しく、ますます言葉が閊えてしまいます。 ガシィッッ!! どうしようかとオロオロしているキョーコの手を、突然握り締める彼。 「うわっ!?な、なにっ!?」 「お嬢さん……俺と結婚してください」 「…………はい?」 「その指を這わせたくなるような白い肌!「んなっ///」奪いたくなるような艶やかな唇!「ちょっと!?」そして何よりその澄んだ瞳!!俺の相手は君しかいないっ!さぁ、今すぐ結婚し」 「待って待って待ってーーーっ」 ツッコミどころ満載な理由を振りかざしつつ話を進める男性に心の底から制止をかけると、彼は不思議そうに首を傾げました。 「なに?」 「『なに?』じゃありませんっ/// 何ですかその無茶苦茶な理由はっ!!」 「どこが無茶なんだ?俺の正直な気持ちなんだけど?」 「〜〜〜〜っ/// だ、第一名前も知らないのに…」 「ああ、ごめんごめん。俺の名は蓮だよ。君は?」 「あ…私はキョーコといいます」 「へぇ、キョーコちゃんか。君にピッタリの可愛らしい名前だね」(にっこり) 「ど、どうも……/// ってそうじゃなくて!!そもそも私は人魚だから人間のあなたと結婚なんて無理なんですっ」 「人魚……?ああ、ほんとだね。で、それが?」(さらり) キョーコの足を確認した蓮は一度大きく頷き、何でもないように切り替えしてきました。これには二の句が継げず、キョーコは口をパクパクさせるしかありません。 |