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<眠れる森の美女> ペローの童話。 子どもができないで悩んでいたある国の王と王妃に美しい王女が生まれた。国中の魔女が誕生の祝宴に招待されたが、ただ一人招待されなかった魔女が腹を立て、王女が十五歳でつむに刺されて死ぬようにと呪う。しかし、もっとも若い魔女が死なずに百年間眠るというように呪いを和らげる。 王は国中のつむを焼き捨てさせるが、王女は隠れて麻をつむいでいた老婆がもつつむに手を触れ、呪い通りに刺されて眠りに落ちる。城中の人々もすべて眠り、城の周囲にはいばらが生い茂り、城を厚くおおってしまう。百年の後、王子が来て眠っている姫にキスをして蘇生させ、二人は結婚する。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
眠らぬ怨キョの中の美女 前編 ある国に、優しい風貌の王と黒髪美人の王妃がいました。 彼らは大変仲睦まじいのですが、なかなか子供が授かりませんでした。誰に対しても分け隔てない態度で接する素晴らしい為政者なので、問題と言えばこの跡継ぎがいないことと、王が機械クラッシャーな為に王城内の全てが非機械仕様となっていることくらいでしょう。 ですが、問題の一つは解消されました。二人の間に愛らしい王女が生まれたのです。 その事を号泣しつつ喜んだ王は、盛大な祝宴会を催したのでした。 キョーコと名付けられた王女の誕生祭には、近隣諸国の王族や貴族、魔法使いが招かれました。 本音を言うと、王と王妃は個性が強烈過ぎる魔法使い達を招きたくありませんでした。彼らとは色々とあったのです。そう、色々と…(ホロリ) ですが、招いても招かなくても彼らなら堂々と入り込んでくること間違いなしなので、開き直って招待することにしたのです。 <贈り物1> 「久しぶり〜、社君に奏江ちゃん。でもってオメデトさん♪」 「(きたぁぁぁぁっ!!)あ、ありがとうございます…」 「……ようこそいらっしゃいました」 「へ〜、この子が待望のキョーコちゃん?可愛いねェ……きっと将来は美人さんになるな♪」 「…………新開さん」 「ん〜?」 「別に年齢差をとやかく言うつもりはありませんが…さすがに反対しますよ?」 「もはや犯罪よね」 「おいおいおいおい…普通に褒めただけだろ〜?どうしてそうなる?」 「「あなたが言うと犯罪臭く聞こえるんです。」」(きっぱり) 「………ふぅ〜〜〜ん?そんな風に俺の事思ってたワケね……わかった。なら望み通りにしようか」(にやり) 「「……は?」」 ポンッ 「『一年で十六年分成長する』――俺からキョーコちゃんへのプレゼント♪」 「「はぁっ!?」」 「これなら二年後には俺とつり合う32歳だ♪犯罪じゃないだろ〜?」 「なんてコトをーーーーっ(涙) そんな事したら数年で寿命を迎えちゃうじゃないかーーーーーっ!!」 「身体だけ成長しても心は二歳児でしょ!犯罪に変わりないわよっ(怒)」 「大丈夫大丈夫。二年経ったら魔法解くし、心の成長も身体に見合うものだから♪」 「「ちっとも大丈夫じゃないっ」」 「(スルー)二年後が楽しみだな〜♪んじゃ、俺帰るわ」 「「帰る前に魔法解いていけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」 「やだも〜〜〜〜ん」(逃走) <贈り物2> 「よっ!どうしたんだ、お二人さん。随分と顔色悪ぃな?」 「(次はこっちかっ!?)どうもこうも…っ」 「腹黒魔法使いがキョーコにとんでもない魔法かけて逃げたのよ!!責任とって解除してっ」 「あ゛あ゛?何で俺がンな面倒な事しなきゃなんねーんだ?」 「あなたの相棒が仕出かした事でしょーーーっ!?」 「同じ職種ってだけで、別に相棒じゃねーよ。ま、やってやらんこともないが」 「「お願いしますっ」」 「はいはい。よっぽど切羽詰ってたんだな〜〜〜お二人さん」 「当たり前でしょっ」 「本っ当に感謝します!俺、今まで黒崎さんを誤解してました!」 「あん?」 「実はその顔で魔法使いなんてファンシーな職業似合わないよな〜〜〜とか『その道の人間』って言われた方がしっくりくるよな〜〜〜とか思ってました!」 「…………ほぉ…?」 「あ、私も。本当はチンピラなんじゃないの?とか転職した方がいいんじゃない?とか思ってたわ」 「……………ほほぅ…」 ボフッ 「あ。悪い悪い。間違って違う魔法かけちまった」 「「え゛?」」 「まー心配すんな。『長身で美形で財力もあって魔王気質の男に出逢う』ってだけだからよ」 「「心配するわっ」」 「別にいいじゃねーか。『長身で美形で財力もある男』だぜ?姫さんの相手には願ったり叶ったりじゃねーの?」 「その後の『魔王気質』が問題だっ」 「あくまで出逢うだけだって。その後どうなるかは知らねーな。ま、そういうことで俺も帰るわ」 「「その前に魔法を解けっっっ」」 「(スルー)じゃーな」 <贈り物3> 「…大丈夫ですか?