二人の人魚姫 中編





「そんなことより、『あなた』なんて他人行儀な呼び方じゃなく、『蓮』って呼んで欲しいな。俺も『キョーコ』って呼ばせてもらうし」

いや、他人だから。とキョーコは思いましたが、とても口に出せる雰囲気ではありません。なぜなら、蓮がキョーコの腰を抱き寄せて密着してきたからです。

「ななななななっ!?」
「キョーコは俺のこと、嫌い?結婚なんてしたくない?」
「そ、そんなことは……/// け、けど、私、人魚だし…」
「俺はキョーコが人魚でも構わないよ?『君』を好きになったんだし」
「…………ありがとう…でも、やっぱり……」
「……そうか。なら、君が人魚じゃなければ問題ないんだね?」
「へ?」
「『人間が人魚になる方法』は聞いたことないけど、『人魚が人間になる方法』ならあるらしいから。それがわかれば、俺のために人間になってくれるか?」
「……うんっv」

真剣な眼差しで再びプロポーズをしてきた蓮に、キョーコは小さく頷きました。
と、そのとき――

「ちょっとそこっ!イチャついてないでこの人を助けなさいよ!!意識を取り戻してくれないんだから!!」

全く意識を取り戻さない男性を心配していた奏江ですが、隣でじゃれ合う二人にブチ切れてしまったようです。
彼女の怒声を浴びて、二人はそちらに視線を向けました。

「――ああ、社さんも助かったんだ」
「あの人、社さんっていうんだ。知り合い?」
「知り合いだけど……今は君を人間にする方法を探すことが先決だし。さ、行こうか?」
待ちなさいっ!!どう考えてもこの人を助ける方が先決でしょ!?」
自分で目覚めない社さんが悪いんだから放っておけばいいさ」(キュラリ☆)
「(こ、この……っ(怒) そっちがそのつもりなら……)
ああそう?なら私は人魚が人間になる方法を知ってるけど、彼を助けることの方が先決だから教える必要な」
「今すぐ起きてください社さん。さもないとありとあらゆる責め苦を「起きましたーーーーーっ(涙)」それでいいんです」(にっこりv)

蓮の黒オーラをその身に浴び、長年の経験から命の危機を察した社は飛び起きました。


「って……あれ?ここは?」
「海岸よ。あなた達の乗っていた船が沈没したから、私達が救助して回ったの」
「あ、それはどうも……俺は社倖一。助けてくれてありがとう」
「え?あ、いえ…私は琴南奏江です」
「へぇ〜奏江さんか。……いい名前だね///」
「あ、ありがとう///」

こちらもまたいい雰囲気になっています。――が、

「愛を語るのは二人の勝手だけど、さっさと人間になる方法を教えてくれないかな?」
「「なっ!?///」」
「俺は今すぐにでもキョーコと結婚したいんだ。それを邪魔するなら、今度は永遠の眠りにいざなってあげますよ?社さ
「はいはいはいっ!教えればいいんでしょ教えればっ!!私達人魚が人間になるには王に頼んで薬をもらえばいいらしいわ!!」

これでいいでしょ!と言うように額に手を置く奏江に、

「「ならそれを是非使ってくれ」」

何故か重なる二つの声。一つは言わずと知れた腹黒王子・蓮の声。そしてもう一つは――

「…………倖一さん?」
「あ、いや、その……俺も奏江さんと結婚したいなー、なんて///」
「……そ、そう///」
「うわぁ…モー子さん、カワイ〜vv」
「う、うるさいわねっ///」

真っ赤になる親友に感動しているキョーコに、奏江は照れ隠しで声を荒げています。それもまた可愛いですね。

「とにかく。俺達は海底に行けないし、二人で薬をもらってきてくれるかな?帰ってくるまでここで待ってるから」
「…………(お前なら手段を選ばず海底に行きそ)」
社さん?「は、はいっ」何を当たり前のことを思ってるんですか?もちろん、彼女達が戻ってこなかった時には国の総力を挙げてでも行きますよ?」(に〜っこり)
「だ、だよな…」
「――ということだから。ちゃんと帰ってくるようにね?
「「りょ、了解しました……っ」」

有無を言わせない笑顔で確認された人魚二人は、顔に冷や汗を浮かべてコクコクと頷き、海底へと潜って行きました……







海底に戻った奏江とキョーコは、待っていたマリアに事情を説明しました。

「……なんか、凄い土産話ね」
「いや、土産話じゃないから。」
冗談よ、お姉様v 事情はわかったわ。早速おじい様に頼みに行きましょ!」
「その必要は無いっ」
「「「〜〜〜〜っ!?」」」

突然割って入った声に、三人の心臓が今にも止まりそうなくらい悲鳴をあげます。

「お、おじい様……どこから降って湧いたのよ……」
「はっはっはっ!話は聞かせてもらった!愛のためなら助力は惜しまん!!薬なら喜んで渡そうっ」

ローリィは軽快に笑いながら無造作に二つの小瓶を取り出し、奏江とキョーコに渡しました。「人間の前に姿を見せてはいけない」という法はどうなったのでしょうか?(愛があれば不問なのでしょうね…)

そのどぎついピンク色の液体をマジマジと見つめる二人。

「……これって、副作用でもあるのかしら?」
「……ありそうよね。たとえば『声が出なくなる』とか」
「心配には及ばん。そんな副作用はないからな。大体、声が無くては愛が語れないだろう」
「はぁ……」
「あくまでそれが基準ですか……」

ぐったりと疲れる二人ですが、何はともあれこれで目的は果たせました。後は海岸で世紀末へのカウントダウンを開始しているだろう二人の男性の所へ戻るだけです。
海上へ浮上しようとしたその時、キョーコはマリアの方を振り向きました。

「……マリアちゃん。私達は人間になるけど、また会いましょうね?」
「そうよね。私達は元・人魚なんだから、問題ないでしょうし」
「……ええ!またね、お二人とも。お幸せにv」


こうして、二人はマリアとしばしの別れを告げたのでした。







「…………遅いですね。国力総出で探しに行きましょうか?」
「ってまだ一時間だろ!?」
「何を悠長なことを言ってるんですか!?もう一時間ですよっ!?」
「ここと海底の往復にどれだけ時間がかかるのかわかんないんだし、もう少し待てって!」
「……わかりました。そこまで言うのなら、あと一分待ちましょう
「みじかっ!?」

蓮のあまりの短気さに思わずツッこんでしまいます。
――と、ちょうどその時、海面に幾数の気泡が立ちました。そして、彼らの待ち人が姿を現します。

「蓮、ただいま〜v」
「おかえりv キョーコvv」

熱烈な歓迎をする蓮の隣で、社は滝のような涙を流しながら出迎えてくれました。

「本当にタイミングよく帰ってきてくれたっ(涙)」
「……大体事情はつかめたわ。お疲れ様、倖一さん」
「ありがとぉーっ!奏江さんっ」

明らかに自分より年上の社の頭を、よしよし、と撫でる奏江に感極まる社。なるほど、とても相性のいいカップルですね。








そんなこんなでいつの間にか用意されていた服を掴み、ローリィからもらった薬を岩陰で飲んで服を着た彼女達を引き連れ、王子達は新開王国の城へと向かったのです。













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