二人とも」 「あ、あんまり大丈夫じゃないです…(涙)」 「や、やっと和みキャラが……」 「和み…?」 「「気にしないで下さい。」」(きっぱり) 「??」 「あ、それより緒方さん!さっき腹黒魔法使いとチンピラ魔法使いがキョーコに変な魔法かけてトンズラしたんです!解除してくださいっ」 「腹黒とチンピラ……?あっ、新開さんと黒崎さんですか?うわぁ、見事なまでに二人を表した呼び方ですね!凄いですっ」 「「は、はぁ…(何気にキツイな、この人…)」」 「……でも…あの二人が遊び心でかけた魔法でしたらお力になれません……彼らが面白がって開発した魔法は、いじると余計厄介なものになりやすいんですよ…」 「…………あの二人を呪えないかしらね…?」 「…………激しく同感だよ…奏江さん…」 「ああっ、落ち着いてください…っ!僕から二人の魔法に影響されないプレゼントを贈りますからっ」 ぽふっ 「「…………(気の抜ける音…)」」 「えっと…『悪魔より邪悪にして闇よりも闇色のオーラ』を発せるようになりましたっ」 「「緒方さぁぁぁぁんっ(涙)」」 「ど、どうしました…?」 「なんでそんな魔法なんですか!?」 「え??どんな状況も打破できるかな?って思いまして…ダメでした?」 「ダメです!!即刻解除してくださいっ」 「ご、ごめんなさい!今の魔法は覚えたばかりで解除の仕方を知らないんです…っ!僕のバカバカバカバカバカーーーーっ(滝涙)」 「お、緒方さん!落ち着いてっ」 「悪気があったわけじゃないんですしっ!もういいですからっ」 ――とまあ、こんな感じで王女を筆頭に、王と王妃にとって災難以外の何でもない調子で祝宴会は進みました。 そして宴もたけなわというところになったその時、一人の若い魔女がクラシックバレエを踊りながら現れました。 「げ。」 「お久しぶりね、琴南さん!いえ、今は王妃様、とお呼びした方がいいかしら!?」 「…どっちでも好きにすれば?で、何の用?お付きの人達も連れずに来るなんて、珍しいこともあるわね?」 「ふんっ!この私を祝宴会に呼ばないなんてどういうつもり!?」 「私に呼ばれても嬉しくないと思ったからよ。他意はないわ」 「ええっ、嬉しくなんてないわ!けどね!シカトされるのもムカつくのよ!!」 「(…はぁ)……私にどうしろって言うのよ?」 「あなたにしてもらう事なんて何もないわっ!私はただ、あなたの大事な娘に呪いをかけに来ただけだもの!」 彼女は腰に手を当て、高飛車に笑いながら宣言しました。 そして、王妃の驚愕に満ちた表情を見てやろうと視線を戻し―― 「……な、何よ!その哀れむ様な瞳は!?」 「…………残念だけど。もうこれ以上ないくらい呪い(魔法)をかけられまくってるのよね、この子。高園寺さんの呪いが増えたところで驚く要素がないと言うか何と言うか……」 「…な…な…な…何ですってーーーーーーっ!?」 「正直な話、あなたなんかより格段に性質の悪い魔法使いズの仕業だし。好きにしてちょうだい」 王妃はすでに諦めの境地です。王もそっと目頭を押さえてますが、同意見のようですね。 「言ったわね!?後悔しても知らないわよ!?」 ぱすっ 「…………失敗した音?」 「違うわよ!(怒) いいこと!?『王女はあるキーワードによって男不信になる』のよっ」 「……フッ」(嘲笑) 「カワイイ呪いだな〜〜・・で?キーワードは?」(にこにこ) 「(この私をコケにして〜〜〜〜っ)『地味で色気のない女』よっ」 ((((……それって、呪いかけられなくても男不信になる人はなるんじゃない?)))) その場の全員が同じことを思いましたが、それは言わぬが花ってヤツです。折角自分の呪いに酔いしれているのですから、そのままにしておいてあげましょう。 誰もが無言となったことに自分の呪いがいい出来栄えなのだと思い込んだ魔女は、乱入時のように踊りながら「せいぜい苦しむことね!!」と捨て台詞を吐き、退出していきました。 残された参加者の間に気まずい雰囲気が漂っています。 それを破ったのは、誰よりも煌びやかで目を覆いたくなるような格好をした魔法使いでした。 「安心しなさい。俺の力で彼女にかけられた呪いを和らげてやろう」 「た、宝田さん…」 「……あなたの魔法が一番怖いんですけど」 「それに呪いを和らげるくらいなら、その前にかけられた魔法の数々を何とかして欲しいんですが」 随一の魔法使いであるローリィ宝田ですが、個性の強さもまた、群を抜きん出ています。 王と王妃には、一抹どころか怒濤の勢いで不安が押し寄せてきました。 その二人の心を知ってか知らずか、彼は朗らかに笑って言い放ちます。 「では、『呪いにより王女は男不信になるが、必ず真の愛に目覚める。その時、全ての魔法が解ける』――というのはどうだ?」 「…何故『真の愛に目覚めた時』なんです?今すぐ解けないんですか?」 「解けん。何故なら――…」 そこで一度区切り、ローリィはマントをバサァッ・・と翻しました。 「俺の力が『愛』によってしか発動せんからだ!!」 その場の全員が脱力し、そのまま祝宴会がお開きになったことは言うまでもありません…… |